632 調べていいよ
「あはははははははははははははは! 悪魔! いいね! まさにクウにぴったりの名称じゃないそれ!」
「もー。本気で困ったんだからさー」
テオルドとの一件を話すとゼノに大笑いされた。
今、私たちがいるのは、ローゼントさんのお屋敷にある豪華な客間。
幸いなことに――。
旅とパレードで疲れただろうということで――。
夕方までは休憩タイム。
旅の仲間だけの時間だ。
「っても、失礼な話よね。仮にも招かれて来ているのに、それを公衆の面前で悪魔呼ばわりなんて」
「わたくし、抗議してきます!」
アンジェが不快感を表し、セラが憤慨して立ち上がる。
「あー待って待って」
私は止めたんだけど――。
「いえ店長。ここはしっかりと抗議すべきです。某も行きますので」
ヒオリさんはセラの行動に賛成のようだった。
「んー。そかー」
私としては、大事にはしたくないんだよね。
面倒だし。
「でも、テオルドだっけ? 彼らの行動もボクにはわかるなー」
空中に浮かんでリラックスしているゼノが気楽に言う。
「どうゆこと?」
「だってさ、クウが鍛えた騎士連中、あの夜にこれでもかとクウのオーラを浴びていたよね。さすがにおかしくなるよ」
「オーラ? おかしく?」
心当たりがないので私は首をひねった。
「クウ、あの夜、限界になった騎士をオーラで強引に鼓舞して、滅茶苦茶に攻撃させていたよね。青い光の剣を掲げて、さ」
「私?」
「……まさか、覚えてないの?」
ゼノに呆れた顔をされた。
「いやあ、あはは」
あの夜は私、完全にトリップしていたんだよね……。
恥ずかしながら……。
恥ずかしいので言わないけど……。
「言ってたよ。まさに騎士連中がつぶやいてたこと。もっと疼け、疼け。おまえらには眠れる力がある、って」
「ホントに?」
「うん。本当に。ボク、少しだけど見てたからね」
…………。
……。
私、そんなことしてたのかぁ。
言われてみると、記憶の片隅に残っている気もする……。
ちなみにフラウとマリエとエミリーちゃんはソファーの上で丸まって寝ている。
すやすやだ。
「つまり、店長を悪魔呼ばわりしたことは言語道断ですが、一方で店長が黒騎士を異様な状態にしたのは真実である、と?」
「うん。そ。聖女ユイリアの光のオーラもそうだけど、オーラはヒトの心に強く作用するからね。クウのあの夜の狂戦士みたいなオーラを浴びて、黒騎士連中はおかしくなったに違いないよ」
ヒオリさんの質問にゼノはうなずいた。
「なるほど」
私もうなずいた。
「それは治療が可能なのでしょうか?」
スオナがたずねる。
「もう手遅れだね」
「そんなー!」
私の代わりにセラが悲鳴を上げる中、ドアがノックされた。
やってきたのは執事さんだった。
執事さんいわく、ローゼントさんが私に至急の面会を求めているそうだ。
こちらに来たいという。
まあ、うん。
相手は仮にもご領主様なので、私が行くことにした。
要件は、さっきの騒ぎについてだろうし。
「わたくしも行きます! お祖父さまが万が一にも変なことを言ってきたら、このわたくしが受けて立ちます!」
「いやー、大丈夫だと思うけどねー」
さすがに。
でも結局、セラは言い張って、一緒に行くことになった。
案内されて、お屋敷の中の一部屋に入る。
大人数用の応接室だろう。
広くて豪華な部屋だった。
部屋には――。
ローゼントさんと、私が鍛えた黒騎士数名と――。
口と手足をロープで縛られて床に転ばされたテオルドくんたちがいた。
あと、なぜか、話には関係なさそうな、メイヴィスさんとブレンダさんの姿も部屋の壁際にはあった。
「おおおお! クウちゃん様! この度は本当に申し訳なく! この愚か者共がとんでもない勘違いを!」
ローゼントさんが土下座しそうな勢いで謝罪してくる。
「あの、私、別に気にしてないので……」
私が適当におわらせようとすると――。
今度は黒騎士の隊長――テオルドくんのお父さんが怒鳴った。
「そうはいきませんぞぉぉぉ! 我が愚息等は、よりにもよって! 帝国の青き閃光たる我らが師匠を愚弄し、あまつさえ悪魔などと! この罪、我が息子とはいえ万死に値すると言わざるを得ない! あああ! 疼く! この俺の左手がさらに目覚めよと疼いているぅぅ!」
これダメなヤツだ……。
屈強な大人が、完全無欠の厨二病だ……。
私はため息をついた。
「スリープクラウド」
はい。
とりあえず、またも全員寝かせた。
細かくコントロールする気力がなくて、セラも寝かせてしまった。
ごめんよ。
「クウちゃん師匠も毎回、いろいろ大変だな」
「そうですね。見ている分には愉快ですけど」
壁際にいたブレンダさんとメイヴィスさんは、私がかけた睡眠魔法の効果範囲外だったようだ。
「ま、気にすんなって!」
「そうですね。こんな些事などクウちゃんが気にすることではありません」
2人が私の肩を明るく叩いてくる。
「……はぁ。……もういいんですけどね、なんでも」
私はうなだれた。
この後、どうしたかと言えば……。
魔道具『女神の瞳』をローゼントさんに頼んで持ってきてもらって、みんなの前で私が使用して見せた。
女神の瞳は、まるでタブレットのような黒くて艶やかな板だ。
起動している証として、板の表面では、まるで回路のように小さな光がたくさん点滅していた。
板に手を置くと、置いた手の甲の上にスクリーンが浮かび上がる。
スクリーンには文字が現れる。
氏名:クウ・マイヤ
種族:精霊
出身:神界
年齢:12
犯罪記録:なし
はじめてこの世界に来た翌日、冒険者ギルドで鑑定した時とほぼ同じ結果だ。
違うのは年齢。
私は、たしかに1歳、この世界で年を重ねたようだ。
女神の瞳は、創造神アシスシェーラ様の力を借りた、決して捏造できない魔道具として知られている。
これを見て、なんとかテオルドくんたちも、私が悪魔じゃなくて精霊であることを理解してくれた。
黒騎士の人たちには……。
なんか拝まれたけど……。
もう面倒だから、ゼノに頼んで記憶操作してもらおうかと思ったけど。
それはやめておいた。
安易に記憶操作に頼るのは、絶対によくないことだ。
うん。
まあ、あれだ。
私は、さっぱりした気持ちで思うのだった。
どうせ黒騎士の人たちは、私たちの旅がおわったら――。
それから一ヶ月、ゼノの特訓なのだ。
ゼノの闇のオーラを浴びまくるのだ。
9月になる頃には、きっと別の人格になっているよね。
私、関係なくなるよねっ!
うむ。
問題なしっ!




