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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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584 閑話・黒騎士隊長ゴードンは考える




 私はゴードン。

 10歳の時にローゼント公爵家に仕え、以降30年間、現在では黒騎士隊の隊長として剣を振るっている。

 我ら黒騎士隊は帝国でも最精鋭の戦闘集団と言われてきた。

 中央騎士団と比べれば、黒騎士隊の規模は小さなものだが――。

 帝位継承戦争、ザニデア迎撃戦、大発生した魔物の討伐、犯罪組織の撲滅、反乱鎮圧、等――。

 そう言われるだけの戦果は出してきた。

 我ら黒騎士隊は常に心身を鍛え、剣を磨いてきた。

 実力には自信があった。

 だが今、押し寄せる新しい力の波の中、我らの自信は揺らいでいる。


 肉体への魔力浸透――。


 今までそれは、考慮に値することのない力だった。

 肉体への魔力浸透が身体能力を大きく向上させるのは、昔から知られていたことだった。

 だが同時に、実戦では無用の技術であることも、よく知られていた。

 何故ならば疲労が重すぎるのだ。

 いくら超人的な力を発揮させることが出来ても、3分もすれば動けなくなるようでは意味がないのだ。

 いや、意味はある。

 たとえば武闘会などでは、大いに活躍できるだろう。

 故に、ローゼント家のご令嬢であるメイヴィス様が熱心に魔力浸透に取り組む姿を見ても我らの目は生暖かった。


 いくら強くてもあれは遊戯の剣だ、気にする必要はない――。


 去年の夏、メイヴィス様とセラフィーヌ殿下の試合を見た後、息子のテオルドにそう言ったことを私は覚えている。

 実際、去年の夏には、それが当然の認識だった。

 それは我々だけでなく、他国でも同じだったはずだ。


 だが――。


 わずか1年で状況は変わった。


 肉体への魔力浸透は、繰り返せば繰り返しただけ、ほんのわずかずつだが体が慣れていく。

 最初、3分で来ていた限界が、4分、5分と伸びていく。

 さらに魔力浸透は、濃度を調整することができた。

 薄く浸透させれば、それこそ一日中でも強化状態でいられるのだ。

 ここぞという時に濃度を高めることも出来た。

 自分の限界をしっかりと理解して、適切な操作を可能とすれば、大きな力となることは確実だった。

 我々はそのことを、教えられるまで、まるで知らなかった。

 最初から取るに足らないと、検討すらして来なかったのだ。

 そもそも、肉体への魔力浸透は簡単な技術ではない。

 誰にでも出来るわけではないのだ。

 一部の獣人族のように本能的に理解できているのでなければ、無属性魔術師と呼べるだけの修練を積まねばならない。

 長い時間が必要となる。

 その意味でも、実用的でなかったのは確かだ。


 だが、今は違う。


 帝都の工房で秘密裏に生産された魔道具の指輪があれば、誰でも簡単に魔力浸透を体験することができる。

 そして体験できれば、一気に感覚をつかむことができる。

 感覚さえつかめれば、自力でそれを行うことも、従来と比べれば遥かに容易く出来る様になる。

 実際、すでに黒騎士隊のメンバーは、その全員が肉体への魔力浸透の技術を会得して修練に励んでいる。


 まさに、革命だ。


 今までの、己の肉体と技にすべてを賭けた戦士の姿は、魔力をまとったものへと変貌したのだ。


 しかも、すでにリゼス聖国やジルドリア王国では、武技と呼ばれる剣の魔術が実用化されているという。

 帝国には、一切なかった技術だ。

 現在、帝国中央騎士団が、必死になって習得に励んでいるという。


 我々黒騎士隊は、まだ武技の練習には入っていない。

 それどころか、武技を見たことすらない。

 我々は、ようやく魔力浸透の濃度調節が出来るようになってきた段階なのだ。

 大きく遅れを取っていると――。

 言わざるを得ない。


 その状況を理解するからこそ、ローゼント公爵は、この夏、我らを中央騎士団の訓練に参加させることを決めた。

 本来であれば、我らの名誉からしても有り得ない話だ。

 だが――。

 我々はその命令に従う。

 武技とは何かすらわからない現状では、教えを請うしかないのだ。


 そして――。


 私はローゼント公爵から、何故、突然、技術革新が起きたのか。

 その理由をすでに聞いている。


 それが目の前にいる、空色の髪をした少女――。

 この世界に再び現れた精霊――。

 学院の制服を着て、海鮮焼きを頬張るその可愛らしい姿からは想像し難いが、彼女こそがそれをもたらした。

 我々に魔力浸透を促した魔道具の指輪も彼女の制作らしい。

 中央騎士団に稽古をつけているのも彼女だと言う。


 にわかには信じられない話だが――。

 それが真実なのだ。


 だからこそ、黒髪の少女の完全にこちらを見下した発言を受けても、私は怒りの感情を覚えなかった。

 部下たちは、さすがに不快感を示していたが。


 空色髪の少女――精霊の先導で、私たちは場所を変えた。


 人目につかない木陰だ。


 ここで改めて私たちは、光の大精霊と闇の大精霊。

 そして――。

 聖女ユイリアを紹介された。


 これもまた、本当に信じられない話だが――。


 恭しく頭を下げるローゼント公爵の態度に嘘偽りはなかった。


 そして、私達の目の前で――。

 光の大精霊と闇の大精霊が口論を始める。


 私達は、ぽかんと見ているしかなかった。


「よーしわかった! そこまで言うならこのザコどもはボクが鍛えてやろうじゃないの! いいよね、クウ!」

「うん。まあ、私はいいけど……。ローゼントさんはどう思いますか?」


「ゼノリナータ殿が――。

 闇の大精霊殿が……。

 直接、我が黒騎士隊を指導して下さると?」


「そう言ってるでしょ! このボクが今のヨワヨワ騎士団を、ホーリー・シールドに並ぶ組織にしてあげるよ」

「あははっ! 無理なのですっ! そんなの不可能なのですっ!」

「くぅぅぅぅぅ!」

「あ、ゼノ。それ、私専用のセリフだからやめてね? クウちゃんだけに、くぅぅぅぅだからね?」

「一ヶ月もあれば十分だってーの! 旅行から帰ったら鍛えて、夏の終わりにはお披露目してやる!」

「なら楽しみにしているのです」

「見てろー!」


 怒りもあらわに吠えた後、闇の大精霊という少女が私たちに目を向けた。


「ザコども! ザ・子供! 安心してもいいよ。ボクがちゃんと、君達を大人にしてあげるからね」


 少女の体から、恐ろしいほどの闇が渦を巻いた。

 その闇に触れた部下たちが、小さな声をもらして尻餅をついた。

 私は……なんとか立っていたが。

 身は完全に竦んでいた。

 全身が凍りつくほどの悪寒と恐怖を覚えた。


「黒騎士かぁ。名前だけじゃなくて、本当の黒騎士になろうね?」


 濃密な闇をまとい、少女が妖艶に微笑む。


 この夏――。


 私達は地獄を見ることになる。


 そのことを理解した瞬間でもあった。







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― 新着の感想 ―
[一言] 真の黒騎士はなんだろう。みんなの手に包帯を巻いて、意味不明なことを言う騎士団になるのかな。
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