650 ぷよぷよ、ぷかぷか
暑い……。
今日は昼まで寝ていようと思ったのだけど……。
無理だった……。
目が覚めた……。
テントは一応、雑木林の近くに立てたんだけど、太陽が高くなって日差しがテントに届き始めたようだ……。
テントの中が蒸し風呂状態になってきた。
私は仕方なく、まだ重い体を引きずって、テントの外に出た。
世界は今日も快晴だ。
とてもとても明るい。
とてとてだ。
砂浜からは、黄色い声が聞こえる。
水着に着替えたアンジェとセラとスオナとマリエが、キャッキャッと波打ち際で遊んでいた。
波に身を任せて、転がったりしている。
楽しそうだ。
「ふぁーあ」
欠伸をしつつ、いったんテントに戻って、私も水着に着替えることにした。
まあ、私の場合は――。
アイテム欄にセットするだけだけど。
はい、完了。
今年の水着は青色のビキニだ。
自分で生成したものではなく、私の工房のとなりにあるブティックで、みんなと一緒に購入した。
みんなで買い物、楽しいよね。
どうせ他には誰もいないんだから、大胆でもいいよねー。
なんて買う時にはアンジェと笑っていたけど……。
キアードくんが普通にいるね。
まあ、いいけど。
ちなみにアンジェは赤いビキニ。
スオナは黒いビキニ。
セラは白いビキニ。
セラは、買う時から恥ずかしがっていたけど、無理にビキニにしなくてもいいよーとは言ったけど……。
結局、悩んだ末、私たちとお揃いにした。
ヒオリさんとエミリーちゃんは、実用重視な競泳用の水着を選んだ。
エミリーちゃんは泳ぎたい。
ヒオリさんは、潜ってタコを捕りたいと言っていた。
私が、タコにはタコ焼き以外にも美味しい食べ方があると言ったところ、ものすごく興味を持ったようだ。
フラウとゼノは面倒なので着替えないそうだ。
2人の服は魔法の服なので、水の中でも負荷にならないしね。
まあ、私の精霊の服もそうなんだけど。
マリエの水着は、私が裁縫技能で生成して渡しておいた。
ピンクのビキニだ。
「おはよー」
私は、波打ち際に座っていたセラのところに行った。
「おはようございます、クウちゃん! もう眠気は大丈夫なんですか?」
「暑くってねー。寝てられなかったよー」
「あー、日が照っちゃってますね……。テントのところも」
「うんー。なので海でのんびりするよー」
海を見れば、ボートに乗ったメイドさんが見守る中、エミリーちゃんとキアードくんが泳いでいる。
ヒオリさんたちの姿はないけど……。
魔力感知すればわかる。
海に潜っているので、タコを探しているのだろう。
「クウちゃん! 起きたんだ! 海って、すっごい気持ちいいねー!」
「おはよう、クウ」
「体調はどうだい? 海は堪能できそうかな」
少し奥にいたマリエとアンジェとスオナが、足で波をかき分けつつ、私とセラのところに歩いてきた。
「アンジェリカさん」
「……どうしたの、クウ? いきなり改まって」
「おめでとう」
「ありがとう。……どうしたの?」
ふむ。
やっぱり、ぷよぷよ選手権はアンジェの優勝だね。
「マリエもおめでとう」
「ありがとう。えっと、なんのことかな?」
「スオナも一応、第3位。おめでとう」
「ねえ、クウ」
「ん?」
「もしかして君は、胸の大きさのことを言っているのかい?」
ぬ。
ストレートに聞かれた。
「ったく。なにオッサンみたいなこと言ってんのよ、アンタは」
アンジェが腕組みして、冷たい視線を向けてくる。
「いやー。あはは」
私は目を逸した!
「わたくしは」
「セラと私は健闘賞だねっ! おめでとう!」
「やったー! やりましたー!」
さすがはセラ!
喜んでくれた!
この後は浮き輪を取り出して、ぷかぷかした。
みんなで、ぷかぷかした。
ぷかぷかクウちゃんずだ。
あー。
太陽が眩しい。
でも、海の上だと、なんか眠たくなるね……。
波は穏やかだし……。
眠りはしなかったけど、かなりのんびりとできた。
気づけば昼だった。
ヒオリさんたちが何匹ものタコを捕まえて帰ってきた。
お見事。
みんなで砂浜に戻って昼食。
タコ料理のリクエストに応えて、今回は魔法で生成することにした。
私の調理技能を以てすれば、パパッと完成だ。
「はい。タコづくしだよー」
メイドさんが用意してくれたアウトドアテーブルの上に、ずらりと豪華にタコの料理を並べた。
タコのお刺身、タコの握り寿司、タコの天ぷら。
タコ飯、タコ焼き、タコの酢の物。
「ねえ、クウちゃん……。美味しそうだけど、これって本当に食べられるの……? 呪われたりしない?」
「そうだね……。あのグニョグニョな姿を見た後だと……。クウのことだから大丈夫とは思うけど……」
生まれて初めてタコを見たマリエとスオナは、さすがに怖気づいた。
まあ、うん。
無理もない。
ただ、ヒオリさんたち大食い組だけではなく、セラやエミリーちゃんも普通に食べ始めたので――。
やがて、おそるおそるながらも天ぷらからつまんで――。
美味しいでしょー。
あとは、普通に食べてくれた。
ちなみにヒオリさんたちはタコを4匹も獲ってきた。
大漁だ。
なので、メイドさんたちにもタコ料理を振る舞った。
気に入ってもらえた。
「そういえばキアードくん、タコ焼きを名物にするって話は中止したの?」
去年、そんな話をした気もするけど。
リゼントの町にタコ焼きはなかった。
「おう。今思い出したぞ」
「あ、はい」
さすがだ。
「ところでカメの子、午後は島に向かうのか?」
「うん。その予定だよー」
「おし。わかった。それなら長距離航行の出来る船を用意するか。クルーザーは近海専用なんだよ」
キアードくん、本気でついてくる気だろうか。
と思ったら。
「坊ちゃまは駄目です。海賊共の取り調べが進んでいるのですよ。領主が不在では重要な判断ができなくなります」
ティセさんが冷たく言った。
「そんなもん、叔父上に任せておけばいいだろ!」
「駄目です。実務はともかく、決裁するのは領主の責任です。昼食を食べ終えたら帰宅していただきます」
まあ、うん。
そうだよね。
私の仕事はおわったけど、キアードくんの仕事はこれからだ。
キアードくんはブー垂れたけど、帰宅は決定となった。
がんばれ。
リゼントの平和をしっかりと守ってね。
あと、ティセさんには、船で2日以上離れた南の遠洋には凶暴な魔物が縄張りを築いているから――。
船で2日以上の南進は絶対に止めて下さいと言われたけど――。
うん。
私たちは空から行くので平気なのです。
たぶん、あっという間に船で2日分は超えてしまうのです。
それに魔物とは仲良くできるし。
なにしろ精霊と竜だし。
わかりました、とは言っておいたけど。




