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583 ゼノとランチ




「あのさ、クウ。ボク、子供じゃないんだから、そんなこといちいち言われなくてもわかるってば」


 走らない、侵入しない、騒がない。

 そんな注意をしたところ、ゼノに思いっきり嫌な顔をされた。


 こんにちは、クウちゃんさまです。

 私は今、ゼノと2人、帝都の上空に浮いています。

 これから学園に降りて、ゼノとも学院祭を楽しもうとしているところです。


「……と言ってもさぁ、ついさっき、ゼノリナータさんの同僚のシャイナリトーさんがですね。侵入して騒いで大変だったのです」

「というか、なんでリトとユイリアが帝都に来ているの?」

「遊びに来たんだよ」

「ふーん」


 またも嫌な顔をされた。


「あれ、なにか問題とかあった?」

「ねえ、クウ」

「ん?」

「実は、またもボクのことを忘れていて、思い出して慌てて誘いに来た。なんてことはないよね?」


 うぐ。

 鋭い。


「そんなまさかー!」


 あっはっはー。


「ならいいけど……。とにかくリトたちは、もう来ていて、ひと暴れした後ということなんだね?」

「まあ、うん。そうだね」


 マリエに怒られて、さすがに大人しくなったけど。


「で、ボクには何もするなと?」

「まあ、うん。そうだね」


 みんなの迷惑になるしね。


「ねえ、クウ」

「はい」

「最近、リトってやりたい放題だよね。ハースティオと、どこまでニンゲンを強くできるか競争していたり」

「ゼノもやりたいなら聞いてみてあげよっか?」

「いや、それはいいんだけどね。ボクにはアリスがいるし。リトがやらかしてボクを注意するのは違うよねって話。ボク、最近は帝都にいるけど、何にもトラブルなんて起こしてないよね?」

「まあ、うん。そうだね」


 言われてみれば確かに。


「でしょ。だいたいクウはさ、ボクに対する扱いが軽いんだよ。ホントにだいたいクウはさ――」

「あーもうわかったからー! 早く行こっ!」


 というわけで学院祭に戻った。

 私はお腹が空いているのだ。


「どこで食べるー? ゼノの好きなところでいいよー」

「んー。いろいろあるんだねえ」


 お昼時とあって、屋台はどこも賑わっていた。

 お。

 うちの『ハッピーラビット』にも行列が出来ているね。

 うさぎ姿の女子――。

 ていうか、エカテリーナさんが、お嬢様らしい上品な愛想の良さで並ぶ人から注文を受けている。


 そのまわりでは、タキシード姿の男子たちがプラカードを掲げてマッスルポーズを決めている!

 男子、役に立っているかは不明!


 そんな男子を見て、ゼノがぽつりと一言。


「ねえ、あいつらさ、別に筋肉質でもないのに、どうして筋肉を誇示するような格好をしているのかな」

「一部の界隈で流行っているみたいだね」

「へー」


 どうやらバーガーには興味ないようで、そのまま通り過ぎた。


「ねえ、あれにしようか! あの丸いの!」


 ゼノが興味を持ったのは海鮮焼きだった。

 タコの代わりに貝柱なんかが入っているタコ焼きだ。

 私は去年も食べた。

 ほふほふして美味しかった。


 早速、購入。


 お行儀は悪いけど、道端で立ったままいただく。


「あ、ゼノ。熱いからを気をつけて――」

「ほふっ。ぶはっ!」


 ああっ!


 注意するより先にゼノが、思いっきり海鮮焼きを頬張って――。

 熱さのあまり吹き出した。


 あ。


 まるで弾丸のような勢いの海鮮焼きが――。


 タイミングばっちりに歩いてきた老紳士に直撃!

 ああああああ!

 と思いきや、魔法のフィールドが現れて海鮮焼きの弾丸を跳ね返した!

 製作者なのでわかる!

 私が以前に関係者各位に配布した『精霊の指輪』の効果だ!


 直撃しなくてよかったぁ。


 と、息をついたのも束の間……。

 私とゼノは屈強な3人の男に囲まれた……。


「よい」


 老紳士が軽く手を振って、男たちを下がらせる。


「すいません、ローゼントさんっ! 大丈夫でしたよねっ!?」


 老紳士は知り合いだった。

 城郭都市アーレの主で、帝国の公爵。

 皇妃様の実の父親で、セラやメイヴィスさんの祖父。

 皇帝派貴族の中核の1人、ローゼントさんだ。


「もちろんですぞ。クウちゃん様の指輪は、常に嵌めておりますからな」

「本当にすいませんでした。うちの連れが」

「はははっ! さすがはクウちゃん様のお連れですな――。いえ、まさかそちらにいらっしゃるのは」

「……はい。そうです」


 ローゼントさんはゼノと面識がある。

 私は申し訳なく認めた。


「君は、アイネーシアの父親だっけ。久しぶりだね」


 なんとも馴れ馴れしく、というか……。

 上から目線でゼノが挨拶する。

 これにはまわりにいた護衛の人たちが怒りの形相を見せたけど――。

 ローゼントさんは自ら頭を下げた。


「再びお会いできて光栄に御座います。麗しき闇の主ゼノリナータ様」


 それを聞いた護衛の人たちも一斉に頭を下げた。

 いくらかの情報は伝えられているようだ。


「人前だからそういうのはいいよ。普通にしてよ」

「はい。では……」


 恐縮しつつもローゼントさんが体を上げる。


「それでまた、今日はどうして学院に……?」

「クウに誘われて遊びに来たんだよ。邪悪な力からの護衛も兼ねてね」


「ローゼントさんは武闘会の見学ですか?」

「ええ。今日は私の孫が2人も出ますからな。ぜひとも見ねばと思いまして。お2人は昼食でしたかな?」

「はい。美味しいですよ、これ。おひとつ、どうぞ」


 爪楊枝に海鮮焼きを刺して渡そうとすると、護衛の人が止めに入ったけど、それを止めてローゼントさんは受け取った。


「熱いから気をつけて下さいね」

「そうだよ、クウ! なに、これ! 熱すぎなんだけど!」

「これは、ふーふーして、口の中でほふほふして、食べるものなの」

「先に言ってよね」


「ほふほふっ! 確かにこれは、熱いですな」


 ローゼントさんが海鮮焼きを頬張る。

 私たちも食べることにした。


 食べつつ私は、メイヴィスさんにもお願いしたことだけど、旅の予定が1日ずれることを伝えた。

 ローゼントさんは快く了承してくれた。


「そういえばこちらにいるのが、我がローゼント家が誇る黒騎士隊、その中核メンバーなのです。今度、クウちゃん様に鍛えていただく予定の」

「へー。そうなんですかー」


 私は護衛の人たちの顔を改めて見て――。

 ひとり、知っている人がいることに気づいた。


「隊長さんですよね。アーレでのパーティーの時以来です」


 私はぺこりとお辞儀した。

 エミリーちゃんと揉めて、あっさり手のひらを返して来た騎士の子テオルドくんのお父さんだ。

 私は、ほんの少しだけ面識がある。


 隊長さんはローゼントさんに目を向けて、ローゼントさんが会話を許可するようにうなずくのを見てから、私に口を開いた。

 というか、深々と頭を下げてきた。


「ご無沙汰しております。ふわふわ工房制作の指輪によって、我ら一同も新たなる境地に目覚めました。この度はさらに直接のご指導をいただけるとのことで今から楽しみにしております」

「あはは。そう言っていただけるのは光栄ですけど、そちらから頭を下げるのはやめてください。他の人の視線が怖いです」

「失礼しました」


 どうやら黒騎士の人たちも、私の強化魔法の指輪で訓練をして、肉体への魔力浸透の術を会得しているようだ。


「へー。これが今度、クウが鍛えるって連中? リトんとこの『ホーリー・シールド』とかハースティオんとこの『ローズ・レイピア』の連中と比べると、全然弱そうに見えるけど大丈夫なの?」


 ゼノがハッキリと言う。


「もー! だから鍛えるんでしょー!」


「ふふん。無理に決まっているのです。クウちゃんさまとゼノみたいに力任せでしか問題を解決できない粗暴なヤカラが、ヨワヨワなニンゲンをツヨツヨに変えるのなんて不可能なのです」


 そこに何故か、リトが現れた。

 現れるなり煽ってくるのは、さすがという他はないね!

 うしろには、笑顔で綿菓子を食べているユイナちゃんとマリエがいる。


「こ、これは光の――。ご無沙汰しておりますっ! そして――。まさかうしろにいるのは聖女ユイ――」


「コホン」


 私は息をついて、ローゼントさんの言葉を遮った。


「こ、これは失礼をば……」


 幸いにもローゼントさんは冷静になってくれた。


「クウ? どうしたの?」


 キョトンとした顔で、ユイナちゃんが私にたずねてくる。


「あー。うん。ちょっと裏の木陰にでも行こうか」

「え。なんで? まさか、アレ? おまえ、最近、生意気なんだよ的な……?」


 それは最近、私がやられました。


「ちがいますー。ここじゃ、会話するにしても目立つでしょー」





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