631 気のせいだよね。気のせいです
こんにちは、クウちゃんさまです。
大変なことになりました。
黒騎士隊長の息子テオルドくんが私のことを悪魔と勘違いして、敵感知を反応させていたので――。
誤解を解こうとしたところ――。
叫ばれました。
パレードがおわったばかりのところです。
まわりには大勢の人がいました。
普通なら、悪魔が出たというならパニックになって、みんな、逃げ惑うところだと思うのですが――。
何しろいるのは私。
たしかに青い髪をしていますが、悪魔ではないスーパー美少女のクウちゃんさま12歳です。
自分で言うのもなんだけど、可愛いのが取り柄です。
パッと私を見て、こわぃぃぃぃ! と思う人はいないと思います。
……まあ、はい。
今、思いっきり、目の前にはいますが。
黒服を着た少年が5人。
内、2人は尻餅までをもついて、私に怯えている。
というわけで。
なんだ、なんだ。
どうした、どうした。
と、あっという間に野次馬に囲まれてしまいました。
テオルドが私を指さして叫びます。
「こいつだ! こいつが悪魔だ! 早く誰か聖水をかけろ! そうすれば本当の姿を現すはずだから!」
「ねえ。あのさぁ……。どこからどう見れば、私が悪魔に見えるわけ? どちらかといえば完全に精霊さんだよね? 私」
まったく失礼な話だ。
野次馬の人たちは、幸いにも私の悪魔説を信じなかった。
え、この子が?
まさか。
という顔をしてくれている。
「黙れ! おまえが父上に悪魔の囁きをしたんだろう! おまえのせいで父上はおかしなことになってしまったんだ!」
テオルドの父上と言えば、黒騎士隊の隊長。
私が以前、「ボルケイノ24スペシャル」を飲んで、我を忘れた狂戦士状態で指導した内の1人だ。
指導はしたけど、悪魔の囁きなんてした覚えはない。
…………。
……。
ないよね、私?
いかん。
ちょっと不安になってきた。
なにしろ我を忘れていたし。
いやいや、さすがにないはずだ私は悪魔じゃないし。
ふわふわ精霊のクウちゃんだし。
ちなみに、黒騎士隊の隊長を含めた私が帝都で鍛えた10名は、パレードの時に私たちの先導をしてくれていた。
隊長さんから最初に挨拶も受けたけど、普通だったと思う。
こんな挨拶だった。
「ようこそおいで下さいました、青き光の君! 師匠!
本日は誠意、先導を努めさせていただきます!
本日は!
この右腕が、血潮のままにお守りすると叫んでおります!
この左腕が、疼きのままに討滅せよと叫んでおります!
ああ!
ああああああ!
本日も我らは漲っております!
光を!
もっと強い、青い光を!
ああああああああああああうううううううおおおおおおおおおお!」
普通……。
というには、ハイテンションだった気はするけど。
気のせいか目は血走っていたけど。
まあ、うん。
パレードの前だし、気持ちも高ぶるよね。
普通だろう。
私のことを当然のように師匠と呼んでいたけど。
まあ、うん。
私、いろんな人から師匠って呼ばれてるしね、最近。
特に珍しくもないよね、今更。
普通だろう。
なにしろ兜をかぶれば、静かになった。
兜をかぶれば、目が血走っていたって関係ないよね。
うん。
すなわち、普通だったはずだ、完全に。
「輪を開けろ! 一体、これは何事だ!」
そこに兵士を引き連れて黒騎士の1人がやってきた。
私とは面識のない相手だ。
テオルドが、私のことを悪魔だと訴える。
「この娘が……? いや、このお方は、セラフィーヌ殿下と共にいらした本日の賓客ではないのか……?」
「はい。そうなんですけどね」
くまったもんだ。
くまったくまった。
「みんな、騙されるな! そいつは浮いているぞ! 人間じゃないから地面に足をつけずに浮いているんだ!」
テオルドが叫んだ。
たしかに私は、膝を曲げてふわふわと浮いていた。
まるで幽霊だ。
今更だけど着地する。
「失礼だが――。確かに浮いていましたよね――。一体――」
「気のせいです」
「気のせい、ですか……」
黒騎士に聞かれて、私は答えた。
他に言いようがないよね。
ふむ。
まあ、いいか。
「スリープクラウド」
全員、眠らせてっと。
帰ろっと。
またねー。




