590 立てぇぇぇぇ! そして、決着!
さあ、イード選手とガイドルの戦いは一気に白熱してきた。
全力で突進して、ガイドルが剣を振るう。
振り下ろされた刃が――。
ガキンッ!
激しい音を立てて、回転する槍にぶつかる。
「押し切れぇぇぇぇぇぇ!」
私はガイドルを応援した。
だけど、結果は厳しいものだった――。
「ぐはぁっ!」
押しきれなかったガイドルが弾き飛ばされて、石畳の上に倒れた。
手から離れた剣が――。
宙を舞って、ガイドルの脇に落ちる。
「駄目かぁ」
私は落胆した。
ただ、勝負有りとの声は審判からかからなかった。
突撃して、弾かれて、倒れた――。
確かに、攻撃判定と取るかは微妙なところだ。
とはいえ、あとは軽く槍で突かれるだけで、ガイドルの敗北は決まる。
ガイドルの全力攻撃はよかった。
気合は乗っていた。
スオナにも少しは気持ちが伝わったかも知れない。
というか……。
うーむ。
私、もしかして、興奮するあまり……。
ものすごく余計な煽りをしてしまったのかも知れない……。
ごめんよ、ガイドル……。
だけど――。
私の予測に反して――。
勝負は決まらなかった。
あとはトドメを刺すばかりとなった全身鎧のイード選手が――。
ガイドルが倒れた後――。
ふらりと前のめりに揺らいだかと思うと――。
今度はうしろに揺れて――。
バランスを崩して、ばたんと倒れたのだ。
手から離れた槍が、カランカラン、と、遠くに転がっていった。
まあ、とはいえ。
ガイドルは、小さく呻いて、すぐには立ち上がれないでいる。
イード選手が身を起こして槍を拾って突けば、結果は同じだ。
と思ったのだけど――。
静まる会場の中――。
イード選手が身を起こそうとして、今度は尻餅をついた。
なんだか。
うん。
水面で溺れているかのようだ。
「ねえ、もしかしてさ、鎧が重くて立てないのかな」
アヤが言う。
「あー。そうかもだね……」
なにしろ全身鎧なのだ。
転んでしまうと、1人で起き上がるのは難しいのかも知れない。
「ガイドルー! チャンスだー! 立てー!」
私は叫んだ。
「ねえ、クウちゃんって、剣の方の先輩の知り合いなんだ?」
「あ、うん。ちょっとだけね。友達の友達って感じで。ガイドルー! 相手は立てないでいるぞー!」
私が再び叫ぶと、客席からイード選手を応援する声が上がった。
静まっていた会場が再び盛り上がった。
たーて!
たーて!
と、大コールが起きる。
その声に押されて、両選手が懸命に身を起こそうとする。
くぅぅぅぅぅぅぅ!
クウちゃんのことじゃないけど、くぅぅぅぅぅぅ!
もどかしくも、2人はなかなか立ち上がることができないでいた。
会場の声援が高まる。
私も懸命に応援した。
立ち上がることをあきらめたイード選手が、石畳の上を這いずって槍を手に取ろうとする。
槍さえあれば、杖代わりにもできる。
懸命な判断だ。
対するガイドルは――。
ようやく、それなりに息を整えることができたようだ。
膝に手を当てて――。
渾身の力を込めて――。
立ち上がろうとして、転んだぁぁぁぁぁ!
がんばれぇぇぇぇ!
さあ。
ガイドルが立ち上がるのが早いか、イード選手が槍を手にするのが早いか。
いよいよ勝負はクライマックスだ。
お。
ガイドルが転がっていた剣を手に取った!
そうか!
槍だけではなくて、剣だって杖の代わりにはなるんだ!
ついにガイドルが、剣を支えにしながらも身を起こした!
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
よろよろと歩いて――。
ガイドルが、イード選手に近づく。
しかし、ついに、イード選手が槍を手に持った。
この戦い、まだどうなるかわからない。
「うおおおおおお!」
渾身の力を込めるように、ガイドルが咆哮した。
そして、跳んだ。
気づいたイード選手が槍で迎撃しようとするが――。
それよりも早く、ガイドルがイード選手の背中をまたぐように着地した。
背中に剣を突き立てようとするが――。
バランスを崩して倒れた。
両者がもつれ合う。
槍と剣が、それぞれ手から離れて、再び転がっていった。
そんな中、腰の鞘から短剣を抜いたガイドルが――。
イード選手の首に、その刃を当てた。
会場が静まる。
「勝負有り! 勝者、ガイドル!」
審判の声が響いた。
そして、静寂は歓声へと、再び変わった。
「ねえ、今って、どうなったの? 剣の人が勝ったみたいだけど……」
アヤが言う。
「うん。短剣を首に当てたんだよ」
「へえ。よくわからなかったよ。でも、なんか……。真剣なのはわかるけど、面白い戦いだったね」
「だねー」
私は観客席にいるスオナに目を向けた。
スオナはアンジェと、何やら会話していた。
試合のことだろうか。
アンジェが朗らかに笑って――。
それに応えるスオナも、なんとなく、楽しそうに見えた。
 




