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670 ハトちゃん





 食事の後、私はみんなを砂浜に誘った。


「さて。ではこれより、わたくしめがひとつ、魔法を披露したいと思います」

「清掃の魔法であるか?」


 今日の午前は、昨日の宴のお片付けをすることになっていた。

 なのでフラウがそう思うのは自然なのだけど。


「ちがいます」


 今回は、違うのだった。


「じゃーん」


 私はアイテム欄から銀色のボール――レアアイテム『心核』を取り出して、みんなの前に掲げた。


「それは――。魔道具であるな。しかも、高度な」


 さすがはフラウ。

 すぐさま、高い魔力を感知したようだ。


「今からこの魔道具を使って、魔法生物を作りたいと思いまーす」


 お茶目に私がそう言うと、みんながざわめいた。


 代表して、ヒオリさんが言う。


「店長……。生命の創造を、この場で行うのですか……?」

「あ、えっと。ごめん。そこまで大げさではないんだけどね。ゴーレムってわかるよね? ダンジョンにいるヤツ」

「はい……。わかりますが……」

「あれを作ろうと思ってね」

「作れるのですか!?」

「うん」


 この『心核』さえあればね。


 私の生成できるゴーレムには以下の5種類がある。

 サンド・ゴーレム。

 ウッド・ゴーレム。

 ボーン・ゴーレム。

 ブロンズ・ゴーレム。

 アイアン・ゴーレム。

 ちなみに名前に対応した素材は、アイテムひとつ分しか必要ない。

 ウッド・ゴーレムなら、木の枝ひとつ。

 アイアン・ゴーレムなら、鉄インゴットひとつ。

 あとは『心核』を置いて黒魔法『クリエイト・ゴーレム』を使えば、なんかこうふわりと完成する。


 この中で、今回はお試し――。

 実験も兼ねて――。

 もっとも低レベルの、サンド・ゴーレムを作ってみようと思う。

 魔法の砂人形だ。

 ゲーム時代のレベルは1~10。

 はっきり言って弱い。

 ゲームの序盤で、盾役として使い潰すだけのゴーレムだ。


「では、エミリーちゃん。前に出てきてください」

「はいっ!」


 元気よく、エミリーちゃんが私の前に来た。


「ゴーレム生成の魔法は、土属性です」


 ゲームのイベントで、どこかの博士がそんなことを言っていた。

 なので間違いはない。

 はずだ。


「……わたしでも作れるの?」

「もしも作れたら、すごいことだと思うんだよねー。エミリーちゃん、協力してくれるよね?」

「わたし、なんでもやるよっ!」

「じゃあ、まずは土の魔力で、この足元の白い砂から、なにかエミリーちゃんの好きな生き物を作ってみてー」

「はいっ!」


 砂や土、それに岩の整形は、土の魔術の基本だ。

 土の魔術師は、それが出来るからこそ、どこの都市でも町でも、土木の達人として大人気なのだ。


「ねえ、クウちゃん? なんでもいいの? 犬でも猫でも?」

「うん。いいよー」


 イメージしやすいものが1番だし。


「んー」


 悩みつつ、エミリーちゃんが精神集中を始めた。


 一般的には、土の魔術も決まった呪文の詠唱によって行使される。

 岩を砕く呪文。

 土を盛り上げて壁にする呪文。

 土地を平らにする呪文。

 砂を固める呪文。

 目的に合わせて最適化されて、体系化もされている。

 魔術師であれば、誰でも安定して同一の効果を発揮できるようにする、人間の知恵の結晶だ。


 ただ、エミリーちゃんは呪文を使わない。

 というか知らない。

 なにしろエミリーちゃんの魔術というか魔法は、その大半が精霊と竜の教えによるものだ。


「エミリー、頑張るのである。いつもの練習通りで良いのである」

「うん。任せて」


 必要なのは、魔力の収束と、鮮明で具体的なイメージ。

 その2つを完全に重ね合わせる集中力。

 そして、現実へと解き放つ意思の力だ。


 呪文の行使と比べれば、遥かに高い技量が必要とされる。

 ただ逆に、応用の幅は広い。

 イメージ次第で、いくらでも変化が効くのだ。


 さあ。


 エミリーちゃんが何を作るのか。

 失敗することはないだろう。

 エミリーちゃんはすでに、フラウが魔術師としての第一歩を踏み出したと認める程度には、魔法を使いこなせる。


 私は楽しみに様子を見ていた。


「生まれよ! はとー!」


 おお!


 空中に浮かんだ砂のかたまりが渦を描いて――。

 鳩のカタチを取った!


 お見事!


「クウちゃん! できたよ!」

「うん。すごいね。じゃあ、そのまましばらく維持していてね」

「はい……!」


「さあ、みなさん! これよりこの『心核』を、この砂の鳩の中に入れます。すると果たしてどうなるでしょうか!」

「ゴーレムとなるのですか……?」


 ヒオリさんが、おそるおそるたずねる。


「多分、正解です」

「それは……。すごいですね……」

「ちなみにゴーレムって、普通じゃ作れないのかな?」

「はい……。古代ギザス王国の崩壊以降、作られた記録はありません……。失われた技術ですね……」

「へー。そうなんだねー」


 まあ、『心核』の存在が、まったく認識されていないしね。

 やむなし、か。


「じゃあ、ここからまた発展するといいねー」


 ゴーレムは便利だし。


「クウちゃん……! まだぁ……? わたし、そろそろ限界かも……」

「もう少しだけ頑張って。――入れるね」


 私は『心核』を、砂の鳩の中に押し込もうとした。

 だけど思いの外、抵抗があった。


「エミリーちゃん、少しだけ力を抜いて」

「ええ……。でもぉ、それだとぉ……! わたし、壊しちゃうかもぉ……!」

「頑張って。ほら」


 優しい声で促す。

 このままだと入れられないし。


「うやあああああっ!」


 変な声を上げつつも、エミリーちゃんが少しだけ力を抜いた。


「よし。いいよ」


 うまく入れることができた。

 すうっと、砂の中に『心核』が溶けていった。


 私は魔法を発動する。


「――クリエイト、サンド・ゴーレム」


 さあ、どうかな。


 普通だとサンド・ゴーレムとして、マネキンのような砂人形になって、私の指示に従うだけだけど――。


 エミリーちゃんの魔力を受け入れて――。

 鳩のまま――。

 サンド・ゴーレムになってくれるのかどうか――。

 そして、エミリーちゃんをマスターとして認識するのかどうか――。


 これは実験だ。


 私と、みんなが見守る中、砂の鳩が輝く。


 よおおおし!


 白磁のような鳩が生まれて、エミリーちゃんの手のひらの上に乗った!


「クウちゃん! 生まれた! 生まれたよ!」

「エミリーちゃん、なにか指示を出してみて。簡単な指示ね」

「う、うん……。じゃあ、飛んで」


 すると、エミリーちゃんの手のひらの上で、白磁の鳩が羽ばたいた。

 指示に従ったのだ。


「クウちゃん! 動いた! 動いたよ!」

「うん。素晴らしい」


 とはいえ、飛ぶことはできない。

 ゴーレムには、物理的な常識があるようだ。


 あ。


 崩れた。


 べちゃ。


 ハトは砂に戻った。


 エミリーちゃんの手のひらから、さらさらと流れ落ちていく。

 エミリーちゃんの魔力では、ゴーレムの生成には成功しても、行動の負荷に耐えるには至らなかったようだ。

 でも、初めてにしては、十分に手応えはあったね。


「ハトちゃぁぁぁぁぁぁぁん!」


 エミリーちゃんが悲鳴を上げる中、私は白い砂浜の上に転がり落ちた『心核』を拾い上げた。







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― 新着の感想 ―
とうとう『心核』クウちゃん、超レアアイテムの『心核』を実践のために惜しげもなく使っちゃうなんて……! と思ったら再使用可能なんですね 以前作ったゴーレムも回収するつもりだったけど置いてきたって言ってま…
入らないから力を抜いてはちょっとその、いえ何でもありません。心が汚れててすいません
[気になる点] 夢で悪夢にならなければいいけど。
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