581 園遊会
園遊会が始まる。
バラの咲き誇る庭園での立食会だ。
まだ午前とあって、並べられた食べ物は簡単なものだったけれど、どれも手が込んでいて豪華だ。
最初に、お兄さまとお姉さま、それにセラが挨拶を行う。
その後は自由時間だ。
さあ、どうしようかなーと思ったところで、ディレーナさんを見つけた。
「こんにちは、ディレーナさん」
「こんにちは、クウちゃん」
「すみません。昨日はいろいろとご迷惑をおかけしました」
「それは、何の――。いえ、あのことですね」
「はい。実は。私の家にいまして」
もちろんユイナちゃんのことだ。
「そうだったのですか……。こちらこそ、ご面倒をおかけしました。クウちゃんが手を回して和解させてくれたそうですね」
「いやー、まさか、あんな騒ぎになっているなんて思いもよらなくて、話を聞いた時には驚きましたよー」
「……もしかして、今日もいらしているのかしら?」
「はい。マリエと」
「…………」
ディレーナさんが、いきなり挙動不審になって庭園を見回す。
「いえ、ここにはいませんよー」
さすがに。
念のために魔力感知を発動させてみると。
あれ。
セラとは別に、光の反応が2つ。
…………。
……。
いたぁぁぁぁぁぁ!
「どうしましたの、クウちゃん?」
「あ、いえ……。すいません、いました……」
「えええええええ!?」
「ディレーナさんっ! 声っ!」
「し、失礼しました」
いそいそとディレーナさんが、口元をハンカチで隠した。
幸いにも人目はそんなに引かなかった。
近くにいた参加者に驚かれはしたけど、相手がディレーナさんと知ってすぐに視線を逸らしてくれた。
「……それで、聖女様はどちらにいらっしゃるのかしら?」
「こっちです」
私はディレーナさんを連れて、光の反応がある庭園の隅に移動した。
「コホン」
私は姿を消しているユイナちゃんとリトの前で、わざとらしく咳払いをした。
「……ねえ、リト。私たちは透明だよね? 見えてないよね?」
「……カンペキなのです。大丈夫なのです」
「再びお会いできて光栄です。――様」
ユイナちゃんとリトのささやき声が聞こえると、ディレーナさんは礼儀正しくお辞儀をした。
「……ねえ、リト。やっぱり見えてるんじゃない? これ?」
「……そんなはずはないのです。気のせいなのです」
「おーい。声が聞こえてるぞー。それに魔力反応で丸わかりだぞー」
私は呆れて言った。
「逃げるのですっ! クウちゃんさまに捕まったら殺されるのです!」
「う、うんっ!」
というわけで、ユイナちゃんとリトは去っていった。
なんだったのだろうか。
まあ、見に来ただけなんだろうけど。
というか、マリエはどうしたのか。
「あの、クウちゃん……。――様は」
「聞いての通りですけど、逃げていきましたね」
「……追わなくても?」
「忘れましょう」
「いえ、そういうわけには……」
「いいからほらっ! 戻って紅茶でも飲みましょうっ!」
私はディレーナさんの背中を押して、参加者たちのいる方に戻った。
あ。
オーレリアさんがいた。
「こんにちはー、オーレリアさんっ!」
「ごきげんよう、オーレリアさん」
「ごきげんよう、マイヤさん。――と、ディレーナ様。驚きました。お2人は仲がよろしいのですね」
背中を押しながらの登場だしね。
雑談していたご令嬢の方々がディレーナさんに挨拶する。
みんな、顔見知りのようだ。
先日、私に詰め寄った女生徒たちもいた。
私がディレーナさんと親しく登場して、驚いた顔をしていた。
目が合うと――。
逸らされた。
まあ、わかってはいたけど、ディレーナさんには断りなく、直情的に短絡的に私のところに来たようだ。
私のことはディレーナさんが紹介してくれた。
「紹介しますわね。こちらはクウ・マイヤさん。セラフィーヌ殿下の一番のご友人であり、異国の王女殿下です」
この後、しばらく楽しくおしゃべりした。
オーレリアさんと居たのは、門閥派と呼ばれるディレーナさんを中心とした派閥のご令嬢たちだった。
私は優しいので、詰め寄られたことは、あえて黙っておいた。
黙っておきつつ知り合いとして接した。
ディレーナさんから、いつ知り合ったのかと聞かれて、ふふふ、と意味有りげに微笑み流してやった。
オーレリアさんとも親しくしておく。
オーレリアさんは、門閥派の貴族令嬢の中ではナンバー2のようだし。
くく。
これは素晴らしい牽制になった。
私に詰め寄った女生徒たちは、私が来てから挙動不審だ。
ざまぁ。
とはいえ私は優しい。
適度なところで許してあげる。
ディレーナさんのお友達同士、仲良くして下さいね。
と、言ってあげた。
相手はもちろんうなずいた。
勝った!
しかし、門閥派の皆さんとは、今まで、ほとんど接点がなかったけど……。
私はセラの友達だし、今日はお姉さまたちと一緒に登場しているし、完璧に皇帝派なのだけれど……。
話してみると普通に友達になれそうな感じだ。
もっともそれは、ディレーナさんの背中を押していきなり親しく登場したせいでもあるだろうけど。
あとは、アリーシャお姉さまが去年から頻繁にお茶会を開いて、懐柔しまくった成果も出ているようだ。
お姉さまのお茶会のことも話題に出たけど、みんな、好意的だった。
大宮殿に招待されるというのは、立派なステータスのようだ。
皇女のお茶会って大切だね……。
セラのお茶会も楽しみにしているようだ。
セラには頑張ってもらおう。
もっとも、お茶会を開くにはもってこいの夏休みには、セラは修行で聖国に出て帝国から離れるけど。
今日の午後に行われる武闘会のことも話した。
みんなの優勝予想は、やはりメイヴィスさんかブレンダさん。
まあ、うん。
あの2人、まだ3年生なのに……。
すでに学院で最凶の存在と化しているしね……。
ウェイスさんの方が強いことを私は知っているけど、地味なのか、みんなの口から名前は出てこなかった。
あと武闘会では、1年生では唯一、セラが参加するとのことで、本当に大丈夫なのかと心配された。
そんなこんなで、けっこう話し込んでしまった。
一区切りがついたところでお別れさせてもらう。
私は、セラのところに行こうかなーと思ったけど……。
見渡して、気づいた。
セラは生徒たちに囲まれていた。
大人気だ。
うん。
いいことだね。
お。
エカテリーナさんがいた。
ちょうど話していた人と別れて1人になった。
早速、私は話しかけた。
「エカテリーナさん」
「クウちゃん……っ! 大丈夫でしたか……?」
小声でたずねられた。
「えっと、何が?」
「だって先程……。ディレーナ様やオーレリア様に囲まれていたではありませんか。なにかあったのですか?」
「ううん。普通におしゃべりしていただけだよー」
「あのお2人とですか……!?」
「うん。なんで?」
「なんでというか……。だって、公爵家と伯爵家の……。いいえ、失礼しました。クウちゃんですもの。そうですよね」
「よかったら紹介しようか?」
「とんでもないっ! いえ、面識はあるので結構です」
「そかー」
エカテリーナさんは、メイヴィスさんといい、格上の先輩をかなり苦手としている雰囲気だね。
「じゃあ、行こっ!」
「え。どこに、ですか?」
「もちろん、ディレーナさんたちのとこだよー」
「え? あの、待って下さい! 私、心の準備が出来ていませんから!」
「あははー」
せっかくだしねっ!
苦手は克服してもらおうっ!
 




