635 閑話・セラフィーヌのリベンジ
わたくし、セラフィーヌはこの時を待っていました。
去年の夏――。
メイヴィスさんに負けてから、1年。
ついにリベンジの時です。
学院祭の武闘会でもチャンスはあったのですが、情けないことにわたくしは他の相手に敗北しました。
「セラフィーヌ殿下、そろそろ着替えに参りましょう」
「はい」
パーティーの途中でメイヴィスさんに声をかけられて、わたくしは大ホールから退出します。
一緒にいたクウちゃんたちが、「頑張ってねー」と明るい声をかけてくれます。
まだ着替えるだけなんですけれどね……。
とは思いましたが、「はい、頑張ります」とわたくしは答えました。
メイヴィスさんは学院の制服に。
わたくしは旅の衣装に。
それぞれ着替えます。
「しかし、実戦という意味で言えば――。本当は、戦う前からセラフィーヌの勝ちなんですけれどね」
2人のメイドさんにドレスを脱がせてもらいながら、メイヴィスさんがクスリと笑います。
「わたくしが、ですか……?」
意味がわからないでいると――。
「だって、セラフィーヌは自力で防御魔法をかけることができるでしょう? わたくしにはできませんから」
「実戦であれば、サポートしてくれる仲間がいて当然だと思います。なので自力の有無は、あまり関係ないと思うのですが……」
「確かに……。そうですね……。ありがとう、セラフィーヌ。気兼ねなく貴女を倒すことができそうです」
「今回は、わたくしが勝ちます」
「良い返事です。今年は、いい勝負になりそうですね」
クウちゃんの指導を受けている、という意味では、わたくしとメイヴィスさんは同じ立場です。
わたくしの方が、クウちゃんから指導を受けた時間は長いですが――。
ダンジョンに行った回数はメイヴィスさんの方が上です。
特に先日のダンジョン訓練は、極めて過酷だったと聞いています。
つまりは、また強くなったということです。
服を着替えました。
防御魔法が前提の戦いなので、防具は身につけません。
腰のベルトに剣だけを取り付けます。
「そういえばセラフィーヌは、Sランク冒険者のロック・バロットと剣を交えたのですよね? どうでしたか?」
「手も足も出ませんでした」
「あら。そうなんですか。一流の冒険者相手でも、今のわたくしたちなら十分に戦えると思っていたのですけど」
「実はわたくしも、それなりには戦えるかなーと思っていました」
わたくしは苦笑して、
「そのことを後でクウちゃんに言ったら、さすがにロックさんは無理だよって笑われちゃいましたけど」
「クウちゃんも認めているんですね」
「はい。クウちゃんも、ロックさんは本当に強いって言っていました」
「Sランクは、飾りの勲章ではないというわけですね」
「剣の道は長いです」
「そうですね。だからこそ、楽しいのですけれど」
時間が来ました。
執事さんに呼ばれて、わたくしたちは部屋を出ます。
場所は、去年と同じで大ホール外の庭です。
すでに多くの皆さんが、わたくしたちの対決を見学するため、大ホールを出て庭に集まっていました。
「セラー、がんばれー!」
クウちゃんもいます。
わたくしのことを応援してくれましたっ!
と思ったら、
「メイヴィスさんも負けるなー!」
うう。
応援してくれるのは、わたくしだけではないみたいです。
さあ!
メイヴィスさんと向き合って、剣を構えます。
防御魔法はクウちゃんがかけてくれました。
つまり、どれだけ攻撃しても平気です。
「始めっ!」
お祖父様の号令で、試合が始まりました。
「え」
すぐにメイヴィスさんが、斜め上を見て驚いた顔をします。
なにがあったんでしょう。
次の瞬間、わたくしは胸を突かれて……。
吹き飛ばされていました。
「勝負有り! 勝者、メイヴィス!」
お祖父様の声が聞こえます。
…………。
……。
わたくし、なにをしていたんでしょうか。
負けてしまったようです。
「ふふ。セラフィーヌは本当に素直ですね。でも、その素直すぎるところは早めに改善した方がいいですね」
「申し訳ありませんでした……」
わたくし、隙を見せてしまったのですね……。
あまりの不甲斐なさに泣きたくなりながら、わたくしはメイヴィスさんに手を取られて立ち上がります。
クウちゃんの防御魔法に守られているので痛みはありませんが……。
その後。
気を取り直して、もう一本ということになりましたけど。
わたくしは頑張りましたけど。
やっぱり、わたくしはまだまだ心が弱いです。
簡単に一本取られたことが尾を引いて、結局、あまり善戦できないまま、またも負けてしまいました。
うう。
悔しいです。




