591 一回戦、メイヴィスvsブレンディ!
武闘会、一回戦はさくさくと進行していく。
そして再び――。
私の知り合いが試合場に登場した。
アンジェにデートを申し込んだブレンディ先輩と、メイヴィスさんだ。
ブレンディ先輩は、私にも縁のある人だ。
去年、帝都にアンデッドモンスターが発生した夜――。
ブレンディ先輩は、夜の町を遊び歩いていた。
そして、アンデッドモンスターに襲われ、あわやというところを、ローブ姿の私に助けられた。
――その時、私はセラのフリをしていたけど。
助けられたブレンディ先輩は改心して今は真面目に頑張っている。
果たして――。
すでに学院では知らぬ者のいない存在となったメイヴィスさんに、ブレンディ先輩はどこまで立ち向かえるのか。
見ものだ。
ブレンディ先輩は、剣に盾。
堅実な騎士科のスタイルだ。
メイヴィスさんは、細身の剣を一本。
その戦闘スタイルはセラに近いけど、セラと比べるとかなり攻撃的だ。
戦いは、メイヴィスさんの苛烈な攻めを、いかにブレンディ先輩が防ぎ、反撃の糸口を見出すのか――。
そんな感じになるのではないかと、私は予測している。
「始め!」
さあ、どうなる!
どうする!
「それまで! 勝者、メイヴィス!」
ふむ。
ブレンディ先輩が、開始直後に突き飛ばされておわってしまった。
拍手の中、メイヴィスさんが一礼する。
「今、何がどうなったのかしら……。攻撃、したんですよね……」
「突きだね」
「本当に、一瞬の風のようですね……」
エカテリーナさんは呆然としている。
観客の多くも、そんな感じだ。
なにしろ本当に、一瞬の早業だった。
ブレンディ先輩は、運がなかったね。
最上級生だから、次の機会は、学院ではもうないけど――。
またどこかで試合することがあれば、ぜひ雪辱を果たしてほしいと思う。
そして――。
一回戦は終了した。
セラ、メイヴィスさん、ブレンダさん。
そして、ガイドル。
私の知り合いは、4人が進出した。
二回戦への進出者たちがステージに揃って立つ。
対戦相手の公開抽選だ。
箱の中に入ったボールを、それぞれが手に取って、そこに書かれていた数字を会場に見せていく。
結果、こうなった。
メイヴィス vs ブレンダ。
セラ vs マンティス。
ガイドル vs ネスカ。
メイヴィスさんとブレンダさんは――。
早くも対決だ。
まさに、事実上の決勝戦――。
と言えるのではないだろうか。
技のメイヴィスさん。
力のブレンダさん。
どちらが勝ってもおかしくはない。
試合が楽しみだ。
セラの対戦相手は、冒険者を目指している騎士科の4年生。
私は、顔も名前も知らなかったけど――。
一回戦で観客から受けていた声援を聞くに、クラン『ボンバーズ』に見習いとして在籍している子のようだ。
ボンバーやタタくんが認める後輩ということなのだろう。
確か一回戦では、剣と盾を使った、騎士科の授業で学んだであろう基本に忠実な戦いで勝利していた。
体格的には、背は高いけど、筋肉はそれほど発達していない。
他の騎士科の男子生徒と比べて明らかに細身だ。
ただ、妙に腕が長くて、そのリーチを活かした剣撃については、しっかりと警戒が必要になるだろう。
特にセラは小柄なので、相手のペースにハマってしまうと、一方的に攻撃される展開になってしまうかも知れない。
ガイドルの対戦相手は、銀髪で日焼け肌の女生徒だった。
ネスカ・F・エクセラさん。
ブレンディ先輩とマキシム先輩の友人だろうか。
そんな気がする。
騎士科の5年生。
一回戦では、見事な投げ技で同じ騎士科5年生の対戦相手を破っていた。
学院では、投げ技が使えることを隠していたのかも知れない。
完全な不意打ちだった。
対戦相手は、まさか投げられるとは思っていなかったようで、負けた時にはポカンとしていた。
ガイドルは、すでにそのことを知っている。
一回戦の生徒よりは、有利に戦えるだろう。
「ねえ、クウちゃん、エカテリーナさん、誰が優勝すると思う?」
「んー。そだなー。アヤはどう思う?」
「私?」
アヤが悩んでいると、うしろからレオが身を乗り出してきた。
「俺が思うに、今回はマウンテン先輩だな。やっぱさ、デカさはパワー! デカいヤツが勝つぜ!」
マウンテン先輩は、確かに今回の大会で一番の巨躯だ。
まるで相撲取りのように立派な体をしている。
レオの言う通り、デカさはパワーだ。
実際、一回戦では、それこそ山のようにそびえて、相手を圧倒した。
「しかし、それですと、メイヴィス様やブレンダ様は、そもそも勝負にもならないほどの小柄ですよね」
「あと、セラフィーヌ様だってそうだよねえ」
アヤがエカテリーナさんの言葉に同意する。
「あれ。もしかしてレオ、不敬罪?」
私がからかうと、レオは大いに慌てて言い訳した。
ふむ。
ちょっとシャレにならない、イヤなからかい方だったね。
私は謝って、話を変えてあげた。
「でもレオって、デカい男になりたいわけ?」
「そりゃ、男ならデカい方がいいだろー」
「そんなことはないと思うけどー」
私は顔をしかめた。
だって、どうしてもボンバーが脳裏に浮かぶ。
「まあ、見てろって。俺は今、ガッチリ成長しているからな。あと4年もすれば俺もマウンテン先輩やボンバー先輩みたいになるからよ」
「そうなったらさ……」
「おうっ!」
「ぜーったい、近づかないでね」
「はぁ!? 逆だろ!? 筋肉に触らせて下さいだろ!?」
いや、うん。
心の底から遠慮させていただきます。
ちなみに、この私の本音にエカテリーナさんは同意してくれたけど、アヤは微妙な態度を示した。
筋肉、嫌いじゃないみたいだ。
ヒトの好みは、それぞれということのようです。
 




