575 ユイナちゃんの学院祭
「――というわけだから、学院祭に戻ろうっ!」
というわけで。
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、学院の外――。
帝都の中央広場にある、姫様ロールの野外席に来ております。
のんびりケーキを食べていたマリエとリトとユイナちゃんにお兄さまからの伝言を伝えるためです。
「んー。でもぉ、私のせいで迷惑かけちゃったし……」
「相手の子なら平気だよー。あのドジっ子がユイだと知らされて、逆に顔を青くしているみたいだし」
「それ、ますます申し訳ないよぉ……」
「ユイは優しいのです。クウちゃんさまと違って、何でも力づくで解決しようなんてしないのです。リトたちの一時を邪魔するな、なのです」
またリトのヤツが余計なことを言うけど、ここは無視する。
ちなみにリトは姿を現して、人の姿になっている。
「逆に申し訳ないと思うならさー、その子たちの演劇、見に行こうよ。それで手でも振ってあげてよー。そうすれば許されたと思って向こうも安心するから。でないと可愛そうでしょー」
私は正直、オーレリアさんという人に同情していた。
女の子に荷物運びをさせるなんて、ちょっと酷いとは思うけど……。
とはいえ、荷台に工芸品まで壊されて……。
その程度のことで多額の弁済を許してくれているのだから、やっぱり優しい対応なのだと思う。
なのに、聖女様に対して無礼を働いてしまったと……。
顔面蒼白アンド針のむしろで過ごすなんて可哀想だ。
私がそのあたりをしゃべると、ユイはうなずいてくれた。
「うん。わかった。なら、そうするよ」
「よかったー」
私はほっとした。
「でも、それならちゃんと謝ったほうがいいよね。だって、そもそもぶつかったのは私だし、聖女様気分でタメ口なんて叩いちゃったのも私だし……。ちゃんとユイリアとして謝罪するよ」
「それは話が大きくなりすぎるからやめとこ」
「でもぉ」
「ユイナちゃんとして、どこか人目のつかない場所で謝ればそれで十分だよ。その方がいいっ!」
「クウがそう言うならそうするけど」
「じゃあ、ちょっとオーレリアさんたちとどこかで会えないかどうか、お兄さまにでも相談してくるよ」
私は1人で学院に戻った。
お兄さまは、役員のみんなと生徒会室でハンバーガーを食べていた。
「あ、それってうちのバーガーですよね」
「ああ。ウェイスが買ってきてくれてな。シンプルだが良い味付けだ。さすがはクウのアイデアだな」
「ありがとうございます!」
素直に高評価をもらえるのはとても嬉しいね!
早速、相談した。
話はすぐにまとまった。
私はユイとマリエとリトのところに戻った。
「いいってさー。舞台が始まる前に、舞台裏で会えるように生徒会が手筈を整えてくれることになったよー」
「クウって凄いねー。そんな簡単に話がついちゃうんだ」
「話をつけるのはユイナちゃんだけどね。私はセッティングだけだよ」
「え? ソード様として付いてきてくれるんだよね?」
「いかないからねさすがに」
大げさ過ぎる。
「そんなー! 不安だよー!」
「大丈夫だって。マリエも一緒なんだからー」
「え?」
マリエが心底、驚いた顔をした。
「マリエは関係者だから、当然、一緒に謝りに行くよね」
「もう話はついたんだよね……? 私、これでおしまいでいいけど……。もう会うこともないんだし……」
「何言ってんの。同じディレーナさん派閥の伯爵令嬢だよ? ここでユイナちゃんと一緒に話をつけなきゃ、マリエだけディレーナさんに和解のお茶会をセッティングされるよ?」
「行きます! 行かせて下さい!」
「うむ」
「じゃあ、リトはまた姿を消しておくのです」
ポン、と、リトは消えた。
私たちは早速、姿を消して、空を飛んで、一気に学院に戻った。
生徒会室でお兄さまたちと合流する。
早いもので、すでに役員の1人が話をつけたそうだ。
お兄さまと共にステージに向かう。
舞台裏の個室に入ると、すでにオーレリアさんたちが待っていた。
ユイとお兄さまを見ると深々とお辞儀する。
話は簡単についた。
お兄さま立会の下、お互いに謝りあって、握手をした。
皇太子が見届人なのだ。
これでもう、遺恨はないだろう。
オーレリアさんたちには、すっきりした気持ちで演劇を頑張ってもらいたい。
あと、弁済もした。
これについては、私とユイは完全にうっかりとしていた。
話がおわりかけたところで、白狐娘のリトが現れて、損害額を聞いて、その場で全額を支払った。
リトに感謝。
お金のことも、すっきりとしておかないとね。
ユイナちゃんは下町の子って設定だったけど、ユイはお金に苦労しているわけではないんだし。
そうして、話はおわった。
オーレリアさんたちが先に部屋を出ていく。
私たちだけになったところで、お兄さまが言った。
「ところでユイリア殿、せっかくだ、舞台で挨拶するのはどうかね?」
「はい。私でよければ」
ユイは即答するけど――。
「いやー。やめとこうよー。大げさになるからさー」
私は言った。
「でもクウって明日、ソード様として演舞を披露するんだよね? それなら私がいても不思議じゃないと思うけど」
「オーレリアさんたちの舞台だよ? 主役を奪っちゃ悪いよー」
ユイの影響力は大きすぎる。
観客の人たちが、演劇どころではなくなってしまう。
「あ、それはそうだね。すいません皇太子殿下、やっぱり、クウちゃんの言うことを聞いておきます」
「すいませんお兄さま、横から口を挟んで」
「いや、確かにその通りだ。構わん」
「お兄さまは偉いですね。皇太子なのに怒らなくて。しゃがんでくれれば、頭ヨシヨシしてあげますよ?」
「いらん」
「あはは」
「しかし、そうだな……。主役を奪うという意味では、明日の武闘会の演舞も考えた方がいいかもしれんな」
「そうですねえ、言われてみれば……」
ユイのことだけじゃなかった。
私もだ。
とはいえ、こちらの件については、それなりに前からメイヴィスさんと約束してしまっている。
まあ、やっぱりやめとく、と、言ってもいいんだけど……。
結局、演舞については、最初ではなく――。
表彰式がおわってから、最後に行うことにしよう。
そういうことになった。
この後は、個室に案内された。
お兄さまは仕事に戻って、私とユイとマリエ――それに姿を現したリトの4人で演劇を楽しんだ。
オーレリアさんたちは、すっきりと演技できていたと思う。
よかったよかった。




