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633 パーティー、そして冒険の旅へ






 夜、パーティーの時間が来た。

 アーレ在住または近郊の貴族や騎士、招待された市民のみなさんが大ホールに集う盛大なパーティーだ。

 私たちはローゼントさんが用意してくれていたドレスに着替えて、まさにご令嬢として参加する。

 セラは皇女様として、ローゼントさんのエスコートで最後に入場した。

 ローゼントさんが、みんなにセラのことを大いに紹介する。

 武闘会で光の力を使い、1年生ながら見事に上級生に勝利した話をまるで自分のことのように語った。

 実の孫だしね。

 まあ、いいよね、うん。

 セラは、さすがに恥ずかしそうにしていたけど。


 楽団の演奏に合わせてパーティーが始まる。


 セラは当分の間、ご挨拶タイムだ。

 スオナはセラのとなりで、魔術の名門エイキス家の跡取りとしてローゼントさんが紹介していた。


 アンジェは地元の市民として挨拶回りに出かけた。


 マリエはなぜか、早々にブレンダさんとメイヴィスさんに捕まって、親しく話しかけられていた。

 まあ、うん。

 なぜか、というか……。

 私に近い人間には公然の秘密としてマリーエ様だしね。

 学院祭の時には聖女様と暴れていたし。

 興味津々なのだろう。


 私はエミリーちゃんを連れて、お気楽に、食事の旅に出かけた。


 ちなみにテオルドくんたちはいない。

 私は許してあげたけど――。

 騒ぎを起こしたペナルティとして今夜は謹慎となった。


 私が鍛えた10名の黒騎士たちは、パーティーには参加せず、周辺の警備要員として配置された。

 自ら希望してのことらしい。

 仕事熱心だ。

 おかげで私は普通にパーティーを楽しむことができる。


 まあ、それはともかく。


 私はお腹が空いていた。


 今日は、まったくもって色々とあって、パーティーの時間までのんびりすることができなかったのだ。


 なので、食う。

 クウちゃんだけに、まずは食うのだ。


 パーティー会場には、色とりどりの料理が並べられていた。

 肉も野菜も果実もスイーツも、なんでも揃っていた。

 さすがはローゼントさんというべきか、最近の流行りをちゃんと追っていて和風料理も何点かあった。

 どれも好きに取って食べて良いものだ。


「ねえ、クウちゃん。なにから始める?」


 お皿を手に持ったエミリーちゃんが、料理を眺めながらたずねてくる。


「難しいところだね……。今回は、どう攻めるか」


 私とエミリーちゃんは、フラウやゼノ、それにヒオリさんのように無限の胃袋を所有しているわけではない。

 特に私は少食だ。

 そんなに食べなくても、十分にお腹は膨れる。

 選択を間違えれば、せっかくの料理を満喫する前に、すぐに満腹ゲームオーバーとなってしまう。


「無難な選択としては、初動はサラダだろうけど――」

「うん。最初にサラダを食べるのが体にはいいって、お母さんも言ってた。サラダから始める?」

「エミリーちゃん個人の意見としては、どう思う?」

「わたしは……。冒険してみたい、かも」

「うむ。さすがは我が軍師。私も、同じ気持ちだ」


 そう。


 今夜はパーティーなのだ。


 体にいいとか、そういうことではなく――。

 いや、うん。

 もちろんそれは大切なことだ。

 無視していいことではない。

 いいことではないのだけど……。


 今回、第一とすべきなのは、いかに楽しみ、満足するか――。

 私は、そうしたい。


「クウちゃん……。わたしは提案します……」


 エミリーちゃんがごくりと息を呑み、緊張した面持ちで言った。


「まずはこの――。鉄板の上で今まさに焼かれている、分厚いステーキから挑むのはどうかと……」


 むう。


 私は思わず、うなった。


 そう。


 私たちの目の前では、今、調理人さんが肉を焼いている。

 鉄板ステーキだ。

 いい匂いだ。

 実に美味しそうだ。


 しかし、それは、どう見ても大人用だ。


 分厚くて、大きい。


 もちろん、頼めば、細かく切ってくれるだろうけど――。


 今、ステーキを受け取った若者は、一枚、お皿に乗せて、持って行った。

 次に来た中年男性も同様。

 こんなご馳走がタダで食べられるなんて、ご領主様はなんて太っ腹なのだろうと喜んでいた。

 このステーキはまさに庶民のために用意されたのだろう。


 そう。


 このステーキは、一枚、丸ごといただき――。

 今夜の記念として。

 贅沢に、豪快に、食べる品なのだ。


 私たちもいただくのであれば、かくあらねばならない。

 それが作法というものだろう。


 エミリーちゃんも、それは承知しているようだ。


 私に提案するその顔には、覚悟があった。


 一口分だけ切ってもらおうか、なんて、甘いことを言う様子はない。


 …………。

 ……。


 私も覚悟を決めた。


 行こう。


 冒険の、旅へ!


「ステーキ、2枚、お願いします」

「クウちゃん!」

「エミリーちゃん、行こう」

「うん。わかった。わたし、全力で挑戦するよ。この分厚い山に」


 私たちはステーキをお皿にいただき――。

 テーブル席についた。


 そして、食べた。


 最初の一口は、まさに至福だった。


 焼いた肉の弾力。

 広がる肉汁。


 なにもかもが、私の心を新天地へと誘うようだった。

 ああ、今まさに私は――。

 故郷の島を出て――。

 船で大陸へと渡り、冒険者となろうとしている1人の若者なのだ。

 まさに浪漫。

 冒険浪漫が、ここには、あるっ!


 そう。


 この時。


 私は知る術もなかった。


 私たちの冒険は、これからなのだと――。





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― 新着の感想 ―
[一言] 〉私は知る術もなかった。  私たちの冒険は、これからなのだと――。 しょーもない冒険だww
[一言] クウちゃん・・・ 「私たちの冒険は、これからなのだと――。」と、 このセリフが出るということはEDなんだね・・ つまり、お腹いっぱいなのだと!!
[一言] クウちゃちゃん、クウ腹でクウ気読まずにひたすらクウ
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