664 お魚を食べよう
「ええっ!? お祭りをするんですかっ!」
「うん。明日の夕方ー」
真ん中の島のログハウスに戻って、早速、セラたちに決まったことを伝えると、それなりに驚かれた。
「ねえ、クウ。エルフの人はともかく、リザードマンの人って……。私たちもいて大丈夫なの?」
アンジェが心配するのは、もっともと言えばもっともだ。
なにしろリザードマンは、見た目が二足歩行のトカゲで、ヒトから見れば筋肉質の巨漢ばかりだ。
しかも帝都では見かけることがない。
知らないヒトからすれば魔物に近く感じるのも無理はないだろう。
「平気だと思うよー。むしろエルフの方が心配かも」
「で、ある。リザードマンは、ちゃんと妾の足元に膝をついたのである。強く命じておいたので問題はないはずである」
「エルフの方はねえ……。ボクのことを悪魔とか言うし」
「あはは。まあ、ゼノはあの時、デスサイズと闇のオーラで、それなりに見た目が怖かったしねえ」
「それで……。ねえ、クウ。何が心配なの?」
アンジェが不安げにたずねる。
「選民意識が強そうだから、普通に見下して来そうでねー」
みんなのことを。
「エルフの方は、そういう傾向が強いと言いますよね……。ヒオリさんといると忘れそうになりますけど」
セラが言う。
「じゃあ、私たちが気にしなければいいのよね。大丈夫よ。この半年の学院生活でそれなりに鍛えられてきたから」
「だね」
アンジェとスオナが笑い合う。
ちなみにヒオリさんは、まだ海から帰ってきていない。
エミリーちゃんとマリエと魚を獲っている。
リビングの床に座っているのは、私とアンジェとフラウにセラだ。
スオナは窓際に立って、ゼノは壁にもたれていた。
「それにしても、いい匂いがするね」
セラたちは、どうやらキッチンで何かを作っていたようで、リビングにはその匂いが届いていた。
「あっ! ごめん見てくる!」
立ち上がったアンジェが、あわててキッチンに走った。
「今日のお昼はアンジェのリベンジ企画でね。スープを作っていたのさ」
「そかー」
先日のキャンプでは、そういえばアンジェは、ものの見事に盛大に吹きこぼして惨事を招いていたね。
「わたくしは、今日もサンドイッチを作りましたーっ! 今日は、フルーツを挟んでみたんですよー! 採れたて新鮮です!」
「そかー。……ねえ、スオナ、味見とかはしたの?」
「ああ。バランスは整えたよ」
「そかー」
それはよかった。
「クウちゃんっ! なんでスオナちゃんに確認するんですかー!」
「いやー。あはは」
セラは味見なしで、容赦なく色々と挟みそうだし。
とは口にしない私は優しい子だ。
「クウは慧眼だね。実際、セラはそのままだと、ひたすら酸っぱいサンドイッチを作るところだったからね」
「もー! スオナちゃん! それは秘密ですー!」
「そかー」
私はにこにこしておこう!
そんなこんなの内、水着姿のヒオリさんたちが帰ってきた。
「ただいま戻りましたー」
「クウちゃんっ! 大漁だよっ!」
「おお」
エミリーちゃんの手には、魚でいっぱいの網の袋があった。
「2人ともすごかったよー。魔法でザクザク魚を捕るんだもん。私なんて、海に浮かんでいるだけだったよー」
マリエも楽しめた様子で良かった。
捕れた魚については、私が預かってアイテム欄に入れた。
アイテム欄の説明文で食べられる魚かどうかを確認する。
どれも食べられるようだった。
素晴らしい。
時刻はお昼を過ぎていた。
お腹も空いたので、そろそろランチにする。
魚については、私がカンストの調理技能で、それぞれ5秒をかけて、焼き魚とお刺身へと生成させてもらった。
我ながらチートだ。
とはいえ、今更の話なので、誰も驚かなかったけど。
テーブルがなかったので、スープとサンドイッチと魚料理を、ずらりと床に並べてみんなで囲んで座った。
「あの、クウちゃん……。お刺身もありますけど、このあたりの魚は生で食べても大丈夫なのですか?」
「うん。たぶん」
未知の魚とはいえアイテム欄の表記では食用だし、私の魔法で生成した料理なので寄生虫等の心配はない。
……はずだ。
「ごめん。念の為」
お刺身を、お皿ごとアイテム欄に入れて確かめてみる。
特に変な表記はない。
「うん。たぶん、大丈夫だと思うよ」
「たぶんって……。お腹が痛くなったりしないわよね?」
アンジェにまで疑われてしまった。
「大丈夫! その時には魔法で治すから! ほら、おいしーよー!」
まずは私が食べてみた。
醤油をかけて、ぱくっ。
うん!
お刺身だね!
さすがは私の調理技能、ちゃんと上手く作れている!
む。
ここで私、閃いた!
お刺身と焼き魚。
ノリと勢いだけで開催を決めてしまったお祭りだけど……。
どうせなら……。
エルフとリザードマンがお互いに理解を深める……。
今後は仲良くしていけるキッカケに出来ればと思っていたけど……。
イケるのではなかろうか!
ちなみにアンジェの作った野菜スープは普通に美味しかった。
セラのフルーツサンドも美味だった。
お刺身も、それなりに好評だった。
「ねえ、ヒオリさん。お刺身って、エルフ的にはどうなの?」
「そうですね……。ここまで生々しいと好んでは食べないと思います。エルフも肉は食べますが、基本的には火を通すので。某的には、この新鮮さは、これはこれで良いものだと思いますが」
ヒオリさんはお刺身をパクパクと食べている。
気に入ってくれたようだ。
「ふぅむ」
強引に食べさせようと思えば、できるだろうけど……。
それは、最大限に避けたい……。
難しい問題だ。
と、ここでマリエが口を開いた。
「ねえ、クウちゃん。それならアレがいいんじゃない? ほら、聖都で夜に遊んだ時に屋台で食べた――。なんだっけ――。お寿司!」
「あー!」
「お寿司なら、見た目も可愛いくて、私も気にせずに食べちゃったし、いいかも知れないよ」
「うん! いいかも! ありがとう、マリエっ!」
私はマリエの手を取って感謝した。
「そこまでじゃないよー」
マリエは謙遜するけど、私は思いつかなかった。
えびアボガドとかオニオンサーモンみたいに、魚の上に刻んだ野菜を乗せればさらに食べやすくなるだろうし。
「ありがとう! ありがとう!」
マリエに十分にお礼を言ってから、私は早速、ユーザーインターフェースを開いてお寿司を検索した。
果たして、この海の素材で生成は可能なのか。
それが問題だ。
衛生面にも万全を期すならば、全工程を魔法で済ませたい。
「マリエさん」
「どうしたの、セラ……セラフィーヌ様……。そんなに真顔で……」
「セラちゃん、です」
「あ、はい。……セラちゃん、どうしたの?」
「マリエさんが以前、クウちゃんと2人きりで聖都に行ったことは、わたくし、聞いていましたが……。夜の屋台でお寿司、ですか? そのお話は、今、生まれて初めて聞きましたが……」
「え。あ、だって、そんなに大したことじゃ……」
「……詳しくお話、してくださいますよね?」
「クウちゃーん!」




