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628 キャンプの朝





 おはようございます、クウちゃんさまです。


「ふぁ~あ」


 朝からあくび連発ですが、こればっかりはしょうがないのです。

 何故ならば。

 昨日は夜遅くまで……。

 というか、夜明けの寸前まで遊んでいたからです。


 とはいえ、いくらかは寝たので……。


 少しスッキリしました。


「セラ、おはよー。そろそろ起きようかー」

「うう……。はいぃ……」


 となりで寝ていたセラを起こして、私はテントから出ました。


 空はもう明るいです。

 朝の陽射しが、爽やかに川原を照らしていました。

 ここは森の中。

 空気が涼しくて心地よいです。


 同じテントで寝ていたもう1人――。

 エミリーちゃんは、とっくに砂利の川原に出て、スオナと2人で竈門に火を起こしていました。

 川のほとりにはマリエがいて、野菜を洗っています。

 ヒオリさんとアンジェは、川原に散らばったお菓子を片付けています。

 昨日の夜、妖精さんたちが食い散らかした残りだ。


 みんな、元気だねえ。


 フラウとゼノは、テントの中でまだ寝ているみたいだけど。


 テントは、万が一の鉄砲水を避けるために、川原の奥の斜面の上――土くれの広場に立ててある。


 私は身を浮かして、ひょいと川原に降りた。


「おっはよー!」


 今日の朝食は、昨日の夜と同じカレーだった。


 もう一回、食べたいっ!


 とゼノが言うので、そう決まった。


 アンド、パン。


 カレーの匂いが広がるとゼノとフラウもテントから出てきて、やがて川原で賑やかな朝食となった。

 うん。

 カレーは朝に食べても絶品だねっ!


「ねえ、クウちゃん」

「ん? どうしたの、マリエ」

「クウちゃんは、昨日、ゴブリンたちが来ることは知っていたの?」

「うん。アルくんから聞いたけど」


 なんで?


 と思ったら。


「言ってよー! 私、食べられるかと思ったんだからー!」

「あはは」

「笑い事じゃなーい!」

「でもマリエ、すごく仲良さそうにしてたよね。上から見たけど、なんの問題もなさそうだったし」

「で、ある。妾も様子は見たのであるが、さすがはマリエなのである」

「だねー。ボクも見たけど、さすがはマリエだよ」

「なにがさすがなんですかー!」


 朝からマリエが悲鳴みたいな声を上げる。


「助けてほしかったのなら、そう言ってくれればよかったのに」

「みんな、私を置き去りにして、空の上で遊んでたよね!」

「だってそれは、マリエが遠慮しておくっていうから……」


 私、ちゃんと誘ったよね。


「でも、ある意味、羨ましいわよね。ゴブリンに顔の利く人間なんて、間違いなくマリエだけよ」

「わたしも挨拶しておけばよかったなー。そうすれば、旅も安全だよね」


 アンジェやエミリーちゃんに羨ましがられて、マリエはあきらめた。


「……まあ、いいんだけど。たしかに、いい経験ではあったし」

「あはは」

「クウちゃんは笑う前に、今度からは教えてね?」

「あ、はい」


「それにしてもクウちゃん、ゴブリンからの贈り物はどうするんですか?」


 セラが川原に置いたままの品々に目を向ける。

 大きな葉に包まれた燻製肉に、果実に、骨細工や木工品。

 ゴブリンからの精一杯の品だ。


「ゼノへの謝罪の品なんだから、ゼノがもらえばいいんじゃない?」

「ボクはいらないよ。みんなで分けなよ」


「某としては、ゴブリンの燻製肉が人間に食べられるものかどうか、学術的に興味のあるところですが……」

「ねえ、ヒオリさん。でもさ、ニンゲンの肉だったり……しない?」


 アンジェがおそるおそる言う。

 否定はしきれないのが、怖い。


 まあ、それについては、私がアイテム欄に入れて確かめたところ、猪の肉と判明したのだけど。

 毒もないようで普通に食品と表示されていた。

 試しに食べてみると、美味しかった。

 どんな木で燻したのか、今まで食べたことのない独特な風味だった。

 ゼノやフラウも大いに気に入って、パクパクと食べた。

 その様子を見て、結局、セラたちも口に運んで、ゴブリン風燻製肉の意外な美味しさに驚いていた。


 果実は、普通に果実だった。

 こちらも食べてみたけど、普通に美味しかった。


「……ゴブリンの味覚は、わたくしたちと変わらないんですねえ」


 セラがしみじみと言った。

 それにスオナが同意する。


「そうだね。正直、僕も、ゴブリンには生肉を食べるくらいの野蛮な食文化しかないと思っていたよ」

「どんなところに住んでいるのか、今度、行ってみたいねー」


 私が気楽にそう言うと――。


「ねえ、クウちゃん」

「ん? どしたの、マリエ」

「私はいいよ?」

「うん。わかってるよー。ちゃんと誘うからー」

「ふふ」

「どしたの、マリエ?」

「ふふふ。クウちゃんったら、もう。逆だよ、逆」


 とてもにこやかにマリエは言った。


「逆?」

「うん。そう。逆なの」


 なんのことだろか。

 よくわからないね。


「ははは。クウは面白いね」

「はっはっはー。まあねー」


 スオナが笑うので、とりあえず私も笑った。


 まあ、なんにしても、旅がおわって覚えていたらの話だ。

 私はふわふわのクウちゃん。

 小鳥のように小さな私の頭には、そんなにたくさんのことは入らないのだ。

 忘れている可能性も大なのだ。

 旅は始まったばかり。

 ここからもいろいろなことがあるだろうし。


 その後は、ゴブリンの贈り物から妖精との夜に話題を変えて――。

 盛り上がりつつ――。

 朝食はおわった。


 カレーとパンは、ゼノとフラウとヒオリさんが食べ尽くした。

 ゴブリンの燻製肉と果実は、まだ残っていたので、道中のオヤツにしようということで馬車の中に入れた。

 工芸品については私がアイテム欄に預かった。

 旅の後でみんなに分配する予定だ。


 さあ。


 あとは、パパっと撤収作業をして、城郭都市アーレまでひとっ飛びだ。

 かなり距離はあるけど、フラウの翼ならお昼前後には到着するだろう。


 アーレでは、パレードに参加、パーティーに参加。


 アーレと言えば、騎士の息子テオルドくんは元気だろうか。

 エミリーちゃんに花束を送った子だ。

 あれから1年。

 果たして、どうなっているのか。

 私も楽しみにしておこう。




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