678 閑話・セラフィーヌは考える
ああ、クウちゃんが1人で2階に上がってしまいました。
心配です。
クウちゃんのことですから、少し休めばケロリとするのでしょうけど……。
クウちゃんは、この島に来てから少し変です。
突然、挙動不審になることが多くて……。
わたくし、セラフィーヌは、クウちゃんのためとあらば、ひと肌でもふた肌でも脱ぐつもりなのですが……。
一体、本当に、どうしてしまったのでしょうか。
この島には、クウちゃんをそうさせる、なにかスイッチのようなものが存在しているのでしょうか。
わたくしが見てきたところ……。
そのようなものは感じられませんでしたが……。
ともかく今は、わたくしが頑張る時なのですっ!
クウちゃんの名代として、精一杯やるのですっ!
「それでセラ殿。某達は、このタム殿に何を教えれば良いのでしょうか」
ヒオリさんに聞かれて、私は困りました。
つい、「さあ……」と言いかけてしまいましたが……。
それではいけませんっ!
クウちゃんの意図を、しっかりと察するのです!
わたくしがっ!
巫女としてっ!
でも、なにも思い浮かびません。
わたくしの心は、まるで青空です。
クウちゃんの頭のようです。
はっ!
ちがうんです!
わたくし、クウちゃんの頭が空っぽと言いたいわけではないのですっ!
髪がっ!
そう、クウちゃんの空色の髪が!
キラキラと輝いて光に満ちていると言いたいのです!
そう。
青空なんですっ!
光がまぶしすぎて、その先にあるものが見えないのですっ!
はっ!
わたくしともあろうものが、クウちゃんの意図がわからない!?
それを……。
認めているっ!?
はうううううう!
これでは、これでは親友失格になってしまいます!
なんでもいいから何か言わないとぉぉぉぉぉぉぉ!
ここでアンジェちゃんが言いました。
「まずは、精霊神教の儀式を覚えてもらえばいいんじゃないかしら? 巫女の仕事と言えば基本は祈りよね」
「そうですねっ! わたくしも、そう思います!」
ナイスアイデアですっ!
わたくしは、即座に乗っかりました!
「ねえ、エルフのお姉さん。お姉さんも精霊様の巫女なんだよね?」
あ、放って置かれたタムちゃんが、勝手にエルフ族の巫女、リリシーダさんに話しかけてしまいました。
リリシーダさんは、リザードマンと話すことに慣れていないのでしょう。
明らかに戸惑った顔を見せましたが――。
「え、ええ……。そうです……」
と、わざとらしい笑顔ながらも、友好的に返事をしました。
「なら、タムと一緒だねっ! 仲良くしようねっ!」
タムちゃんが一気に距離を詰めてきました。
リリシーダさんが、視線でマリエさんに助けを求めます。
これが昨日までならば、おそらくリリシーダさんは、冷たく拒絶して近寄ることもなかったのでしょう。
でも、たったの1日で状況は大きく変わりました。
「そうね。まずは2人に交流してもらいましょうか。タム、リリシーダさんに勉強した儀式を教えてあげて」
アンジェちゃんがテキパキと話を進めます。
「うん! わかった!」
「リリシーダさんも、エルフ族の巫女として、普段、どういう儀式をしているのかをタムに教えてあげて」
「いえ……。しかし、それは……」
リリシーダさんは、頭の回転の早い方なのでしょう。
断りかけて――。
「わかりました。伝えさせていただきます」
と、頭を下げました。
というわけで。
2人には別室に移ってもらいました。
島のエルフの儀式に興味を持ったヒオリさんとスオナちゃんが、監督という名目で同席することになりましたが。
わたくしたちだけになったところでアンジェちゃんが言いました。
「クウの目的は、エルフとリザードマンの友好よね。だからまずは、あの2人に仲良くなってもらうべきよね。クウがタムを選んだのは、きっと、差別意識のない心の綺麗な子だったからよね」
「で、あるな。クウちゃんの行動に無駄はないのである。常に先を読み、よく考えているのである」
フラウさんがうなずきます。
なるほど……。
そうだったのですね……。
わたくしは感心して、落ち込みました。
わたくしは、クウちゃんの意図に気づけませんでした。
わたくしは、正直……。
あるいは……。
クウちゃんはいつものように、その場のノリだけで、もしかしたら意図なんて何もなく適当に言っただけなのかも……。
なんて……。
とんでもないことを、思ってしまってもいました……。
と、ここでわたくしは、さっきからニコニコとしているだけのマリエさんの存在に気が付きました。
「マリエさん」
「……どうしたの、セラちゃん?」
「今回の勝負は引き分けですね」
マリエさんも、わたくしと同じでしたよね。
「え。あの、さっき、勝負は」
「いいえ。ちがいます」
そのことではありません。
「クウちゃんの深い深い意図についてです」
共に気づけませんでした。
「意図って……。仲良くしてほしいってだけのことだよね? そんなに深いことではないと思うんだけど……」
「引き分けでしたね」
「う、うんっ! そうだね! そうだったよー! あははー!」
「マリエさん」
「……はい」
「握手、しましょう。共に未熟なわたくしたちですが、これからもクウちゃんの立派な巫女となる為、切磋琢磨していきましょう」
「あのー、私……、一般人だし、巫女になりたいと思ったことは……。普通の友達でいいんだけど……」
「頑張りましょうね」
「は、はい……」
競い合える仲間がいるというのは、幸せなことですよね。
これからもマリエさんとは、競っていきたいと思います。




