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620 久々のネミエの町





 丘を越えると、田園風景が広がる。

 田園の中を進んでいくと、ぽつりぽつりと民家が現れて、やがて町につながる。

 そこがエミリーちゃんの故郷、ネミエの町だ。


 エミリーちゃんたちとは、町に入る手前にあった休憩所で合流した。

 3人とも、見事に完走していた。


 エミリーちゃんたちを馬車に乗せて、町の中に入る。


「なんか、賑わってるね……」

「以前に来た時と比べると、かなり雰囲気が違いますね」


 私の知るネミエは――。

 ヒオリさんも同意見っぽいけど――。


 宿場町としては帝都から近いこともあって大して需要がなく、かといって特産品があるわけでもなく。

 商人も旅人も通り過ぎていくばかりの――。

 地味で古びた町だったのだけれど――。


 今、通りには、町に滞在しているらしき人の姿がそれなりにあった。

 新築された宿屋もある。


 む。


 オープンカフェのお洒落なお店があるね。

 と思ったら、姫様ドッグと姫様ロールのネミエ支店だった!


 むむ。


 大きな食料品店があるね。

 と思ったら、「オダウェル・マーケット」と大きな看板が出ていた!


「ねえ、あれってエミリーんとこのお店よね?」

「わぁ! ホントだ! お父さんのお店、ホントにあるんだー!」


 アンジェに質問されたエミリーちゃんが、馬車の窓から身を乗り出しつつ驚きの声を上げた。

 エミリーちゃんは、知ってはいたものの実感はなかったようだ。


 さらに、なんと。


 通りには「ぬいぐるみマート」のネミエ支店まであった。

 これには驚いた。

 以前、ウェーバーさんに支店を出していいかと聞かれて快くオーケーした記憶はあるけど、ここに出ているとは……。


「ウェーバー氏は、かなりこの町に投資したようですね」

「だねー」


 御者台に座るヒオリさんと感心し合う。

 目についたお店は、すべて、ウェーバー商会傘下のものだ。


 私たちは、まずはエミリーちゃんの家に行った。

 エミリーちゃんの家があるのは、町の外れ――。

 低所得の人たちが暮らす区画だ。

 ただ、このあたりも、再開発が進んでいた。

 たくさんの家が建て替わっていて、もはや貧乏区画とはいえない雰囲気だ。


 そんな中――。


 エミリーちゃんの家は、そのまま静かに残っていた。


「なつかしー! わたしの家だー!」


 家の前に馬車を止めると、すぐエミリーちゃんが家に駆け寄る。

 私たちも馬車から降りた。

 このあたりは、私にとっても懐かしい場所だ。

 エミリーちゃんの家の隣にある空き地で近所の人たちと宴会をしたのも、なんだか遠い思い出だ。


 みんなは元気なのかな。


 と思っていると、近所の子供と目があった。

 私は手を振った。


 子供は……。

 逃げるように身を返した。


 そして、叫んだ。


「大変だー! かーさーん! とーさーん! みんなー! エミリーお嬢さまが帝都から帰ってきたぞー!」


 そこから先は大騒ぎだった。

 ちょうど昼食時ということで農場から家に戻っていた近所の人たちが、ほとんど全員やってきたのだ。

 このあたりの人たちは、ほぼ全員がオダウェル商会に雇われて、姫様ドッグの辛味子と姫様ロールの甘味草を作っているとのことだった。

 おかげで随分と、それこそ家を建て替えることができるくらいに、生活はものすごく楽になったらしい。


 みんながオダンさんに感謝していた。


 エミリーちゃんはお嬢さまと呼ばれて、すっかり恐縮していたけど。


 この後は、エミリーちゃんの家の庭先で昼食を取った。

 お店に行く必要はなかった。

 これからの予定を聞かれてランチと答えると、近所の人がいろいろと持ってきてくれたのだ。

 裕福になっても、そのあたりの人情味はかわっていないようだ。

 私たちはありがたくいただいた。


 お腹が膨れたところで、オダウェル商会の人間がやってきた。

 エミリーちゃんが今日来ることは、連絡を受けていたらしい。

 ランチの手配をしてくれていたようだけど――。

 もういただいてしまったので――。

 軽く農場の見学をさせてもらうことになった。


 その人は、ウェーバー商会からオダウェル商会に移った人で、もともとウェルダンの下で働いていたそうだ。


 名前は、トミー。


 正直、どこかで見たことがあるね……。


 と思っていたら、農場への移動途中に話しかけられた。


「……あの、失礼ですが。もしかして、ふわふわ工房の店長様ですか?」

「はい。そうですけど……」

「やはりそうでしたか。あの時は本当に失礼しました」


 なんのことかと思ったけど……。

 トミーさんに説明してもらって思い出した。


 このトミーさん、初めてウェルダンがうちの店に来て横柄な態度でミスリルソードを売れと言った時――。

 一緒に付いてきていて、ウェルダンに杖で叩かれた部下の人だ!


「……よくウェルダンの下で頑張れてますねえ」


 まだウェルダンに付いているとは。

 感心するというより、私は呆れた。


「はは。そうですね。僕は、なにしろ優柔不断なので、なかなか辞めるにも踏ん切りがつかなくて。でも、お陰で、こうして大きな役職をいただけたので、結果としてはよかったですけど」


 まあ、それはそうか。

 町の人たちとも、上手くやっている様子だし。


 ちなみに、お昼の休憩は2時間もあるそうだ。

 いいねー。

 代わりに朝はかなり早いみたいだけど。


 オダウェル商会の農場は、町から出て川を越えた先にあった。

 かなり広い。

 丘ひとつを丸ごと整地して農園にしていた。


 トミーさんが言うには、ウェーバー会長の肝入で30名もの土魔術師が派遣されて一気に開拓したそうだ。


 ここで取れた素材は市場には流出させず――。

 余剰ができた分だけ、帝国各地に姫様ロールと姫様ドッグの支店を出していく計画なのだそうだ。

 いつの間にか、ものすごく大きな話になっている。


 農園の近くには、見覚えのある森があった。


「あそこって、ヒオリさんが倒れていた森だよね」

「はい。そうですね。懐かしいものです」


 たしかに、まだ去年のことなのに、もう何年も前のことに感じる。

 そういえば最初……。

 私はヒオリさんから逃げたんだよね。

 すっかり居着かれて、今では我が家の住民だけど。


 午後の仕事が始まる。


 農場の近くにある休憩所からも、ぱらぱらと人が出てくる。

 私は少し驚いた。

 何故なら、その中に――。

 剣や盾で武装した冒険者の姿もあったからだ。


 というか……。


 私はすぐに気づいた。

 冒険者の中に知り合いが混じっていた。


「おーい! やっほー!」


 私は大きく声をかけた。


 私の呼び声に気づいてくれたのは、ロックさんにブリジットさん――。

 それに、大盾使いのグリドリーさん、重戦士のダズさん。

 斥候のルルさん、火魔術師のノーラさん。

 私もよく知るSランクパーティー、『赤き翼』の面々だった。





トミーさん、1年と7ヶ月ぶり2度目の登場。

初登場は「51 またこのタイプか!」です。

思えばウェルダンも立派になったものです……\(^o^)/

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― 新着の感想 ―
[一言] そういやその森で腹ペコエルフが倒れててエミリーちゃんに助けられてましたな あの頃から比べるとヒオリさんも落ち着いたもんだ
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