63 エミリーちゃんを探せ!
森は町から歩いて10分ほどの近場だった。
近場だけど、野良犬や毒蛇といった危険な生き物がいるので、子供1人で入ってよい場所ではないとのことだ。
「先に行くね」
ならば急行だ。
オダンさんたちはすでに私の戦いを見ているし、問題はないだろう。
ソウルスロットを、銀魔法、白魔法、敵感知に変更。
攻撃手段のない組み合わせなので強敵がいたら危険だけど、エミリーちゃんが怪我をしているかも知れないのでこうした。
その場から銀魔法の『飛行』でひとっ飛びして、森に到着する。
敵感知が反応するように木々の隙間を抜けて低空飛行していると、右に5つの敵反応を見つけた。
そちらに急行する。
「来るな! 斬るぞ! 斬っちゃうからな!」
膝をついてしゃがみ、鎌を振り回すエミリーちゃんがいた。
奥の茂みには、グルルルル……と低い唸り声で威嚇する5頭の野良犬がいる。
「わたしもこの人も餌じゃないんだぞ! あっちいけ!」
エミリーちゃんは誰かを守っている。
エミリーちゃんの背後には、木立の下で倒れる女の子の姿があった。
「よっと」
私は軽く跳んで、エミリーちゃんの前に立った。
「久しぶりー、エミリーちゃん」
「クウちゃん!?」
「うん。ちょっと待っててね」
少し歩いて、間近で犬くんたちと向き合う。
「みんな、縄張りに勝手に入っちゃってごめんね。
私たち、すぐに帰るから。
みんなも帰ってくれると嬉しいなあ」
襲われたら仕方がないので痛くないように軽くいなそう。
そう思っていたけど、目を合わせていたら犬くんたちは威嚇をやめてくれた。
やがて踵を返して、森の奥に消えてくれる。
ふう。
わかってくれてよかった。
「おまたせ」
安全を確認したところで、エミリーちゃんのもとに戻る。
「ありがとう、クウちゃん」
「どういしたしまして。怪我はある?」
「わたしは平気だよ。この人は、……わかんない。ここに倒れていて、介抱していたら野良犬が来たの」
「とりあえず診るね」
私はしゃがんで、女の子の様子を確かめた。
女の子は、緑色の髪をしていて、横に長い耳を持っていた。
エルフだ。
年齢は、私より少し上くらいだろうか。
綺麗に可愛らしく整った顔立ちは、どこか私に似ていた。
なるほど私がエルフに間違われるわけだ。
私の耳は長くないけどね。
服装は、前世の記憶的に、時代劇に出てくる旅人を思わせた。
ゆったりした布衣を帯で締めて、羽織ったマントはまるで道中合羽だ。
足はブーツだったけど。
女の子は、意識こそないものの呼吸はちゃんとしていた。
「ヒール」
とりあえず回復魔法をかけてみると、女の子の唇が小さく動いた。
「うう……」
「どう? 私の声、聞こえる?」
「おにく……たべ……たい……」
とのことだった。
無意識かな?
それ以上の反応はなかった。
「ねえ、クウちゃん。お腹が空いて倒れていただけなのかな?」
「そんな感じかもだね」
銀魔法を緑魔法に変えて、身体強化して女の子を背負う。
とりあえず森を出よう。
森の外に出たところでオダンさんたちと合流した。
「エミリー! 無事だったか!?」
「うん。お父さん、どうしたの?」
「どうしたのじゃない! どうして1人で森に行ったんだ! 森は危険な場所だと知っているだろう!」
「わたしは稼がなくちゃいけないし。それに平気だったよ」
野良犬に襲われたのにエミリーちゃんはけろりとしている。
逞しい子だ。
「エミリーちゃん、もう稼がなくてもいいよ。約束のプレゼント、持ってきたから」
「プレゼント?」
きょとんとされた。
「うん。魔術の入門書」
「ええええええええええええええっ!? ほ、ほんとにっ!?」
「本当だよー」
「……あんなのタダの、宴会の席の口約束だよね? 守る人なんていないよ? わたしも本気にしていなかったし」
エミリーちゃん、けっこう思考が大人だよね。
「本当か嘘かは、家に帰ってからのお楽しみ」
「……う、うん。この人も心配だしね」
「クウちゃん、その子は?」
オダンさんに聞かれた。
「森でエミリーちゃんが助けた子だよ。倒れていたんだって」
「そうか。それはいいことをしたな」
おっと。
叱るに叱れなくしてしまったかな。
「うんっ! わたしたちは貧乏だから、みんなで助けあわないとね!」
エミリーちゃんは元気だ。
あとで私からも、1人で森には行かないように言っておこう。
「オダンさん、この子、オダンさんの家に運んでもいい?」
「ああ、それは構わないが」
「お腹が空いているみたいだから、何か食べさせてあげたいんだけど……」
私が準備してもいいけど。
「たいしたものはないが、食わせるだけならできるぞ。任せろ」
「ごめんね、お願い」
ここはオダンさんにおまかせしよう。
魔法の鞄といっても、食べ物を出すのはさすがに怪しすぎる気がする。
ちなみにトムも一緒にいる。
また情報を売らないように、ちゃんと注意しておいた。




