673 セラ、語る!
「――貴方たち、先程から黙って聞いていれば好き勝手なことを。わたくしのクウちゃんに向かって、なんと失礼な。わたくし、これでも温厚な方ですが、今はもう感情が沸騰して溢れ返りそうです」
武器を構えたリザードマンの青年たちの矢面に立っても怖気づくことなく、セラがとても静かに告げた。
「あの、セラさん……。溢れ返らなくてもいいからね?」
そのあまりにも静かな様子に、私こと最強無敵のクウちゃんさまは、正直、少しだけ怖気づきましたが。
「いいですか、よくお聞きなさい」
そんな私に構わず、セラが言葉を続ける。
「な、なんだよ……!」
リザードマンの青年たちも、なんだか気圧されている。
「こちらにおわすクウちゃんこそが、わたくしたちの国で1番の、わたくしたちの大陸で1番の――。いいえ、この世界で、この宇宙で、すべての中で1番の、最高に可愛くて最高に素敵な存在なのです!」
最後はもう、どーん!って効果音が聞こえ、背後で爆発でも起きていそうなセラの力説だった。
ただ、それでも話はおわらず……。
しっかりと力を溜めてから、セラはさらに続けた。
「その素晴らしさの前には――。力も、大きさも、残念ながら鱗も、何もかも関係がないのです。さあ、よくご自身の目で御覧なさい。そうすれば、ほら――クウちゃんの素晴らしさがわかりますよね?」
「わかるわけねぇだろ! エルフなんて、みんな同じ顔だろ!」
反射的にリザードマンの青年の1人が叫んだ。
「は?」
「ひっ」
セラに純白の眼差しを向けられて、叫んだ子は怯んで尻餅をついた。
今、一瞬……。
セラの体から光のオーラが発生していたね。
「いいですか? クウちゃんこそが正義。クウちゃんこそが真理。クウちゃんこそが価値観なのです。それがわからないなんて……。わたくしは今、あまりの悲しみに涙も流れてきません」
あのー。
セラさん?
どうしちゃったのかなぁ。
「クウちゃん」
「は、はい!」
いきなりセラが振り向いて、私はビクッとした。
「剣を貸してください」
「いいけど……。どうするの……?」
私は言われるまま、だけど警戒して、練習用の木剣を渡した。
「ここはお任せください。彼らは、わたくしとアンジェちゃんで引き受けます」
「私もっ!?」
鬼気迫るセラの姿を他人事のように見ていたアンジェが、いきなり巻き込まれて驚いた声を上げる。
「はい。クウちゃんの素晴らしさを、共に彼らに教えましょう」
セラがにっこりと笑った。
「剣で?」
アンジェがたずねる。
「はい」
セラがうなずくと、ここでリザードマンの族長が、ついに、おそるおそるながらも当然の疑問をぶつけた。
「……あの、巫女様。……いったい、何を」
うん。
それは私も思いました。
「巫女……。ええ、わたくしは、精霊様の巫女。その声を、お届けする者です。安心してください、族長。この者たちにも、きっと声は届きます。ここはわたくしたちに任せていただけますか」
「精霊様――」
族長が困り顔で私に助けを求める。
「えっと……。じゃあ、セラ、お任せしちゃっていい……?」
私はいろいろと投げ捨てた。
だって、アレだし。
うん。
アレだし。
「はいっ! もちろんです! クウちゃんは、目的を果たしてくださいっ!」
「じゃあ、みんなに防御魔法をかけるね」
「あ、そうなんだ」
アンジェが意外そうに言った。
「さすがにね。怪我をさせる必要まではないよね」
私が苦笑して答えると――。
「……そういうことなら私も、付き合ったほうがいいのよね」
「はい。どうぞ」
私はアンジェにも木剣を渡した。
「ありがとう、クウ。じゃあ、せっかくだし、少し腕試しさせてもらおうかな」
アンジェは木剣を握ると、軽く振るった。
私は、敵味方を問わず、みんなに防御魔法をかける。
「これは……。魔術だ……!」
「え? なんで!? 俺達、呪われたのか!?」
「なんだこれ! 体が熱いぞ!」
「鱗が、変だぞ!」
「さあ。伝道して差し上げます」
私の防御魔法に驚くリザードマンの青年たちの前で、セラが自らに身体強化の魔法をかけた。
セラの体が一瞬、白い光に包まれる。
「同じく」
アンジェも風の魔力で身体強化した。
「な、なんという強力な加護――」
族長は驚いているけど、青年たちに魔術の知識はないようだ。
「おいっ! おまえら、これは俺達を呪ったのか!」
青年たちは、突然の効果に戸惑っている。
「違います。クウちゃんが強化してくれたのです。呪いなどでは決してないことはすぐにわかります。安心してください」
セラが微笑む。
ふむ。
「じゃあ、族長さん。洞窟に案内、お願いします」
私は言った。
「いや、しかし……」
「ささ」
「はい。わかりました……」
私が促すと、族長さんは戸惑いながらも洞窟への案内を再開してくれた。
私が見る限り、実力はセラとアンジェの方が圧倒的に上だ。
それなりに休憩したので、『フェアリーズ・リング』のMP自動回復の効果でMPも回復している。
セラの暴走が心配と言えば心配だけど……。
大変なことにはならないはずだ。
うん。
信じようっ!
セラは大丈夫な子だ!
アンジェがいれば、さらに大丈夫!
つまりは問題なし!
リザードマンの青年たちには、敵反応も出ていないしね!
私は早く、アイテム探しがしたいのだ!
不定性霊水晶、あるといいなー!
目指せ、ゴーレム軍団!
 




