表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

605/1359

605 閑話・アンジェリカの寮生活






「――本日も素晴らしい糧を与えてくれた精霊様に感謝を。

 ハイカット」


 ――ハイカット。


 寮長に続いて祈りの言葉を捧げて――。

 今日の夕食が始まる。


 私はアンジェリカ・フォーン。

 今年の春に城郭都市アーレから出てきて、今は帝都中央学院の学生寮で暮らしている12歳だ。


 広い食堂には、1年生から5年生まで――。

 約100名の寮生が揃っている。

 皆、姿勢を正しくして、運ばれてきた最初の料理を口に運んでいく。

 寮生には、地方から出てきた貴族のお嬢様も多い。

 料理はいつも貴族グレードのものが出てきて、豪華だ。

 私もいただくことにする。

 最初の1週間は緊張して、先輩方の目も気になって、ひたすら静かに礼儀正しく食べていたけど――。

 今はもう慣れて、普通に味わっている。

 食事中の会話は禁止されていない。

 夕食の食堂は賑やかだった。


「初めてのテストはどうでしたか、アンジェリカさん」


 隣の席に座るメリエーナ先輩が話しかけてきた。


「はい。平気でした。先輩は――あはは。平気ですよね」

「ええ。もちろん」


 メリエーナ先輩は北方の貴族家のお嬢様だ。

 年齢は私より1つ上の13歳。

 現在2年生。

 いつでも優雅で上品な方で、見ているだけでもマナーの勉強になる。


「セラフィーヌ殿下も問題ありませんでしたか?」

「はい。完璧だと言っていました」

「そう――。それはよかったです。わたくしで力になれることがあれば、なんでも力になりますから、何かあれば相談して下さいね」

「ありがとうこざいます。殿下にも、そう伝えておきます」


 メリエーナ先輩は、セラの最初のお茶会に呼ばれた3人の内の1人だ。

 先輩は選ばれたことを誇りに思っている。

 対外的に見ても、それは本当に名誉なことだ。

 なのでセラのことを、いつも気にかけている。


 でも、実はセラは……。

 目を閉じて、「えいっ」と適当に丸を打って決めただけ……。

 ということを私は知っている……。


「どうかしましたか?」


 メリエーナ先輩が、私の微妙な緊張に気づいて首を傾げる。

 私はあわてて誤魔化した。


「あ、いえっ! 明日のことを考えてしまって。殿下とも勝負なので――」

「アンジェリカさんも魔術科でしたものね。たしかに――。手を抜くことは許されませんが、どう立ち振る舞うべきかは悩むところですね」

「先輩が1年生の時は、どんな実技をしたのですか?」


 メリエーナ先輩も魔術科の生徒だ。

 この後は、先輩からいろいろと実技の話を聞いた。


 食事が終わって部屋に戻る。

 次はお風呂だ。

 学生寮には、魔石をふんだんに使った豪華なお風呂がある。

 お風呂は2組に別れて入る。

 1年生は2組目なので、まだ少し先だ。


 トントン。


 と、ドアがノックされて、返事をすると、スオナが部屋に入ってきた。

 お風呂までの時間は、スオナといることが多い。


「いやー、まいったよ。先輩達にさ、明日は絶対にセラに勝ちなさいとハッパをかけられてね」

「期待の星だもんねえ、スオナは」

「勘弁してほしいよ。入試の時のセラとは、もう違うからね」


 入試の時、セラは単に魔法を唱えただけだった。

 なので評価は低かった。

 今は違う。

 評価を得るために必要なことを、セラはすでに理解している。

 さらにこの数ヶ月で、魔力を伸ばし、新しい魔法をいくつも習得して、魔力の繊細な操作も身に着けた。

 セラが好敵手であることは確かだ。

 もちろん、私だって負けてはいないけど。


 しばらくおしゃべりしていると、お風呂の時間になった。


 廊下で他の子たちとも合流して、みんなで向かう。


 更衣室で服を脱いだ。


 さあ、湯船に使ってのんびりと――。

 したいところだけど、まずは体を洗わなくちゃね。


 それにしても……。


 スオナの腰まで伸びた黒髪は、服を脱いで裸になると特に目立つ。

 まっすぐで艶やかで、夜空の衣みたいだ。


 その綺麗な長い黒髪を、手のひらでよく泡立てたシャンプーでスオナは丁寧に綺麗にしていく。

 なんとなく横目に見てしまう上品で色艶やかな光景だ。


 ちなみに私たちは、髪を乾かすのは簡単だ。

 なにしろ魔術がある。

 私の風の力で水分を飛ばしてもいいし、水の魔術には乾燥もある。

 まあ、あえて魔術を使わなくても、脱衣所には髪を乾かすための専用の魔道具があるんだけどね。

 このあたりもさすがの豪華さだ。


 髪と体を綺麗にして――。

 布で髪をまとめて、ようやく湯船に浸かった。


「はぁ。生き返るぅ」


 私が完全にリラックスした姿勢で思わず声を漏らすと、スオナに笑われた。


「アンジェ、なんだか年寄りっぽいよ」

「そういうスオナは、いつでもちゃんとしているわねえ」


 スオナは、湯船の中でも姿勢正しい。


「自分で言うのも変だけど、これでも僕は随分と解放されているよ」

「……保護下にあった頃と比べて?」

「うん。そうだね」

「そかー」

「はは。それはクウのマネかい?」

「あ、わかった?」

「さすがにね」


 2人で笑い合った。


 その後で私は、ずっと気になっていたことを――。

 思い切ってたずねてみた。


「……ねえ、スオナ。ガイドルさんとの事って、もうおわったのよね?」

「ああ」


 スオナは短く答えた。

 その声は、さっぱりしたものだった。


「ねえ、アンジェ。どうして今さら、聞いたのかな?」

「あ、うん。スオナの家――。エイキス家の復興って、ガイドルさんとの結婚が前提になっていたのよね?」

「そうだね――。そうだったよ」

「今は、どうなってるのかなあって……」

「僕の成績が優秀であれば、学院を出て魔術師団に入るのに合わせて、エイキス家の復興は許される予定になっているよ」

「そっか。それならよかった」

「はは。心配してくれていたのかい?」

「うん。だって、そういう話、する機会もなかったでしょ」

「そうだね。言われてみれば」

「よかったよかった」

「ところでアンジェも、魔術師団志望なんだよね?」

「ええ。そうね――」

「なら将来も、僕と一緒かも知れないね」

「正直、ちょっと迷ってるんだけどね……。クウを見ていると、他にも何か面白い道がありそうで」

「冒険者とかかい?」

「それもアリかな。スオナも冒険者を目指していた時があるのよね?」

「そうだね。橋の下にいて、クウと出会った時に」


 私たちの未来は、まだまだこれからだ。

 道は続いていく。

 一体、どこに、行くのだろうか。


 それを考えるのは――。


 怖くもあるけど、でも、とてもとても楽しかった。

 とてとてだ。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] アンジェにハイカットの意味を教えましょう!
[一言] アンジェちゃんやエミリーちゃんのクウちゃんのマネがでると心がふわふわする自分がいる。今日も平和だ~。
2022/11/24 14:06 となりのにゃんぱすー
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ