639 岩山でランチ
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、空を飛んでいます。
青空の中です。
日差しはキツイですが、魔法で保護できているので問題はありません。
風を受けて、心地良く飛んでいます。
目指すのは南です。
港町リゼントです。
城郭都市アーレを出て、すでにそれなりに時間が過ぎております。
眼下の景色は、すっかり荒野です。
荒野の中、白い街道が延々と伸びていて、なんだか絵画的です。
荒野には、大トカゲや豹などの危険な魔物がいますが、今のところ襲撃を受けている商隊や旅人は見かけていません。
商隊はたまに見かけますが、けっこう大きな商隊ばかりで、護衛の冒険者もキチンといる様子でした。
魔物も、街道から離れた場所ばかりにいます。
人間と魔物で、なんとなく棲み分けができているようです。
なので、トラブルを求めていたゼノはすっかり退屈して、馬車の中に引っ込んでしまいました。
今頃は昼寝していると思います。
精霊さんも実体化していれば、人間と同じです。
眠くなるし、お腹は減るのです。
私もお腹が減ってきた。
「ねえ、フラウ。そろそろランチにしようか」
私は近くを飛んでいた古代竜姿のフラウに声をかけた。
フラウは、セラたちの乗った馬車を抱えて、飛んでくれている。
「わかったのである。どこに降りるのであるか?」
「そうだなぁ……」
去年は、岩山の砦跡で休憩した。
南へと向かう荒野には、かつてのティール王国が南進の時に築いた砦が、あちこちに存在している。
ただ、去年と同じでは面白くないよね……。
んー。
「あ、ねえ。あそこにしようか!」
面白そうな場所を見つけた。
たくさんの大きなトカゲが日光浴をしている岩山だ。
「わかったのである」
「じゃあ、ちょっと場所開けてくるねー」
私は先に飛んで、山の中腹にある大きな岩の台座で寝ていたトカゲくんたちのそばに降りた。
「みんな、いきなりごめんー。これから竜が来るから、しばらくの間、脇にいてもらえるかなー」
トカゲくんたちがゆっくりと顔をあげて、私のことを見る。
「ごめんねー。ずっとじゃないからさー」
手を合わせて謝ると――。
のそのそと、岩場の陰にまで移動してくれた。
「ありがとー」
よかったよかった。
これで準備が整ったので、フラウに着地してもらう。
抱えていた馬車を置いて、フラウは幼女姿になる。
セラたちが馬車から出てくる。
「さー、ランチしよー」
私はアイテム欄から取り出したシートを岩の上に広げて、その上にたくさんのバスケットを置いた。
バスケットはローゼントさんが今日の昼食として持たせてくれたものだ。
中にはサンドイッチや果実が入っている。
お腹も空いていたので、早速、食べることにする。
私は大いに食べた。
ゼノとフラウもパクパクと食べた。
だけど他の面々は、なんとなくペースが遅い。
「みんな、どうしたの?」
聞いてみると――。
セラが妙にまわりを気にした様子で言った。
「あの、クウちゃん……。すっごい見られているんですけど……。これって大丈夫なんですか?」
言われてみれば、トカゲくんたちが私たちのことをガン見している。
まあ、うん。
トカゲくんたちだって私たちには興味も湧くよね。
いきなりお邪魔させてもらったし。
「店長、某の記憶が確かならば、まわりにいるのはアイアンリザード……。その名の通り鉄ほどに硬い皮膚を持ち、自分たち以外に動くものがあれば見境なしに食らいついてくるという凶暴な魔物なのですが……」
「へー。そうなんだー」
「はい。そうなのですが……」
「べつにいいんじゃなーい? 見てるだけだし。ほら、ヒオリさんも、気にせず食べちゃいなよ」
「は、はい……。では……」
ガラにもなく、ヒオリさんがサンドイッチを丁寧に食べる。
いつもは一口なのに。
「こいつらはかわいいものなのである。ほれ、こっちに来い」
フラウが手招きすると、一匹が近づいてきた。
「ほれ、食え」
フラウがサンドイッチを差し出すと、ぱくりと大きな口で食べる。
「よしよし」
その頭をフラウが撫でた。
「フラウさん、ホントに大丈夫なの……?」
アンジェがおそるおそるたずねる。
「トカゲは、すべて、竜族の末端とも言える存在なのである。妾にとってはペットのようなものなのである」
「そ、そうなんだぁ……」
「アンジェリカも触ってみるとよい」
「え」
言われて、アンジェが挙動不審に私のことを見る。
「ねえ、フラウちゃん! わたしもいーい?」
「いいのである。こいつは大人しいのである」
「やったー!」
エミリーちゃんは喜んで、それからおそるおそるながらも、アイアンリザードの硬い皮膚に触れた。
アイアンリザードは大人しくしている。
その様子を見たスオナも、フラウの許可を取ってから皮膚に触れた。
と。
一匹を可愛がっていると――。
「ク、クウちゃん……。あの、あの、まわりっ!」
セラが変な声をあげる。
見れば、他のトカゲくんたちも興味を持ったのか、じわじわと近づいてきていた。
まあ、食材はたくさんある。
「みんなも来ていいよー。一緒に食べようかー」
トカゲって果実を食べるのだろうか。
アイテム欄から果実をどさりと取り出して、床の上に置いてみた。
結果としては、食べた。
トカゲくんたちが美味しそうに果実を食べる中で――。
わたしたちもランチを取った。
セラたちも、最初は緊張していたけど、やがて覚悟を決めたのか、あきらめたのか慣れたのか……。
普通に食べて、普通におしゃべりした。
エミリーちゃんが言う。
「ねえ、クウちゃん。港町リゼントには寄るんだよね?」
「うん。一泊する予定だよー」
「キアードくん、元気かなー。会えるといいねー」
はて。
キアードくんとは誰だったか。
私が首をひねっていると、その様子に気づいたヒオリさんが教えてくれた。
「サウス辺境伯キアード。ヤンチャな少年領主でしたね」
「あー! いたいたっ!
いきなりセラと戦って瞬殺された子だよね!
船の操縦をエミリーちゃんに教えたり!
あとカメ様ね、カメ様!」
いろいろ一気に思い出した。
カメ様なのに、ウニ!
海賊みたいな兵士たち、海亀団の連中も元気でやっているだろうか。
ちなみに海亀団は、私が名付けた。
「会えるといいねー」
エミリーちゃんが繰り返して言った。
ふむ。
エミリーちゃん、アーレの町に住む騎士の息子テオルドくんのことは存在すら忘れていたけど。
「ねえ、クウ、セラ。ちなみにだけど、私たちが行くことは、サウス辺境伯家には伝えてあるの?」
アンジェが聞いてくる。
「さあ……。わたくしは存じておりませんが……」
「私も。どうなんだろうね」
「まあ、いいか。行ってみればわかるわよね。エミリーとセラなら、いきなりお邪魔しても邪険にはされないだろうし」
「……ねえ、君達。話の腰を折るようで済まないが、カメ様というのは、一体、なんなのかな?」
今度はスオナが聞いてくる。
「カメ様は、南の海を守る神様みたいなものだねー」
「ふむ。カメ様にして、神様、なんだね」
「うん。そう。去年、リゼントに来た時、ちょっとだけご縁があってね。今年は会わないと思うけど」
大きな事件でもない限りは。
「カメ様は、荘厳で、本当にご立派な方だったわよねえ」
「そうですね。某もよく覚えています」
アンジェとヒオリさんが、うっとりした顔で言う。
冗談を言っている様子はない。
エミリーちゃんにフラウ、ゼノもまた、カメ様のことを褒め称えた。
なので私は……。
喉まで出かかっていた……。
ウニだったけどね。
という言葉を、口にはせずに飲み込むのだった。
アース・スターノベル様より書籍化が決まりました。やったぜー\(^o^)/
これもひとえに読んでくれる方がいればこそであります。
ありがとうございました。
まだまだ書いていくつもりなので、
よかったら今後ともお付き合い下さいm(_ _)m




