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582 園遊会、後半





 エカテリーナさんをディレーナさんに引き渡した後、私は1人に戻った。

 園遊会は賑わしく続いている。


 1人でぼんやりしていたスオナを見つけたので声をかけてみる。


「スオナ、やっほー」

「やあ。クウ。相変わらず元気そうだね」

「まあねー」


 スオナは元気がない。

 というか、妙に緊張している。


 ……ねえ、スオナ。やっぱりやめとく?


 言いかけて私は、その言葉を喉の奥で抑えた。

 武闘会の後、スオナがガイドルと話すのは、もう決まったことだ。


「ねえ、クウ」

「ん?」

「アクアは元気かな?」

「元気だと思うよー。なにかあればミルが飛んでくるだろうし」


 以前にスオナが生み出した妖精のアクアは、スオナが寮生活を始めるのに合わせて妖精郷へと移り住んだ。

 以前にミルから聞いた話では、仲良くやっているそうだ。


「そうだっ! 旅の途中で立ち寄ってみようか」

「妖精郷にかい?」

「うんっ!」

「でも、人間は入れないんだよね?」

「妖精は、夜になると、こっそりと森の中に遊びに出るんだよ。合流できる綺麗な川があるからそこで」

「それはぜひともお願いしたいな。久しぶりにアクアに会いたいよ」

「決まりだねっ!」

「ありがとう。楽しみにしておくよ」


 ようやくスオナの表情が、いくらかほころんだ。

 よかった。


 でも、そうなると、森で一泊して、アーレには次の日か。

 歓迎の準備も大変だろうし、ローゼントさんには早めに伝えよう。

 最初の計画では、アーレには初日に泊まる予定だったし。

 と、メイヴィスさんがいたので、先に伝えることにした。


「わかりました。お祖父様はまだ帝都の邸宅にいますし、帰ったらすぐに伝えておきますね」

「ありがとうございますっ!」

「それにしても、妖精郷ですか。いいですね」


 にっこりされた。


「あはは。あ、なら、ダンジョン特訓の時、少し早めに切り上げて、絶景でも見に行きます?」

「いえ、それは結構です。限界までダンジョンでお願いします」

「あ、はい」


 さすが、ブレない。


「でも、そうですね……。許可が出るのであれば、いつものマーレ古墳ではない新しいダンジョンに挑戦してみたいですね……」

「他国とかの、です?」

「そうですね。難しいとは思いますが」

「ならそっちは、私が陛下とユイに聞いておきますよ。認めてもらえるなら聖国にでも行きましょう」

「ふふ。それは楽しみです。お願いします、クウちゃん」


 メイヴィスさんとそんなことを話していると――。


 なにやら会場の隅がざわついた。

 衛兵が向かっていく。


「侵入者でしょうか」

「敵感知に反応はないので、大事ではないと思いますけど……」


 と、その時だ。


「クウちゃああぁぁぁぁぁあああん! 助けてぇぇぇぇ!」


 マリエの悲鳴が聞こえた。


 行ってみると、やっぱりマリエだった。


「怪しいヤツめ! 園遊会に忍び込むとは、何が目的だ!」


 衛兵に捕まっている。


「友達が迷子になっててぇ! 探してただけなんですぅぅぅ!」

「あのぉ、すいません……」


 私は仕方なく前に出た。


「クウちゃんっ! 助けてぇぇぇ!」

「その子、本当に迷子探しをしていただけなので……。なんとか許してあげてもらえませんでしょうか……」

「駄目だ。何を隠しているかわからん。連行して取り調べる」

「そんなぁぁぁぁ! ふぇぇぇん! クウちゃん、助けてぇぇぇ!」


 うーん。

 どうしようか。

 力づくで救出するのは簡単だけど……。


 私が困っていると、幸いにもお兄さまが来てくれた。


「その娘の身元と、害意のないことは俺が保証する。離してやれ」

「しかし、殿下……。いえ、わかりました」


 よかった。

 マリエは解放された。


「ありがとうございます、お兄さま。助かりました」

「ありがとうございましたぁぁぁ!」

「気にするな。しかし、マリエ・フォン・ハロ、どうして君がここにいる?」

「そ、それは……」


 マリエがお兄さまから目を逸らす。


「やはり今の声はマリエでしたか。一体、どうしたのですか?」


 ディレーナさんが来た。


 続けて、アリーシャお姉さまにセラ、アンジェにスオナ。

 メイヴィスさんにブレンダさんに、ウェイスさん。

 関係者一同が駆けつけた。


 みんな、一体何事かと心配してくるけど……。


「すいません……。ちょーっとだけ、事情がありまして……」

「ああ。彼女か」


 事情を察してくれたお兄さまがため息をついた。


「はい、そうです……。

 とりあえず私、マリエと外に出ますので、これで……」


「わかった。彼女にもよろしく伝えておいてくれ」

「はい。ありがとうございます」


 マリエを連れて、私はバラの園を出た。

 その後、マリエから事情を聞いたけど、まあ、想像通りだった。

 園遊会の噂を聞いたユイとリトが姿を消して、ちょっとだけと様子を見に行ってしまった。

 ちょっとだけのはずだったのに……。

 待ち合わせ場所で待っていても、2人はちっとも帰ってこない。

 それで仕方なく探しに来たのだ。


「まったく、あの2人は……」


 魔力感知して、私は2人の居場所を突き止めた。

 なんとびっくり。

 私のクラスの屋台の近くだ。


 行ってみると、中庭に置かれたテーブル席に座って、5段重ねのハンバーガーを美味しそうに頬張っている。

 テーブルには、クレープとジュースも置かれていた。


「げっ! マズイのです! ユイ、クウちゃんさまが来たのです!」

「え。え?」

「こら! 2人とも!」

「もー。こんなところにいたんですかー。探しましたよー」

「あ、マリエちゃんも」

「どうして待ち合わせ場所に来てくれないんですかー」

「え。あ。ごめん、忘れてた」

「……はぁ。とにかく無事でよかったです」


 マリエが力尽きたように、がっくりとうなだれた。

 と思ったら静かに怒り出した。


「本当にもう。ユイナちゃん、昨日の今日でどういうことですか、これは? リトさんもリトさんです。監視役なのに止めもせず、一緒になって遊び回って、あろうことか同行者のことを忘れるなんて――。普通に考えて、絶対にあっちゃいけないことですよね、それ」


 マリエのお説教がコンコンと始まった。

 これにはユイナちゃん、完全に白旗を上げて、ひたすらに恐縮だ。

 生意気盛りのリトでさえ、大人しく反省している。


 昨日、聖女様に人前で頭を下げさせるなんてとんでもないことだ!

 大変なことになるぞ!

 と大騒ぎしていたのは本当に何だったんだろうね。


 今、人目の多い中庭で、聖女様が、何度も何度もごめんなさいしています。

 ついでに光の大精霊様も。


 私はニコニコとその様子を見ていた。

 これがお兄さまとか他の人のお説教なら止めていたかも知れないけど、この構図には妙な安定感がある。

 さすがは世界の審判者と言ったところだ。

 真面目な話、ユイなんて本当にすっかり聖女様で――。

 みんなひたすらに気を遣ってくるばかりだ。

 なので、同じ人間として、友達として――。

 こうして正面から説教してくれる存在は、とても大切だろう。

 もちろん私にエリカ、それにナオはいるけど――。

 私たちは前世組だ。

 こちらの世界で知り合った仲ではない。


 まあ、マリエの場合、後で冷静になって、とんでもないことをしてしまったと顔を青くしそうだけど。


 なんにしても、私は思う。

 これは、老婆心というやつだろうか。

 マリエはユイにとって、いい友達になってくれるだろう。

 国は違うし、立場も違うけど……。

 願わくば、仲良くしていってほしいものだ。


 ……しかし。


 忘れるなんてとんでもない、か……。


 私はマリエの説教を聞きつつ、ひとつ、思い出したことがあった。


 あぶない。


 あぶなかった。


 ゼノのことを、またもや完全に忘れていた。

 さすがは闇属性。

 油断すると、闇に消えている。

 学院祭の警備ついでに、誘っていたというのに。


 急いで呼びに行こう……。


 メインイベントの武闘会はこれからだし、まだ余裕だよねっ!





ついに11月突入!

今年もいつの間にか、あとたったの2ヶ月ですね……。

あっという間でした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] これはマリエちゃんも激おこ。 [一言] 第一印象が聖女じゃなくてカメ二号だったから気楽なんですかねえ
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