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641 閑話・捕まっちゃった人たち





【迷子のマリエ】


 こんにちは、私、マリエです。

 恥ずかしながら、私、今、迷子です。

 場所は、港湾都市リゼント。

 帝国の南部で最大の町です。


 最初は、みんなと一緒だったんです。


 普通に――。

 ではないけど……。

 皇女様御一行として、こっそりと門を抜けて、町の中に入って。


 生まれて初めての港町は、見るものすべてが新鮮でした。

 建物も、行き会う人も。

 お店に並ぶ品々も。

 どれもこれも帝都とは全然ちがっていて、もうホント、私みたいな空気の権化でも夢中になるくらいでした。


 はい。


 私、お店の軒先に飾られていた南国の衣装に思わず見入ってしまって、1人で足を止めてしまったのです。


 そして……。


 ふと気づけば、まわりにクウちゃんたちがいなくて……。


「た、たしか……。宿! まずは宿を取るんだよね!」


 ということで、宿を探したのですが……。

 さすがは港湾都市。

 宿なんて、いくらでもあります……。


 結局……。


 1人ぼっちのまま、日が暮れてきてしまいました……。


 夕方です。


 泣きたいです。


 クウちゃーん!


 早く私のことに気づいてよー!


 クウちゃんとゼノさん、それにフラウさんなら、迷子の私を見つけるなんて簡単なことのはずです。


 きっと、私の存在に気づいていないのです。


 なにしろ私、今日はほぼしゃべっていなかったですし。


 ちゃんと空気になっていましたし。


 ふふ。


 我ながら、空気の極意、本気で掴めてきたみたいですっ!


 って。


 それが仇になってるんだけどねぇぇぇぇぇ!


「ううう……。どうしよう……」


 このリゼントのご領主様は、クウちゃんたちとは親しいようです。

 なので、ご領主様に助けを求めれば……。

 なんて思うのですが、しがない庶民の娘の私が、一体、どうすればご領主様にコンタクトを取れるのか。

 わかりません。

 ていうか、無理ですよね、確実に。


 うう。


 クウちゃーん!

 早く気づいてぇぇぇぇ!

 私、ここだよー!


 返事は、ありません……。


 うう。



「よう。どうしたんだ、お嬢ちゃん」


 広場の片隅でうなだれていると、上から声がかかりました。


 びくりとして顔を上げると……。


 ひぃぃぃぃぃぃ……。


 海賊か山賊にしか思えないコワイ顔をした男の人が、私のことを、まるで品定めするように、じーっと見ていました。


「い、いえっ! ななな、なんでもないです……!」

「そんなわけあるか。迷子か?」

「いえ、あの……」


 見れば、海賊か山賊にしか見えないコワイ男の人は、胸にカメ様のエンブレムをつけていました。


 ああ、もしかして……。

 この人は、衛兵さんなのかも知れません。


 クウちゃんやセラさんが言っていました。


 リゼントの町の衛兵は、海賊にしか見えないから、間違えて半殺しにしないように気をつけてね、と。

 私に半殺しにする力なんてないんだけどねっ!

 ……実際、去年は、間違えて半殺しにしたそうです。

 みんな、すごいよね……。


「はい。実は、迷子になっちゃって……」


 私は頼ることにしました。


「なら来い。とりあえず詳しい話を聞いてやるから」

「……はい」


 私は言われるままついて行って……。


 はい。


 途中で、なんか変だなぁとは思ったんです。


 だって、路地裏に入っちゃうし。


 でも、大丈夫心配するな、って言われたので……。

 逃げようと思えば逃げられたはずなんだけど……。

 逃げるタイミングが掴めなくて……。

 結局……。


 なんか港の近くの、観光協会って看板の出ている事務所に入って……。

 私は、地下の倉庫に連れて行かれて……。


 バタン!


 閉じ込められてしまいました……。


「へへ。運がなかったなぁ、嬢ちゃん。最近ではな、獣人奴隷の売買が死ぬほど厳しくなってよ。獣将ナオ・ダ・リムの宣言にみんなビビっちまって、獣人は買い手がつかなくてよぉ。でもな、代わりに、嬢ちゃんみたいなヒト族の娘が、それはまあ高く売れるんだ。というわけで、俺らウツボ団の資金になってくれて、ありがとうな。しばらく大人しくしてな」


 …………。

 ……。


 私、運が良かったんでしょうか。

 大人しくしていたからか、乱暴なことはされませんでした。

 よかったです。


 って、いいわけないじゃないですかぁぁぁぁぁぁぁ!

 なにがよかったのか私ぃぃぃぃぃぃ!


 クウちゃーん!

 早く助けてぇぇぇぇぇぇぇ!







【調子に乗りまくった新人冒険者ウェーブ】



「ではっ! 私と積荷を強盗の手から守ってくれた若き英雄に、乾杯!」

「乾杯っ!」


 商会の連中が一斉にジョッキを掲げて、ビールを飲む。


 その輪の中心にいるのは、この俺。

 ウェーブだ。


 冒険者になって半年。


 まだまだ新人と言われる俺だけど、ついに、いや、早くも。

 時代の波に乗れたみたいだ。


 今日の昼、俺は商隊護衛の仕事についていた。

 仲間たちと4人で。

 そんな長い距離の護衛ではなかったけど、運が悪かった。

 森で強盗に襲われたのだ。

 正直、絶対絶命だった。

 だけど俺たちは逃げずに、任務をまっとうした!

 強盗を撃退したのだ!


 強盗は、町に引き渡して、最近、このあたりを荒らしまくっているウツボ団の一員だと判明した。

 多額の報奨金までもらってしまった。


 そして、今、こうして、助けた商人からもてなしを受けている。

 若き英雄として。


 ウハウハだ。


 俺は今、笑いが止まらないっ!

 俺の時代が来たんだ!


「わはははは! ウツボ団なんて目じゃねーぜ! 俺らに任せときゃ、連中が100人来ようが撃退してやるから安心しろ!」

「……ねえ、ウェーブ。……ちょっとアンタ、調子に乗りすぎじゃない?」

「はぁ? なんでだよ」

「……ウツボ団の連中に聞かれたらどうするのよ」


 せっかく俺が気持ちよくしているのに、仲間のアンナが、水を差すように忠告なんてしてきやがった。


「平気だって! そんときゃ、また俺が倒してやるよ! この俺の、必殺剣、真空殺法でなっ!」


 俺は剣を振るジェスチャーをした。

 すると、商会の連中が、おおー頼もしい、と俺を讃えてくる。


 なのにアンナは、俺を酒場の隅に引っ張るのだ。


「……あれ、本当にアンタが倒したの? 剣なんて当たってなかったわよね?」

「だから、真空殺法なんだって」

「なに、それ……」

「こう、なんか、俺の気合が乗ったんだよ、剣に」

「そんなバカなこと、あるわけないでしょ」

「なら、どうしてアイツらは倒れたんだよ」

「それは……。知らないけど……」


 俺が剣を振った。

 アイツらは倒れた。


 つまり、俺が倒した。


 そういうことなのだろう。

 たぶん。

 きっと。


 窮地の中、俺は、皇女様のような特別な力に目覚めたに違いない!

 光の力かも知れない!

 今は、おう。

 窮地じゃないから使えないけど……。

 窮地になれば使える!

 そうに違いない!

 俺は心地良く酔っ払う中でそう確信していた。


 接待がおわって、アンナを始めとした仲間たちと共に酒場から出る。


 すっかり夜だった。


 しばらく歩いていくと、


「よう」


 と、馴れ馴れしく声をかけられる。


 振り向くと、ガラの悪い男がいた。


 気づけば、囲まれていた。


「ウツボ団を捕まえたの、おまえらなんだってな?」

「おう。そうよ。なんだテメェら、文句でもあるのか? あるならテメェらもこの俺の真空殺法で。――うっ」


 次の瞬間、俺は腹を殴られていた。

 息が溜まって、うずくまる。


「なんだ、この雑魚。おい、ホントにこいつにやられたのか?」

「ああ……。間違いねぇ……。俺は森の中にいて捕まらなかったけどよ……。このクソガキどもの顔は忘れやしねぇぜ」

「ハッ。油断ってヤツか」

「かもだな……。すまねぇ……。情けねぇ話だ」

「まあ、それなら、少しばかり目立ってもしゃーねーな。全員ヒト族だし、売れることは売れるだろ」

「だな」


 見れば……。

 アンナも、他の2人の仲間も……。

 あっさりと気絶させられていた……。


 あれ……。


 おかしいな……。


 俺達って、若き英雄のはずじゃ……。


 俺たちは担がれ、どこかに連れて行かれた……。







昨日の話で、森の中にいた弓使いが捕まっていない、というコメントをいただきました。

ありがとうございました。

クウちゃんは忘れていました。

作者も忘れていました。

なので弓使いの強盗は逃げ延びて、

新人冒険者くんたちは報復されてしまったのでした><ノ

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― 新着の感想 ―
[一言] マリエを捕捉できるウツボ団って実は凄い!?
[良い点] まさかマリエを見つけることができるとは!! ウツボ団・・・恐るべし!\(^o^)/
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