649 悲鳴で目覚めた
『ああああああああああああああああああ!』
朝。
熟睡していると、テントの外からアンジェの悲鳴が響いた。
おはようございます、クウちゃんさまです。
今日、私は昼まで寝て、体力を全快させる予定だった。
だけど……。
今の悲鳴で完全に目覚めた。
一緒に寝ていたマリエと、いったい何事かと外に出た。
ゼノやフラウがいるのだ。
危険なことなんて、ないと思うけど……。
見れば――。
盛大に――。
魔石コンロの上に乗せた鍋が、なんかものすごく泡立って、ぶくぶくと吹きこぼれていた。
「セラぁ! 助けて、セラぁ!」
「え。無理! 無理ですぅ。わたくしの手にはサンドイッチがぁ! 今、手を離したら崩れてしまいますぅ!」
ふむ。
なるほど。
寝ぼけ眼な私だけど、よく理解できた。
料理経験ほとんどゼロのお嬢さまな2人が、みんなのために朝食を準備しようとしていたのね。
セラは、パンを縦に切ってしまって挟める面積が狭い上に、具材を重ねすぎてタワーになっているね。
具材は、レタスにハムに……。
分厚いベーコン、分厚いチーズ、一本丸ごとのピクルス。
あと、なんだろう……。
気のせいか、干物が入っている気がするけど……。
それを強引に安定させようと両手で押さえているのか……。
もうサンドイッチというよりはハンバーガーなので、串で刺して安定させるしかないところだけど……。
「えいいぃぃ!」
力任せに押し込んだぁぁぁぁぁ!
「ああああああああああああああ!」
セラが悲鳴を上げるぅぅぅぅ!
パンが完全に潰れた。
そして、野菜やらハムやらがはみ出して飛んでいってしまった。
特に干物が宙を舞ったぁぁぁぁぁぁ!
おわりだね……。
鍋を吹きこぼしたアンジェの方は……。
あー。
鍋いっぱいに水を入れたのね。
しかも、肉や野菜を大量に放り込んで。
泡は、灰汁だね。
「ねえ、アンジェ」
「ごめんクウ! 助けてよぉぉぉ!」
「はいはい。任せて」
銀魔法『重力操作』で鍋を持ち上げて、魔石コンロの火を切った。
それで鍋は静かになる。
「……うう。ありがとう」
いつの間にか――。
というか――。
大きな声をあげたのだから当然か。
ヒオリさんやエミリーちゃんたちも外に出てきていた。
「やれやれ。食材に砂がついてしまいましたね」
ヒオリさんが、セラが散らかした食材を拾い集めてくれた。
それをスオナの元に差し出す。
「さあ、スオナ殿。練習の成果を見せる時です。食材を傷つけないように、水の魔術で綺麗に洗い落としてみましょう」
「わかりました。お任せ下さい」
スオナは挑戦して、見事に成功させた。
食材は綺麗になった。
「さあ、セラ殿。今度は食材を少なめにして、あと薄切りにして、あと干物は不必要ですね……。作り直しましょう」
「うう。ありがとうございます、ヒオリさん、スオナちゃん」
セラの方は軌道修正できたみたいだ。
アンジェの方は……。
エミリーちゃんが、私の下ろした鍋を覗き込んでいた。
私もちらりと見たけど、昨日のカレーの具材に加えて、サンドイッチ用の具材もすべて入っているね。
サラダ用の野菜に、チーズとかベーコンとか。
「どう? エミリー? まだちゃんと作れそう? 私、朝のスープを作ろうと思ったんだけど……」
アンジェが不安げにたずねる。
ふむ。
なかなかに難しい案件な気もする。
私は解決案を、パッと思いつかなかった。
カレーなら、なんとか……。
という気はするけど……。
サラダ用の野菜が入っちゃってるからなぁ……。
微妙かも知れない……。
「うん。多分、大丈夫だよ」
お。
エミリーちゃんには妙案があるようだ。
「クウちゃん、トマトはある?」
「あるよー」
アイテム欄から取り出して、エミリーちゃんに渡した。
「ありがとう。
まずは、灰汁をちゃんと取って……。
トマトを細かく切って入れて、コンソメスープの元も入れて……。
お塩をパラパラ…。
胡椒はどれくらいかなぁ……。
うんっ!
バッチリ!
美味しいスープになったと思うよ!」
完成したのは見事なトマトのスープ。
ミネストローネだった。
「うむ。実に良い匂いなのである。最初に見た時には不安を覚えたのであるがさすがエミリーであるな」
「そうねっ! ありがとう、エミリーっ! 助かったわ!」
「クウちゃんがトマトを用意してくれたおかげだよー」
エミリーちゃんは謙遜するけど……。
アンジェとセラは、素材があっても駄目だったね……。
とは、可愛そうなので言わなかったけど。
そうこうしている内に――。
キアードくんも起きて、海に出ていたゼノも戻ってきた。
ともかく。
そんなこんなで。
美味しい朝食を取ることができました。
よかったよかった。
私は再び寝よう。
みんなは、昼まで遊んでてー。




