614 ダンジョン攻略なのです!
こんばんは、クウちゃんさまです。
私たちは今、帝国のCランクダンジョン『ロロルト寺院』の地下――。
遺跡の点在する大洞窟にいます。
いやぁ、本当に敵が多くて、倒して倒して一段落が着くまでに気づけば午後11時を超えていました。
地下の大洞窟は、ゴブリンたちの一大拠点でした。
狼どころかヘルハウンドまで従えて、次から次へと襲いかかってくるので掃討はなかなかに大変でした。
私も格闘武器を持って戦いました。
おかげで格闘のスキルが、なんとか30までは上がりました。
カンストは120。
まだまだ全然です。
戦闘系のスキルは、ただ敵を倒すだけじゃなくて、ちゃんと技も学んでいかないと伸びが悪いみたいです。
時間があれば、格闘技の道場に顔を出してみようと思います。
お兄さまたちも大いに頑張りました。
今は、石で組まれて高台になっている祭壇の上で休憩中ですが、よく深夜まで戦い抜いたものです。
「――それにしても、この地下洞窟はなんなのでしょうか」
祭壇の上から大洞窟の広間を見回して、アリーシャお姉さまは言った。
周囲には遺跡が点在している。
ゴブリンたちは、その遺跡を拠点としていた。
お兄さまが推測を語る。
「はるか昔に、この地で、ロロルト寺院の僧侶とゴブリン族との間に大きな争いがあったのかも知れないな。ダンジョンというのは、その地に残る思念をコアが吸収することで具現化して生まれるという」
「帝国史には残っていないほどの太古――。なのですよね」
メイヴィスさんがしみじみと言う。
みんな、疲れ切っていて、あまり元気はない。
ただ、初めて来た時のようにレベルアップ酔いで倒れてしまって、そのまま戦闘不能という状態ではない。
みんな、成長して、逞しくなっているのだ。
「そういえばさ、師匠。結局、ガーディアンゴーレムってヤツ、散々前フリされといて一度も出て来なかったな」
「だねー」
ブレンダさんの言葉に私はうなずく。
するとウェイスさんが、
「俺たち的には地下に来て大正解だったが、多分、階段から上に向かっていくのが正規の探索ルートだったんだろうな」
なるほど。
それはそうだったのかも知れない。
ゴブリンの中にはボスっぽいのもいたけど、『ロロルト寺院』のボスと聞いていたアンデッドではなかったし。
この地下空間はエクストラ・ステージだったのかな。
明らかに寺院内よりも敵が強かったし。
「最後に行ってみます? せっかくだしボスを倒して帰りましょうか」
私は提案してみた。
もう戦いがおわって帰る空気だったので――。
すぐに返事はなかった。
ただ結局、メイヴィスさんが気合で立ち上がって、お兄さまとお姉さまも戦闘意欲を見せたので――。
行くことになった。
まあ、でも、さすがに連戦は大変という面倒というか。
時間がかかりすぎるので――。
ここは私の魔法で姿を消して、一気に寺院のボスのところまで――。
行こうとしたのが失敗だった。
なんと。
ガーディアンゴーレムは、見破りの力を持っていたのだ!
いきなり襲われた時には驚いた!
あわせて周囲にいた修行僧のアンデッドが絡んでは仲間を呼び寄せ、不覚にも大乱戦となってしまった。
もう面倒なので『アストラル・ルーラー』で一掃しようかと思ったけど、さすがに無粋なので私は補助魔法に徹した。
結局、寺院の最上階、ボス部屋の前にたどり着いたのは――。
時計を見れば朝方だった。
さすがの私もくらくらだ。
久しぶりのくらくらクウちゃんなのだった。
正直、テンションはだだ下がり。
アクビがぽかぽかと出て、どうしようもなかった。
ただ、この頃には、もうみんな――。
私以外は――。
限界突破して逆にハイテンションだった。
「クウ、最後の戦いは、見ていてもらってもいいか?」
お兄さまが言う。
「補助魔法もなしってことですか?」
「ああ。最後は俺たちだけで、やれるところまでやってみたい」
「いいですけど……。下手すると死にますよ?」
「蘇生はしてもらえるのだろう?」
「そりゃ、しますけど……」
「なら問題はないな」
お兄さまが笑うと、他の面々も同意して笑った。
「なあ、師匠、Cランクダンジョンのボスに勝てれば、Cランク冒険者並の強さはあるってことだよな」
「まあ、うん。そういうことじゃないのかなぁ……」
正直、よく知らないけど。
そういうことのような気はする。
「さすがにもうそれくらいの強さはあると思うんだよな、私等」
「そうですね」
ブレンダさんの意見にメイヴィスさんが同意する。
お兄さまたちもうなずいた。
というわけで。
私は見学者クウちゃんになった。
ボスの情報はある。
敵はアンデッド。
寺院の長たるボスが真ん中にいて、左右に魔術師タイプの高僧。
加えて、わらわらと修行僧が出てくる。
盾を構えたウェイスさんがボスを受け持ち――。
お兄さまが雑魚退治。
水魔術師のレイリさんは離れてサポート。
残った、メイヴィスさん、ブレンダさん、お姉さまが、全力攻撃で左の高僧から倒していく。
「行くぞ! ウェイス!」
「おうよ!」
お兄さまの号令に合わせて、ウェイスさんが扉を開けた。
敵を目視して、一気に突撃する。
戦いは激戦となった。
いきなり高僧の範囲魔術が炸裂して、部屋に氷のつぶてが吹き荒れた時にはヒヤリとしたけど――。
計画通り、お姉さまたちは高僧に攻撃を集中して――。
お兄さまが部屋を走り回って、あちこちから湧き出す修行僧を斬りつつ、ウェイスさんが崩れそうになった時にはフォローし――。
レイリさんが的確に回復魔術をかけ――。
死者なく、ボスを討伐することができた。
ボスが崩れて魔石に変わった瞬間――。
「おおおおおおおっ!」
ガラにもなくお兄さまが吠えた。
ウェイスさんも吠えた。
「勝てたぁぁぁぁ! やったぜぇぇぇぇぇ!」
ブレンダさんは叫んだ。
お姉さまとメイヴィスさんとレイリさんは、そんな3人を見つつ、壁に背を預けて大きく息をついた。
私は拍手した。
みんな、昨日から延々と戦ってきたのに、よくもまあ、最後の最後まで力を振り絞れたものだと思う。
これが若さかっ!
私はとっくに、くらくらなのですが。
あとは、ボスを討伐したことで開いた扉の奥に入って――。
そこにある転移陣に乗って――。
入り口エントランスに戻った。
ここで私は、ゼノたちのことを思い出した。
すっかり忘れていた。
ゼノたちはエントランスにいない。
どうしたのだろうか……。
今更すぎるけど、急に心配になって、探してみた。
すると、地下にいた。
ゴブリンの集落からは離れた、入り組んだ洞窟の奥の広間だった。
広場には、蜘蛛の巣がびっしりと張られていた。
うわぁ……。
なんか、ひと目見て、私は引いた。
腕組みして宙に浮かんだゼノが偉そうに見守る中――。
広場の手前に陣取ったロディマスさんたちが――。
巣から湧き出す蜘蛛のモンスターを、一言もしゃべることなく、まるで機械のように倒していた。
足元には、ごろごろと魔石が転がっている。
いくつあるのだろうか……。
楽に100は超えている……。
「ゼノ、そろそろ終わろっかー。もう外は朝だよー」
「あ、クウ。もうそんな時間か」
「うん。帰ろー」
「りょーかい。こいつらは、まあまあ強くできたと思うよ。途中で死んだり発狂したり大変だったけど、ここの蜘蛛の巣を見つけてからは、ご覧の通り、ひたすら戦闘に専念できていたし」
う、うん。
そのようですね……。
まあ、最初からこういう修行になることはわかっていたので……。
強くなれて、ロディマスさんたちも本望だよね……。
かくして。
予定を大幅に超えて、朝帰りとなってしまったけど――。
お兄さまたちとのダンジョン特訓はおわった。
ちなみに魔術のスクロールは、5本だけ取れました。
スクロールがほしければ、地下に籠もるのではなく、寺院内で戦う必要があったみたいです。
バルターさん、期待に添えずにごめんなさい。
かわりに魔石は大量ですよ!




