60 学院祭の招待状
「これ、どうぞ」
立ち上がっていた2人にそれぞれ剣を渡す。
「へえ。私はこれか」
ブレンダさんが両手で大剣を振り回す。
「突き、ですか……」
メイヴィスさんは剣の具合を確かめつつ何回か剣を前に突き出す。
「いろいろ試してみないとわからないが、いい感じはする。とりあえず、この両手剣は買わせてもらうよ」
「わたくしも買います。この剣、今のものより明らかに使いやすいです。それにこの刃は確実に切れ味抜群です。素晴らしいです」
まいど!
代金はそれぞれ付き添いの人から後でもらうことになった。
お店に戻って、お店のテーブルで水を出してあげる。
クッキーもつけた。
「私は鞘とベルトを用意してきますので、ゆっくりしていてください」
「おう。ありがとな」
「はい」
「わたくしは元気なままですし、ついていこうかしら」
「えっと」
「よいですわよね、クウちゃん」
「は、はい……」
さすがは皇女様。
皇妃様と同じで笑顔の圧力がすごい。
仕方なく2人で工房に入った。
「わたくし、一度、クウちゃんがものを作るところを見てみたかったの。精霊の力で作ることはわかるし他言はしないから、普段通りでお願いしますわね」
「ホントに秘密ですからね?」
「精霊に誓いますわ」
「私に誓われてもー」
「ふふ。そうね。ごめんなさい。なら、お姉さまとして約束します」
「……ならいいですけど」
見せてあげると、目を丸くして驚かれた。
「不思議な力ですわね」
「あはは。セラにも言われました」
「セラフィーヌが羨ましいですわ。こんなに素敵なお友達がいて」
「お姉さまはお姉さまですよね?」
「あら、そうだったわね。こんなにかわいい妹ができて嬉しいですわ」
「セラがいるじゃないですかー」
「もちろんセラフィーヌは素敵な妹よ。でもセラフィーヌはクウちゃんみたいにぽけっとしていないから、今はもう構う必要はないですわね」
呪いが解けて元気になったから、か。
セラ、しっかりしているしね。
ちなみに私はぽけっとなんて、たまにしかしていないけどたまにしている気はするので否定はできないっ!
「お姉さまのお土産、今でも楽しみにしていましたよ、セラ」
「あら、そうなの?」
「はい。ぜひ、あげてください」
なくなるのは悲しいよね、きっと。
「わかったわ。今日はここで何か買わせてもらおうかしら」
「いいものがあればぜひ。店の中、見てみてください」
お店に戻る。
鞘とベルトは気に入ってもらえた。
メイヴィスさんとブレンダさんが楽しそうに体に取り付けていた。
私はお姉さまのフロア巡りについていく。
「あら。このぬいぐるみはクウちゃんかしら? かわいらしいですわね」
「はい。もうセラにはあげちゃいましたけど」
「私もいただこうかしら。ひとついい?」
「はい。まいどです」
セラへのお土産はオルゴールに決まった。
再びまいどっ!
ちなみに私のぬいぐるみは、メイヴィスさんとブレンダさんも買ってくれて、それで在庫が尽きてしまった。
素材はあるからすぐに補充できるんだけどね。
ブレンダさんは他にもぬいぐるみをいくつか買ってくれた。
意外なことに、可愛いものが好きらしい。
「しかし、迷うな。今までの剣で潰すか、この大剣で潰すか」
言っていることは物騒だけど。
「何かあるんですか?」
「クウちゃんにはこれを差し上げておきますわ。時間に都合がつくようなら、ぜひ遊びに来てくださいね」
お姉さまがくれるのは豪華な封筒だった。
封はされていなかったので開けてみると、学院祭の招待状が入っていた。
「……私、入れるんですか?」
「招待状があれば平気よ」
「ありがとうございますっ! なら行きますっ!」
これは楽しみだ。
学院ってどんなところなのか興味もある。
「あ、もしかして、学院祭で武闘大会とかあるんですか?」
「わたくしは出ませんが、ブレンダとメイヴィスが参加予定です」
「おおっ!」
「いけすかない男連中を、地面に転がしてやるのさ」
「喧嘩を売ったのは確実にブレンダでしたけど」
ぬいぐるみを可愛がりながらまた物騒なことを言うブレンダさんの横で、メイヴィスさんがくすくすと笑う。
「おまえもすぐに乗っただろう?」
「それはもちろん。戦場で男に勝るなんて大言は吐きませんけれど、競技としての剣なら話は別です」
「そうだ。メイヴィスさんって、セラ――セラフィーヌとは面識がありますか?」
「いいえ。セラフィーヌ殿下はまだ社交の場に出てきていませんから、ご紹介を受けるとしてもこれからです」
「そうですか、残念。セラには突きと払いの基本を教えてあるので、一緒に練習すれば参考になると思ったんですけど……」
「放課後に、クウちゃん師匠に指南いただけると嬉しいです」
「それはいい。頼むよ、師匠」
メイヴィスさんとブレンダさんに詰め寄られる。
「無理ですっ! 私、お店の番があるのでっ!」
「客なんて来るのか、この店?」
ブレンダさんに真顔で言われた。
なんて失礼なっ!
「これから来る予定ですっ!」
たぶん。
「なら今はどうかしら? わたくしがお店にいますから、セラフィーヌに教えた基本を教えてあげてもらえると嬉しいですわ」
「お姉さまが店番ですか……?」
「メイドにも居てもらいますから心配は無用です」
そんなわけで教えることになった。
確かに、突きと払いの基本になる4つの型を学ぶだけでも、メイヴィスさんには得るところがあるだろう。
せっかくなら男の人に勝ってほしいし、頑張って教えた。
ブレンダさんとはひたすら打ち合った。
途中からは、店番をメイドさんに任せてお姉さまも練習に参加した。
ブレンダさんやメイヴィスさんほどではないけど、お姉さまもそれなりに剣が使えて驚いた。
お客さんが来たらおしまいだからねっ!
と念は押したのだけど。
お客さんが来ることはなかった。
結局、休憩を挟んで、合計で3時間も指導してしまった。
お別れする時に気づいた。
お店の外に、お嬢様たちの護衛が何人も立っていた。
お客さん、来るわけがないよね。
誤字脱字の報告ありがとうございました。
修正しておきました。




