592 親友対決! メイヴィスvsブレンダ!
短い休憩を挟んで、武闘会の二回戦が始まる。
一回戦よりも白熱した剣撃が展開されて、会場も大いに盛り上がった。
そして――。
メイヴィスさんとブレンダさんが試合場に上がった。
メイヴィスさんは細身の剣。
ブレンダさんは大剣。
果たして、どのような試合になるのか――。
この2人は、いつも打ち合っている。
私もかなり見てきた。
なので試合内容の予想はできる。
たぶん、ブレンダさんがどんどん前に出て、メイヴィスさんがカウンターを狙う展開になるだろう。
でも、あるいは、私の知らないところで、何かトリッキーな技を準備してきているかも知れない。
すっかりと実力をつけた2人の、本番の戦いだ。
大いに楽しませてもらおう。
水魔術師たちが、2人に保護の魔術をかける。
武器にも本人にも、しっかりと。
準備が整ったところで、少し距離を取って正面から向き合う。
2人は笑顔だった。
「始め!」
審判が試合開始を告げた。
「「ダブルスラッシュ!」」
2人が同時に武技を放った。
左右からきらめく刃が、それぞれにぶつかりあう。
まさに閃光の2連撃だった。
会場がどよめく。
私も驚いた。
まさかいきなり使ってくるとは。
とはいえ、大剣と小剣だ。
正面からぶつかれば、当然だけど大剣の方が強い。
メイヴィスさんがわずかにバランスを崩す。
その隙をブレンダさんは見逃さない。
転倒狙いなのか、膝に向けて大剣をフルスイングしてきた。
メイヴィスさんは崩れた体の流れに逆らわず、そのままうしろに跳ぶと共に体を宙で後方回転させた。
体が逆さになったところで床に手をついて――。
ブレンダさんの位置を確認。
腕の力だけで斜め前に跳んで、そのまま小剣で切りつけた。
剣を振り回したばかりのブレンダさんは回避行動を取れず、腕に一撃を受けて小さな嗚咽をもらした。
いやー、すごいね。
メイヴィスさん、体操選手も顔負けだ。
その後も激しい攻防が続いた。
当たれば一撃で決まりそうなブレンダさんの強打を、メイヴィスさんが巧みに捌いていく。
一度は捌ききれずに膝をついたけど――。
すぐさま動いたこともあって、勝負有りの判定には至らなかった。
ブレンダさんは、小さな攻撃をいくつも受けた。
保護魔術のおかげで普通に動いているけど、それがなければ、かなりの出血を強いられていることだろう。
パワーとスピードの、いい勝負だった。
あっという間に2分が経過した。
試合時間は3分。
あと1分しかなくなった。
ここで2人が剣を止めた。
「ねえ、ブレンダ。判定なんて面白くないですよね」
「だな。防御魔法もかけてもらってるし、例のアレ、やるか?」
「ええ。そうですね」
少し会話した後、2人はあらためて剣を構えた。
何が起こるのか。
私は知っている。
バーサーカー・タイム。
すなわち、回避や防御なんて捨てて、ただ一心に攻撃だけを行う時間だ。
打ち合いもしない。
呼吸を合わせて、同時に、お互いの体に打ち込む。
私の防御魔法が大前提になっているとはいえ――。
見ていてヒヤヒヤする、狂気のような殴打合戦だ。
あれ、でも。
私は、ふと思う。
たぶん、2人はわかってやっていると思うけど――。
今はさ、私の防御魔法、かかっていないからね?
水の防御魔術だって大したものだけど……。
一度くらいなら、きっと、防いでくれると思うけど……。
やっぱり、私の魔法の方が効果は強いし……。
いつものノリでやっちゃうと、とんでもないことになるかもだよ?
なにしろ、うん。
メイヴィスさんもブレンダさんも、かなり強くなっているし。
ブレンダさんが大剣を上段に構える。
メイヴィスさんは小剣を後ろ手に低く寄せた。
「うおおおおおおお!」
「――っ!」
上段からの一撃と渾身の突きが、ほぼ同時にお互いに命中した。
2人は止まらない。
体にかけられていた水の防御魔術が弾けたことなんてお構いなしだ。
というか、気づいていない。
私はとっさに動こうとしたけど、観客席からではさすがに間に合わない。
審判さんも瞬時に試合を止めることはできなかった。
「次ぃぃぃぃぃぃぃ!」
「ダブルスラッシュ!」
ブレンダさんのフルスイングが、メイヴィスさんに襲いかかる。
メイヴィスさんは武技を放った。
どちらも直撃した。
メイヴィスさんは吹き飛び――。
ブレンダさんは、その場で崩れ落ちた。
…………。
……。
会場は静まり返っていた。
2人とも動かない。
審判さんが、ダブルノックアウトを宣言して――。
すぐさまステージに水魔術師の人たちが駆け上がってくる。
幸いにも、武器にかけられた保護魔術は、まだ生きていた。
なので致命傷にはなっていない。
回復の魔術がかけられ、命に別状のないことが観客にも伝えられる。
よかった。
ただ、意識は戻っていない。
2人は担架で運ばれた。
やがて意識は戻るだろうけど――。
ルール上、2人とも重傷扱いで試合としては棄権となった。
まあ、うん。
しょうがないね。
「ねえ、クウちゃん……。あの2人って、やっぱりすごいね……。あんなに正面から斬り合って怖くないのかな?」
アヤが試合の余韻を引きずりながらつぶやいた。
「アヤ、真似しちゃ駄目だよ?」
「しないよー! ていうか、できるわけないよねっ!?」
「いや、だってアヤ、筋肉が好きだし……」
「関係ないよ、それっ!」




