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629 閑話・アンジェリカは帰郷した





 大門をくぐると、大歓声だった。


 私、アンジェリカは今、生まれ故郷の都市アーレに帰ってきた。

 4ヶ月ぶりの帰郷だ。


 豪華なオープンタイプの馬車に乗って――。

 楽団と黒騎士の先導を受けて――。


 となりに座っているのは、セラ。

 この帝国の第二皇女様。

 このパレードの、まさに主役だ。


「姫様万歳!」

「帝国万歳!」

「セラフィーヌ様ー! セラフィーヌ様ー!」


 大通りの左右に居並ぶ民衆も、セラのことを呼び讃えている。

 セラは、『皇女殿下の世直し旅』という物語の主人公として、このアーレでも大いに知られている。

 光の力で悪党を退治して回る最強無敵のお姫様。

 それがセラだ。


 私はなぜか、そのとなりにいる。


 なぜかと言えば……。


 最初はクウのはずだったんだけど……。


 そのクウから、故郷なんだから私が座るべき、と言われたからだ。


 私も、うん……。


 みんなの歓迎を受ける自分を想像して、ちょっといい気持ちになって思わずうなずいてしまった。


 なので自業自得ではあるんだけど……。


 正直、オープンカーに乗って、セラのとなりで大歓声を受ける自分は、恥ずかしくてたまらない。

 今日のアーレの町には、たくさんの帝国旗が飾られている。

 すべてセラを歓迎するためのものだ。

 オープンカーに座る私は、どう考えても場違いだ。


「アンジェー! アンジェー!」


 ああああっ!


 観衆の中に、地元の友達のコニーがいたぁぁぁぁ!


「おかえりー! アンジェー!」


 満面の笑顔で、私に手を振ってくれている。

 目が合ってしまった。

 無視もできないので、私はオープンカーの上から手を振り返した。

 我ながら引きつった笑顔だったと思う。


 クウたちは、うしろの馬車にいる。

 うしろの馬車はボックスタイプなので、窓際にいない限り、観衆に姿を見られることはないだろう。

 それなりにのんびり出来ているはずだ。

 羨ましい。


 コニーの声を皮切りに、私にも声がかかるようになった。


「アンジェリカ様ー! お嬢様ー! お帰りなさーい!」


 やめてぇぇぇぇ!

 本気で恥ずかしくて耳を塞ぎたくなるからぁぁぁ!


 そう――。


 私は平民の子だけど……。


 おじいちゃんは今や、帝国精霊神教の大司教。

 大司教は帝国には3人しかいない。

 その内の1人だ。

 しかも知名度では、たぶん、一番上だろう。

 去年、「平和の英雄決定戦」に優勝して、聖女様から直々に「平和の英雄」の称号も貰っているし。

 その影響で、私の「格」みたいなものも、上がっているのだろう……。


 それに私、恥ずかしながら――。


 アーレにいた頃は、とにかく目立つのが大好きで――。


 自分のことを美少女とか言っちゃって――。


 自分でいろんな場所に行っては、覚えたての魔術を披露したり、自分がフォーン神官の孫娘であることを自慢していたのよね……。


 なので、それなりには、市民にも顔が知られていて……。


 思えば私、成長したものね……。


 目立つことを恥ずかしいと思うなんて……。


 ちょっと前の私なら、大喜びして手を振っていたと思うけど……。


「アンジェちゃんも大人気ですね」


 観衆に手を振りつつ、セラが私に笑いかけてきた。

 セラの態度はリラックスしたものだった。


「勘弁してよー」


 私は、うん。

 恥ずかしさばかりが勝って、セラみたいにはできなかった。

 名前を呼ばれて手を振り返すだけでも限界で、わーって叫んで本気で馬車から逃げ出したくなる。


「ふふ。そのうち慣れますよ」

「……セラには申し訳ないけど、私は慣れなくてもいいわ。地味に生きるから」

「じゃあ、将来、武闘会とかにも出ないんですか?」

「それは、出るけど」

「なら結局、目立ちますよね?」

「うう……」

「ほら、手を振ってあげて下さい。ここはアンジェちゃんの町ですよ」

「あの、セラ。間違っても私の町じゃないからね? 私、ここに住んでただけの平民の子だからね?」

「細かいことはいいじゃないですか。わたくしも最初は恥ずかしかったですけど心を無にすれば平気ですよ。心を無にすれば、何でもできます。そう――、例えるならクウちゃんのように」

「クウはクウで、あれで色々と考えているとは思うけどね……」

「ふふ。なんですか、アンジェちゃん。まるでわたくしよりもクウちゃんに詳しいようなことを言って」

「セラ……、目がちょっと怖いわよ、今」

「ふふ。ふふふ」


 あー、うん。

 セラもセラで、恥ずかしいのを我慢して頑張ってるのよね。

 もういいや。

 今日だけは、昔に帰った気持ちで手を振っておこう。


 そんなこんなでパレードは進んで――。


 いよいよあと少し、遠くにご領主様のお屋敷が見えて来たところで――。


 私は知っている顔を見つけた。


 それは、私たちよりも1つ年下の青年――。

 黒騎士隊の隊長の息子で――。

 名前はたしか、テオルドと言ったはずだ。


 お揃いの黒服を着た同年代の4人と共に、並んで立っていた。


 去年の記憶と比べて、随分と背が伸びて顔立ちも精悍になっているけど本人であることは確かだと思う。


 私と目が合った。


 テオルドは、ぴくりとも笑顔を見せない。

 テオルドって去年、エミリーちゃんに一目惚れして、最後には花束を渡していたはずなのに……。

 それなら、笑顔くらいは見せてもよさそうなのに……。


 なんだか気のせいか……。

 敵意を感じるというか、思いっきり睨まれているんですけど……。


 幸いにもセラは、反対側の席なので気づいていない。


 クウが出て来ることもないから、気のせいではないとしても、危険な敵意とかではないんだろうけど。


 実際、何事もなく、私たちの馬車はテオルドの前を通り過ぎた。


 パレードがおわる。


 私たちの馬車は、ご領主様のお屋敷の敷地の中に入った。

 広い庭を抜けて邸宅前のロータリーで止まる。


 そこには、ご領主様だけではなく、メイヴィス様にそのご両親、ブレンダ様、さらには私の親までもが待っていてくれた。

 周囲には、黒い制服姿の黒騎士隊の人たちもいる。


 馬車から降りると、真っ先にご領主様がセラに駆け寄った。


「セラフィーヌ! よく来てくれたな!」

「はい、お祖父様。今年もお邪魔させていただきました。本日はどうぞ、よろしくお願いします」

「うむ。ゆっくりしていくとよい。クウちゃん様もよく来てくれました! それにゼノリナータ様、フラウニール殿、賢者殿も――。アーレの民を代表して心よりご訪問を歓迎いたしますぞ」


 威厳に満ちたご領主様が、クウたちに自分から頭を下げている。

 すごい光景だ。


「もちろん友人の皆も歓迎するぞ! 今年も盛大にパーティーを開く予定だから存分に楽しむといい!」


 今夜は豪華な食事を楽しめそうだ。

 キャンプのカレーもよかったけど、こちらも楽しみね。


 この後、他の方々にも挨拶して、私たちはお屋敷の中に招かれた。







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