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566 ライバル!





「へーここかー。いい場所だねー」

「でしょう? 私のくじ運の強さ、褒めてくれてもいいんですよ」

「偉い偉いっ!」


 私達の屋台は、中庭に並んだ屋台の列の、ちょうど真ん中あたりだった。

 まさにベストポジションな気がする。

 運が悪いクラスだと中庭から離れた通路だったりするので、エカテリーナさんの豪運は大したものだ。

 場所だけでも、かなり集客には差が出ることだろう。


 というわけで昼食を終えて。


 私たちは、これから飾り付けを行う屋台を見に来ていた。


 少し見学してから、私とアヤ、それにラハ君とダリオは、シャルさんのお店に肉を焼きに行く予定だ。


「おーい。持ってきたぞー」


 レオたち大道具男子が看板を担いできた。

 屋台の上に取り付ける横長の看板だった。

 看板では、ピンク色をした中年親父みたいなウサギが、満面の笑みを浮かべて腕と胸の筋肉を誇示している。


「おお……。うん……。いいね。カッコいいね」


 私は一瞬、ちょっとだけ言葉に迷ったけど、まずは褒めた。

 なんといっても力作だ。

 男子が頑張って作っていたのは知っている。


「だろー。我ながらそう思うぜー。カッコいいよなー、カンペキだぜ!」


 レオが得意げに言う。


「ホント、人目は引きそうだねー」


 良くも悪くも。


「なんだよ、クウ。おまえ、見る目あるじゃねーか。よーし、みんな、さっさと取り付けて、メニューやら看板やら他の準備もするぞー!」


「「「おー!」」」


 上機嫌なレオの号令に男の子たちが答える。


 盛り上がっていると――。


 通りかかった女生徒たちが看板を見て、「なにあれー、きもーい」「なんのお店なんだろうね、あれ」「わかんないけど、あれは無理よねー」と悪気なく笑いながら通り過ぎていった。


 あ。


 レオたちの士気が、一瞬で冷えついた。


「ま、まあ、うん。たしかに、キモいと言えばキモいけど、キモかわいい? 私はいいと思うよ本当に!」


 私は慌ててフォローした。


「そうだよ! 気持ち悪いのは事実だけど私もいいと思う!」

「そうですね。少しくらい気持ち悪くても人目は引けるのですから、後は商品自体でアピールすればいいのです」


 アヤとエカテリーナさんも後に続いてくれた。

 さあ、女の子の評判は上々だよ!

 がんばれ!

 と私は応援したのだけど。


「結局、キモいんじゃねーか……」


 あ、自信満々だっただけに、レオがますます落ち込んでしまった。

 と思ったら自棄気味に叫んだ。


「こうなったら評価トップだ! 評価トップになって、このダンディラビットの素晴らしさを認めさせるしかねえ! クウ! おまえも気合入れろよ! バーガーは肉が命だからな!」

「ちゃんと焼いてくるよー」

「ちゃんとじゃねえ! 気合マックスだ!」

「はいはい」


 適当にあしらっていると、さらに横から声がかかった。


「無理無理。こんなキモい看板で客が来るわけないだろ」


 となりの屋台の男子生徒だった。


「なんだとクロード!」


 レオが敵意をむき出しにする。

 どうやら友人、というか、顔見知りのようだ。


「……1クラスの子だよ。貴族だから、喧嘩を売っちゃ駄目だからね」


 と、アヤが小声で教えてくれる。


 レオとクロードが言い争う。

 で、結局。

 お約束なことになった。


「勝負だ! 俺らが勝ったら、てめぇには、ダンディラビットの素晴らしさを100は語ってもらうからな!」

「いいだろう。受けて立ってやる。俺達1クラスが勝ったら……。そうだな……。勝って当然のことだし、生意気を言ってすいませんでした、と、おまえが頭を下げるだけで許してやる」


「あのー。賭け事をしたら怒られるよ? 特に今年はメイヴィスさんがかなり厳しくそういうの取り締まっているし」


 私は一応、注意した。

 メイヴィスさんの名前を出して、虎の威を借るなんとやら、だ。


 するとクロードに睨まれた。

 そのまま無視されるかなぁ、と、思ったけど、


「賭け事ではない。どちらが正しいかを確認するだけのことだ」


 クロードは訂正してきた。


「なら頭を下げろっていうのは、なしでいいよね。確認さえできれば」

「……まあ、よかろう」


「レオも100は多すぎ。せめて3つにしときなよ」

「はっ。別に1つでもいいさ。要はこいつが過ちを認めればいいんだからな」

「なら1つね」


 はいはい、決定決定ー。

 と、私は気楽な感じで手を叩いて、最後にエカテリーナさんに確認した。


「というくらいなら、まあ、いいよね?」

「そうですね……。本当に男子というは血の気が荒いことで」

「エカテリーナさんが冷静でよかったよ」


 大戦に発展しなくて。


「私は、この程度の挑発に乗るほど子供ではありませんわ。それに売れるかどうかは商品次第でしょう」

「ふ。エカテリーナさん、我が1クラスはその点でも万全さ。なにせプロの料理人に特別メニューを考えさせたからね」


 髪をかきあげ、クロードがキザったらしく言う。


「あら、まあ。なんとも、学生らしくないことをされたのですね」

「人を使うのも我らの実力の内でしょう?」

「それはそうですね。失礼しました」


 エカテリーナさんはあっさりと引き下がった。


「では、また」


 優雅に一礼して、クロードが去っていく。

 まあ、となりの屋台に戻っただけなので、すぐそこだけど。


「彼とは昔からの顔見知りですが、昔からああなのです。まともに対応していると疲れるだけなので、適当にあしらうのが1番です」


 エカテリーナさんがため息をつく。


「あはは」


 私はとりあえず、笑って受け流しておいた。




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