表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

652/1360

652 クウとセラのショートコント






 芸をおえて、しばしの称賛を受けた後、大いに満足したキアードくんが観客席に腰を下ろしたところで……。


 おもむろに、セラがつぶやき出した……。


「くうううう……。くうううう……」


 って……。

 ちらちらと私の方を見ながら……。


 いや、うん。

 はい……。


 わかるよ。


 私に言ってほしいんだよね、「クウちゃんだけに?」って。


 でも、ね。


 わかってほしいの。


 そんなあからさまだと、なんだか恥ずかしくて、とてもとても言いにくいの。

 とてとてなの。


 アンジェが肘で突いてくる。

 早く言ってあげなさいよ、と、言っているのだ。


 うん、はい。


 くうう、くうう、されたままでは、次の芸に移れないよね。

 次はスオナとアンジェの番なのに。


 私は勇気を出して言った。


「クウちゃんだけに?」


 するとセラが、ぱぁぁぁぁぁ!っと表情を輝かせて、私の方を向いた。


「え! なんのことですかっ! わたくし、セラフィーヌですよ! クウちゃんじゃないですよ!」


 それはもう楽しそうに、セラが言う。


「ごめん。先にやらせてもらうね。セラ、前に出よう」

「え。あ。はい」

「2番、クウとセラ。哲学します」


 順番を飛ばして申し訳ないけど、私の直感が告げたのだ。

 これは芸だと。

 私はセラと共に前に立った。


「ねえ、クウちゃん」

「え。あの、わたくし、セラフィーヌですよ?」


 私の呼びかけに、セラがキョトンとする。


「ねえ、クウちゃん」私は繰り返して、「くうううの?」

「え? え?」

「ねえ、クウちゃん。クウってなんだと思う?」

「え? あの、食べることですよね? 少し庶民的な言い方として……」


 ふむ。


「食べるんだ!?」


 私は驚いた。


「え!? え!? わたくし、食べちゃ駄目なんですか!?」

「クウちゃんだけにくうよね?」

「食いますっ!」

「じゃあ、クウちゃんは、くうとは、どんなことだと思う?」

「……それは、えっと。栄養を取ること、ですか?」


 ふむ。


「取るんだ!?」


 私は驚いた。


「え!? え!? わたくし、取っちゃ駄目なんですか!?」

「いいよ」

「よかったですぅ。ほっとしましたぁ」

「食べないと死んじゃうしね」

「ですよねえ」

「そう。すなわち。クウとは、生きることなのです」

「生きる……。ですか……?」

「はい。クウちゃんは、クウとはどういうことだと思いますか?」

「え。あの。生きる……」


 言いかけて、セラはなにかに気づいた。


「いえ――、そうですよね。わたくし、失念していました。

 どうしてわたくし、変な質問なんてしてしまったのでしょうか。

 わかっていたはずなのに……。

 クウちゃんとは、すなわち概念!

 クウちゃんだけに、くうううう、とは、すなわち、生きとし生けるものすべてに捧げるクウちゃんの祝福!

 聖なる御言葉ですよね!

 皆が生きるこの世界を……。

 クウちゃんだけに、くうう、と、つなげているのですよねっ!」


 セラが船の上で、両腕を広げて、青い空を見上げた。


「その通りである」


 なぜかフラウが神妙にうなずいていた。

 なぜかゼノも満足げだ。


 ふむ。


 やはり、哲学か。


 私の直感は間違っていなかったようだ。


「クウちゃんだけに、くう!

 クウちゃんだけに、くう!

 ああ……。

 世界は、まさに、祝福されているのですね!」


 セラが叫ぶ。


 そして、私に視線を下ろして、笑顔で手を差し伸べてきた。


「さあ! クウちゃんもお願いします! どうか世界に広げて下さい! クウちゃんだけに、くう、を!」

「え。嫌だよ?」


 そんな恥ずかしいこと。


「え」


 セラの動きが止まった。

 本気で、「なぜ?」と思ったようだ。


 私は冷静に伝えた。


「だって私、今は役割的にセラちゃんだよね? クウちゃんじゃないよね?」

「そんなー!」

「落ち着いて、よく考えてみて? セラちゃんが、くうくう言っていたら、おかしいよね?」

「それは……。そうですね……」

「クウちゃんは、誰?」

「わ、わたくしは……。わたくしは……」

「そう。セラちゃんだね」

「……はい。わたくしは、セラフィーヌです」

「いいかい。人はね、誰かにはなれないのです。故に、自分として、クウ・ネル・アソブしていくしかないのです。セラはセラとして、クウ。それでいいのです。それが1番いいのです」


 私はうなずいた。

 セラは短い時間、考えた後に――。


「ではわたくしは、なんと叫べばいいのですかぁぁぁぁぁ!」


 と、キレた。


 ふむ。


「せらー。とか?」

「せらぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 セラは叫んだ。

 その後、力なくうなだれた。

 そして、つぶやいた。


「……せらー」


 と。


 ふむ。


 〆よう。


「ありがとうございましたぁぁぁぁぁぁ!」


 私は大きな声で言って、頭を下げた。


「ほら、セラも。おわったよ」

「あ、はい。ありがとうございました」


 拍手の中、私たちは観客席に戻った。


 たぶん、私の言いたかったことを、ちゃんと理解できた者はいないだろう。

 でも、それでいいのだ。

 なぜならばこれは哲学。

 答えは最初から有り、最後までないものなのだから。


 ああ……。


 海の上。


 夏の空。


 私たちは、今を生きているのだ。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
なるほどw
[一言] ハイレベルすぎるw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ