671 がんばれ♪ がんばれ♪
昨夜の宴の片付けをささっとした後は、リザードマンの集落へ遊びに行く。
遊びに行く許可は、昨日、取った。
参加者を募ったところ、セラとアンジェが手を上げた。
なので3人で行く。
学院生トリオだね。
エミリーちゃんにヒオリさんにフラウ、それにスオナは――。
すっかりゴーレムに夢中だ。
大切な『心核』はヒオリさんに渡しておいた。
案外、私がリザードマンと交流している間に、ゴーレムの生成に成功させてしまうかも知れない。
なにしろヒオリさんとフラウは優秀な技術者。
スオナは魔力操作に優れた学年主席の秀才。
私の黒魔法なしでも生成できるのなら、それはすごいことだ。
「マリエとゼノはどうするの? 一緒に来ない?」
「ボクは遺跡を探索してくるよ」
「あー。そっちもあったねー。マリエは?」
「私はのんびりするよ」
「リザードマンの集落なんて、たぶん、一生に一度しか行けないよ?」
「いいの」
「いいの?」
「うん」
ふむ。
1人で残すのもアレだし、連れて行っちゃおうかな……。
と思ったんだけど……。
「クウちゃん。私はね、海を堪能するよ。この綺麗な海を」
マリエは海を眺め、両腕を広げる。
まあ、うん。
そういうことなら、いいか……。
防御魔法さえかけておけば、怪我をすることもないだろうし。
というわけで。
出発!
と思ったら、アンジェが手を上げた。
「あ、クウ。私、今日は自前の風の魔法で飛んでみてもいい?」
「いいけど……。大丈夫なの……?」
「見てて」
アンジェは腰に下げていたワンドを引き抜くと、それを両手に握って、目を閉じて呪文の詠唱を始めた。
そして、最後に、目を開けて叫んだ。
「フライ!」
おお。
風を取り巻いたアンジェの体が、ふわりと浮かび上がった。
最初、状態が安定せず――。
振り子のようになってしまって私も慌てたけど、墜落することなく、アンジェは空中で制止してみせた。
「どう? 少しはまともになったわよね」
「うん。でも、危険だよ?」
「普通ならね。でも、今日はクウがいるし、防御魔法も掛けてもらっているから平気だと思うのよね」
「まあ、それは、ね……」
加えてアンジェたちは、『精霊の指輪』もはめている。
『精霊の指輪』には、1日に1回とはいえダメージ無効の効果がある。
なので、墜落しても平気とは思うけど。
「それならわたくしも! 『光の翼』!」
セラまで自力で空に浮かんだ。
背中に光の翼を生やした、まさに天使のように見える光の魔法だ。
そう言えば、ユイが愛用している光の魔法のひとつとして、どんな魔法かだけは教えておいたんだった。
セラもアンジェと同じように、最初こそふらついたけど、すぐに状態を安定させて空中でアンジェに並んだ。
「2人とも、パンツが丸見えだよ」
私はため息をついた。
「え。あっ!」
「クウだって、いつもそうでしょ」
「え。そうなの?」
気にしてなかったけど。
「もう! ここではそんなこと、どうでもいいの! ねえ、クウ。普段はなかなか練習もできないし、試させてもらえないかな」
「そ、そうですよねっ! クウちゃん、お願いしますっ!」
「んー。ヒオリさんはどう思う?」
「良いのではと。飛行の魔術は、あまりに危険なので、一般的には、実用の域まで習熟できることは稀です。なにしろ少しでも気を抜けば、制御を失くして墜落してしまうのですから」
「だよねえ……」
「ただ、今は店長もいますし、問題はないでしょう。2人が勝手に飛ばないことだけ約束してくれるのであれば挑戦するのも良いかと」
2人は約束してくれた。
下手に慣れて、私のいないところで大事故。
なんてことになったら……。
私も寝覚めが悪いので、それについてはよくお願いしておいた。
というわけで。
今度こそ出発。
セラとアンジェも空中での移動を開始する。
「2人とも、短い距離だけど、しっかりと集中して、心を乱さないようにね」
「は、はい……」
「ふぅ。――本気で疲れるわね、これ」
「全力疾走しているみたいですね……」
「そうね――。キツイ」
飛行の魔法は、他の魔法よりも負荷が高い。
私でも長時間、あるいは全力で銀魔法の『飛行』を使えば、かなり消耗する。
今は、精霊の種族特性『浮遊』を使っているだけなので楽々だけど。
『浮遊』は、寝ながらでも浮かんでいられる。
代わりにスピードは出ないけど。
青空の中、セラとアンジェの息は、一気に荒いものになった。
「がんばれ♪ がんばれ♪」
私は応援した。
「……またお気楽にぃ」
アンジェにはぼやかれたけど、実際、お気楽だからしょうがないよねっ!
空はどこまでも明るい。
海は綺麗。
エメラルドグリーンに輝いて、本当に宝石みたいだ。
そして、全身に流れる潮風。
心まで洗われるね。
そんな世界の中にいるのだから、気持ちも解放されるというものだ。
内海を越えて、環状の島に入る。
私たちが遊びに行くリザードマンたちの最大の集落は、小さな山を越えれば、もうすぐそこだ。




