645 港の夜空に舞う
さあ、大忙しだ。
まずは、キドリー侯爵家のイイヒトと大商人のエチ・ゴーヤを、転移の魔法でダンジョンの隠し部屋に幽閉。
この2人については、とりあえず閉じ込めておけば十分だろう。
どうするかは、後で考えることにした。
次は、トリスティンの港湾都市カクレミーノに精霊界を経由して移動。
魔力感知アンド敵感知。
すぐに、驚くべき現実が判明する。
なんとウツボ団のトップと幹部は、人間ではなかった。
強い敵反応に導かれて立派なお屋敷に行ってみれば、そこにいたのは人間に擬態した1体の悪魔と2体の高位吸血鬼だったのだ。
高位吸血鬼は闇の魔術を使いこなし、高い戦闘力と知性を誇り、魔眼によって人間を支配する恐るべき存在だ。
なるほど、キアードくんたちでは手に負えないわけだ。
ただ、戦闘はなかった。
2体は、ゼノが笑顔で闇の底に引きずり落とした。
詳細は不明だけど、ちゃんとオハナシをするので、もう二度とここに戻ってくることはないそうだ。
高位だろうが始祖だろうが、所詮は闇の眷属。
夜の女王の前には、無力のようだ。
なので、いいよね。
私は気にしないことにした。
悪魔は、できれば捕まえて尋問したかったけど――。
いつ、どこで、誰に、召喚されたのか――。
間違いなく、この一年以内の出来事のはずだけど――。
でも、油断すれば、なにをしてくるかわからない。
あと、時間もない。
なので、問答無用。
黒魔法で不意打ちして、気づかれないまま消滅させた。
まあ、その点については、ゼノがオハナシした吸血鬼たちから聞き出してくれたんだけど……。
悪魔が擬態していた元アヤシーナ商会の幹部が、リゼントへの復讐のために自らの命と体を犠牲にして召喚したらしい。
悪魔の召喚は普通にやると、大量の生贄が必要で大変みたいだけど……。
狂気の執念と自己犠牲、加えて泥沼で蜘蛛の糸を掴むほどの運があれば、個人でも召喚できてしまうのだ。
ともかく。
これでウツボ団の中枢は壊滅した。
組織の再編は、かなり難しいことになるはずだ。
その後は、ゼノが吸血鬼たちから聞き出した、ウツボ団が所有する主な拠点や船舶に飛んで回った。
念の為、現地にいた人間にも確認を取る。
間違えたら大変だしね。
本当にウツボ団のモノであることが確認できたら――。
まずは中を無人にして――。
ナオの処理に倣った。
神話武器『アストラル・ルーラー』で拠点も船舶も適度に切り刻む。
最後に黒魔法で分解して砂に変えた。
海賊共は逃さず眠らせて、嫌がらせと警告の意味も込めて、手当たり次第に領主の館に放り投げた。
深夜の大仕事だ。
途中で私は眠くなった。
あと、疲れた。
でも頑張って、海賊共を放り投げた。
途中から眠らせるのも面倒になって、海賊共は起きたまま運んだ。
朝が近づいてきた。
悲鳴をあげながら宙を舞う海賊の姿は、早朝から働く勤勉な市民にいくらか見られたけど、私とゼノは姿を消しているので平気だ。
投げて投げて、投げまくった。
何度も何度も窓を破って飛び込んでくる海賊共をどうするかは――。
領主の判断に委ねよう。
終わった後は精霊界を経由して港湾都市リゼントに戻って、一休みするかぁというところで気づいた。
うおー。
リゼントの敵反応の処理を忘れていたぁぁぁぁぁ!
ということで……。
1人残らず――。
問答無用で――。
海亀団の待機場所に放り投げた。
海亀団は事前の打ち合わせで緊急招集されて、完全武装で待機中だ。
いや、うん。
一晩、待たせてごめんね……。
私を信じて待っていてくれてありがとう。
ちなみに敵感知は、すべての悪党を発見できるわけではない。
私か私の周囲への敵意、あるいは私が関わるクエストにつながる障害を見つけることができるだけだ。
なので今回の場合だと私とゼノが捕まえた連中は、全員、ウツボ団の構成員か協力者で間違いない。
はずだ。
海亀団には取り調べを頑張ってもらおう。
そこまで頑張って、ようやく私は一息をつくことができた。
「おわったぁぁぁぁぁ!」
あーもう。
思いっきり水浴びして、すっきりしたいよー!
「いやー、面白かったねー! やっぱり悪党を好き勝手にするのは、サイコーに面白い遊びだよー!」
「私は疲れた。寝るぅぅぅ」
「りょーかい。なら戻ろうか。みんなも待ってるしね」
「うんー」
なにか忘れている気がするけど。
まあ、いいや。
私の頭は小さいのだ。
そんなにたくさんのことは覚えていられないのだ。
細かいことは、気にしたら負けなのだ。
キアードくんのお屋敷に帰ると、セラたちが出迎えてくれた。
「ただいまー」
「おかえりなさいっ! クウちゃん!」
ふらふらの私を、セラが正面から支えてくれる。
「ゼノ、どうだったであるか?」
「サイコーに面白かったよ、フラウ! 悪党まみれでね!」
まだ元気いっぱいのゼノが、早くも武勇伝を語り始める。
私は眠い。
あとはゼノに任せよう。
おやすみ。




