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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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634 ぐだぐだクウちゃん





「……あの、クウちゃん。大丈夫ですか?」

「ごめん……。しばらく無理……」


 私は乗り切った。

 大いなる冒険をおえて、今、へたばっていた。

 なんとかステーキは完食したものの、すでにお腹はパンパンだ。

 自由になったセラが来てくれたけど――。

 すまぬ……。

 私には休憩が必要なのだ。


 同じく冒険をおえたエミリーちゃんは、まだ余力があるようで、フルーツを物色に出かけていたんだけど――。

 あ。

 ローゼントさんに声をかけられて、緊張で固まった。


「セラ、悪いんだけどさ、エミリーちゃんを助けてあげてもらえる?」


 エミリーちゃんにはテオルドくんのことがある。

 断れない提案をされたら大変だ。


「そうですね。わかりました」


 セラがヘルプに行ってくれた。

 これで大丈夫だろう。


 私は1人に戻ると、テーブルに額をこすりつけた。


 しばらくするとアンジェが来た。


「はぁ……」


 椅子に座ると、アンジェはため息をついた。


「どしたのー?」

「私も疲れたの」

「アンジェはなに食べたのー?」


 お寿司とか?


「なんにも食べてないわよ。ずっとお話ばかりで」

「そかー」

「クウは、もしかして食べ過ぎ?」

「まさにー。お肉を食べすぎて気持ち悪いのー。助けてー」

「知らないわよ」


 ぷいとそっぽを向かれた。

 むー。


「で、アンジェはどうしたのー?」


 私は優しい子なので、ちゃんと聞いてあげるのだ。


「もうイヤになるわよ。うちの息子はどうだろう、知人の家にちょうど年齢の釣り合う青年がいましてな、とか」

「あー。なるほどー」

「おじいちゃんが出世したのは誇らしいけど、疲れるわね」

「あはは」


 有名税ってヤツだねー。


「でも、クウはお腹いっぱいなのか。なら1人で何か取ってくるわね」

「いてらー」


 アンジェは料理コーナーへと旅立っていった。


 ホールではダンスが始まったようだ。

 音楽が陽気なものに変わる。


 しばらくするとセラとエミリーちゃんが戻ってきた。

 2人とも困った顔をしている。


「……なにかあったの?」


 たずねると、エミリーちゃんにしょんぼりと謝られた。


「クウちゃん……。テオルドさんって、どこの誰なんだっけ? わたし、お客さんの名前はほとんど聞いてなくて、わからなかったの。もっと勉強して、ちゃんとした店員を目指します。ごめんなさい」

「お祖父様は納得されていたので、多分、問題はないと思います」


 セラが補足する。


 ふむ。


 なるほど。


 私はエミリーちゃんに、テオルドくんのことを教えてあげた。


 エミリーちゃんはしばらく考えて、


「あー! なんだー! あの子かー! わたし、お客さんの名前もわからないダメな店員で泣きそうだったよー! セラちゃんも、知っていたなら教えてくれればよかったのにー!」

「横から口を挟むのも失礼かと思いまして……。ごめんなさい、エミリーちゃん」

「あ、ううん。いいの。ごめんね、人のせいにしちゃって」


 なんにしてもエミリーちゃんは、興味のない様子だった。

 今年のパーティーには来ていないことを言うと、少し残念がったものの、すぐに話題を変えてしまった。


「そうだ、クウちゃん。わたしね、ご領主様から、将来、アーレの町で魔術師として働かないかって誘われちゃった!」

「へー。そうなんだー。すごいねー」

「クウちゃんはどう思う?」

「土魔術師は都市には必須の存在だしねー。いいと思うよー」


 ローゼントさんのところなら、ぞんざいに扱われることもないだろうし。


「そかー」


 ただ、エミリーちゃんは、少し浮かない顔をした。


「どしたの?」

「将来って難しいね。わたし、クウちゃんのお店も手伝いたいし、お父さんのお店も手伝いたいし、でも、魔術師にもなりたいの」

「いいねー。夢があってー」

「クウちゃんは?」

「私? べつに、なんにもないかなー」

「クウちゃんは、ふわふわするのが仕事ですもんね」


 セラが笑った。


「そそー」


 私は適当に同意して、


「なんにしてもエミリーちゃんは、学院に入ってから、具体的なことは考えていけばいいと思うよー。今は修行して、勉強して、とにかく強くなれば、あとはどうとでもなるしねー」

「うん。わかった。そうする。わたし、強くなるっ!」

「がんばれー」

「わたくしもまずは修行ですねっ! 光の力、使いこなさねばっ!」

「がんばれー」


 私の友達はみんな優秀だ。

 9歳や12歳にして、すでに将来を見据えている。


 私が9歳の頃は……。

 なにをやっていたかなぁ……。

 正直、あまり思い出せないけど……。

 少なくとも、修行や勉強に情熱を燃やしていることはなかった。


 うん。


 私は怠惰な子だったよ。


 む。


 私は唐突に、我が身を振り返った!


 このままでは前世と同じだ!


 私は身を起こした。


「セラ、エミリーちゃん……。私も頑張ることにしたよ」


「「クウちゃん!?」」


 驚いて、2人が同時に声をあげる。

 息ぴったりだ。


「……ま、まさかクウちゃんの口から頑張るなんて言葉が聞けるなんて」

「いやセラ。私、たまには言ってるからね?」


「クウちゃんはなにを頑張るの? 剣も魔法も完璧なのに」

「それはね、エミリーちゃん」

「あ、勉強だねっ!」

「ふむ」


 それだけはちがうかな。

 私は考えて、答えた。


「まずは、食べること。かな」

「そかー」

「食べて、大きくなろうと思います」


 精霊さんである自分の体の仕組みは我ながらわからないけど、食べれば大きくなるだろう、たぶん。


「よいしょっと」


 私は気合を入れて、椅子から身を起こした。

 まだ体は重い。

 胃の中には肉が残っている。


 それでも……!


「セラ…エミリーちゃん、ごめん。私は…、食うよ。クウちゃんだけに」

「ならわたしも行くよー。そういえば食べに行ったのに、ご領主様に声をかけられて忘れちゃってたよー」

「うん。一緒に行こー。セラも行こっか」

「いえ、わたくしはやめておきます」

「でも、食べてないよね? ダイエットとか?」

「いえ――。今夜は最後に、去年のリベンジがありますので」

「あー」


 そういえばそうだった。

 今夜のパーティーで、セラは1年ぶりにメイヴィスさんと戦うのだ。

 去年はセラの惨敗だった。

 果たして今年は、どうなることか。

 楽しみだ。







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― 新着の感想 ―
[良い点] バイキング料理なんて、何年行けてないだろうか、また、気楽に行けるといいな。 自分も何も考えず、メイン料理攻めそう(笑)
[一言] 笑うポイントが多すぎて、顏がニヤけてしまう~(^○^)
2022/12/23 13:20 となりのにゃんぱすー
[一言] もぐもぐ食うちゃん!
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