609 一学期終了!
7月9日。
終業式。
全生徒が大講堂に集まって、ヒオリさんの話を聞く。
賢者の衣装を身に着けたヒオリさんは、と言っても私たちと変わらない少女の外見なんだけど――。
さすがというかなんというか――。
ちゃんと学院長に見えてしまうから不思議だ。
400年を生きてきた大人の貫禄だね。
話の内容は、夏休みだからと言ってハメを外すことなく、しっかりと剣や魔術や勉学にも励み……等々。
いわゆる校長先生トーク。
聞いていると、自然にアクビがこぼれるというものだ。
話がおわった後は教室に戻って、今度は担任の先生から話を聞く。
学院には、夏休みの宿題はない。
長い休みに何をするかは、すべて生徒の自由だ。
先生の話がおわれば、今日の学校はそれで終了。
夏季休暇の始まりだぁぁぁ!
「なんか、一学期、あっという間だったねー」
先生が教室から出て行った後、アヤが背伸びをしてそう言った。
「だねー」
私は大いに同意する。
「クウちゃんは夏季休暇は旅行に出るんだよね?」
「うん。旅行から帰った後も工房で必要な素材を集めに行くから、この夏はあんまり家にはいないかなー」
「お仕事、大変だねー」
「アヤはどうするの?」
「私もうちの雑貨屋のお手伝いかなー」
アヤの家は雑貨屋さん――というか、前世の知識的にはスーパーマーケットを運営している。
食料品を中心に、衣服や文具、金物。
日常生活に必要なものをあれやこれやと売っているお店だ。
私も行ったことはあるけど、手軽にいろいろなものが揃うお店として、けっこう繁盛していた。
「アヤも大変だねー。またお店にも行かせてもらうねー」
「うん。来て来てー。お店で私と会えたらラッキーサマーってことで、サービスしてあげるよーっ!」
「ホント? やったー! じゃあ、私の工房にも、私がいる時に来たらラッキーサマーしてあげるよー!」
「やったー! ちょっとだけ期待しちゃうねー!」
会えるかどうかはわからないけど、アヤとはそんな約束をして――。
エカテリーナさんにも挨拶しておく。
主に勉強でお世話になりました。
ありがとう!
また二学期にね!
ラハ君やダリオ、他の女の子にも挨拶しておく。
またねー!
しかし、夏休みか……。
ふむ。
せっかくだし、工房で夏限定グッズなんて販売してもいいかもだね。
精霊ちゃんぬいぐるみ、夏バージョン!
白いワンピースに麦わら帽子とか。
いいかも知れないね!
家に帰ったら作ってみよう!
あと、レオにも声をかけた。
「レオ、ちゃんと夏休みは勉強しなよー?」
ビリだったんだから。
私は、うん。
2番目だったので余裕ですけど。
「はぁ!? おい、誰に言ってんだよ! この天才の俺様に向かっ……て」
「え? なぁに?」
レオが最下位だったことを私は知っている。
レオも、私にはバレていることをすでに理解している。
すなわち。
「わ、わかってるよ! 任せとけって!」
ふ。
勝った!
「クウちゃんもですよね。工房も大変だと思いますが、一学期の復習はキチンとしておいて下さいね」
と、エカテリーナさんに言われて――。
「は、はい……」
結局、私も大して変わらない結果に落ち着いたのではありますが。
「おい、クウ! 勉強なら俺が教えてやろうか? なんなら夏季休暇の内に勉強会でも開いてやろうか?」
何故かレオのヤツに思いっきりバカにされた。
「結構です」
私はツンとそっぽを向いた。
君は私以下だろうがー!
まったく、私が優しさだけで黙ってやっているというのに!
ともかく。
そんなこんなで賑わしくしつつ……。
私たちは教室を出た。
みんなとは学校を出たところでお別れする。
今日、私はこの足で冒険者ギルドに行く。
制服のままだと目立つので、一旦物陰に入って、ユーザーインターフェースの装備欄から精霊の服に着替える。
まったく私という子は、なんて便利なのでしょうか!
で。
なぜ冒険者ギルドに行くかと言えば――。
もうすぐの旅行に備えて、私たちが向かう南の方に、何か面白い情報はないかリリアさんに聞くためだ。
魔物の発生で困っている地域があるなら助けてあげてもいいし。
冒険者ギルドについた。
ドアを開けて、私は普通に中に入った。
すると――。
若い女の子の大きな声が響いた。
「何故だ! 私は、剣にも魔術にも秀でている! そこでたむろしている万年Dランクの連中などには絶対に負けない強さを持っている! 冒険者資格を出すくらい簡単なことだろう!」
「ですから、年齢制限があるんですよ。冒険者は15歳からです。貴女は先程の鑑定で12歳と出ましたよね」
受付カウンターで担当していたリリアさんは完全に困り顔だ。
たむろしている冒険者たちは、怒り狂う少女を相手にせず、呆れた顔を浮かべつつも無視している。
うん。
ここが帝都でよかったよ。
他の町の冒険者ギルドなら絶対に誰かに絡まれるところだ。
というか自分から喧嘩を売っているのか。
なんにしても、ロクな目に遭わないところだ。
「サクナ、何やってるの? みんなの迷惑だよ」
私は仕方なく声をかけた。
リリアさんに怒り狂っているのは――。
学院の制服に美しい緑色の髪を流した、耳の長い華奢な同年代の少女――。
エルフのサクナだった。




