565 学院祭前日の昼休み2
私は大いに困惑した。
最近、私のまわりで、にわかにそういうブームはあったけど、まさか自分に来るとは思ってもいなかったのだ。
先輩方は私を睨みつけて、私の返答を待っている。
「どうと言われましても……。最近だとお兄さまとは、生徒会の仕事を手伝っているので関わっているとしか……」
「お兄さまとは、皇太子殿下のことなのかしら?」
「はい……。そうですけど……」
しまった。
失言だったかも知れない。
「その呼び方は、許されたものなのかしら?」
「いつもそう呼んでいますけど……」
「貴女は一体、どこの誰なのですか?」
「と言われましても……。詳しい情報は非公開なんです、私……」
「どういうことですか?」
「陛下にそうしておけと言われたので」
私はどこか遠い国のお姫様で、詳しくは秘密。
以前に陛下と決めたことだね。
「……それならば、それは結構です。それで、皇太子殿下とはどれくらいの親しさなのですか?」
「普通くらい、ですけど……」
「もっと具体的に言いなさい」
「と言われても……。セラとは友達なので、その関係で、夕食に呼ばれて一緒に食べたりとかですか?」
「セラとはまさか、セラフィーヌ殿下のことですか?」
「はい。あと、お姉さま――アリーシャお姉さまとも仲良くしているので、お兄さまはそのついでみたいな関係ですよ?」
「……つまり貴女は帝室の皆様と親しいと?」
「はい。そうですね。仲はいいと思いますよ」
私がそう言うと、先輩方が戸惑い気味に視線を交わしあった。
「あの、一応、言っておきますと、たぶん、先輩方が考えているような関係ではないのでご安心ください」
私がそう言うと、目の前の先輩はうなずいてくれた。
「そうですか。それならばいいのです」
よかった解放されそうだ。
「いいですか、マイヤさん。皇太子殿下に相応しいのは、我ら中央貴族の旗手たるアロド公爵家のご令嬢、ディレーナ様をおいて他にいないのです。貴女がどこのお生まれで、どんな地位にある方かは存じませんけれど……。そのことだけは、よく理解をしておいて下さいませ。わかっていただけましたか?」
私は返事をしなかった。
お兄さまのことは、べつにどうでもいいんだけど……。
この手の人たちに迂闊な返事をすると、そのまま言質に取られそうだし。
それは正直、かなり面倒くさい。
幸いにも先輩方は、強引に私に返事を求めようとはしなかった。
「お呼び出しして、申し訳ありませんでしたわ」
私に一礼すると、そのまま立ち去った。
…………。
……。
私は1人、その場に取り残された。
お腹が空いた。
食堂に行こう。
そして偶然にも、その道中でお兄さまと遭遇した。
「お。クウちゃん師匠じゃねーか。どうしてこんなところに居るんだ?」
一緒にいたウェイスさんが私を見つけて、声をかけてきた。
「散歩ですよ、散歩。お2人は?」
「学内の見回りだ。学院祭前日ともなると、浮かれた気持ちで必要以上に騒ぐ輩が増えるからな」
お兄さまが言った。
「あー、なるほどー」
私はしみじみとうなずいた。
「妙に実感のこもった言い方だな。何かあったのか?」
「先輩方に、お兄さまとの関係を問いただされました」
お兄さまに聞かれて私が素直に答えると、ウェイスさんが爆笑した。
「わははははは! あー、そう来たかー! そうだわなー!」
「笑い事ではない。クウ、何かされたのか?」
「いえ。べつに」
「ならいいが……。相手の名は?」
「あ、そういうのはいいです。ホントに聞かれただけなので。べつになんでもないと答えておきました」
「まったく。どうせディレーナの取り巻きなのだろうが――」
さすがはお兄さま、鋭い。
「よかったな、カイスト。クウちゃん師匠が盾になってくれるのなら、やっとおまえも一息がつけそうだな」
「ふむ……。それもそうか……」
「やめて下さいね!? 本気でイヤですからね盾なんて!」
想像しただけで胃が痛くなりますよ!
「いやな、師匠。カイストも苦労しているんだよ。このままでは本気で流れに乗せられそうでな」
「ちゃんと断ればいいじゃないですかー」
「それが出来れば苦労はしねーって。力関係ってモンがあるんだよ。相手に恥をかかせるわけにもいかねーし」
「頑張って下さい」
私はにっこり笑って応援した。
「はぁ……。まあ、いい。とにかく、クウ。もしも何かされたら、絶対に俺のところに相談に来い。いいな?」
「わかりました。その時はよろしくお願いします」
うん。
最大限に関わらないでおこう!
というわけで、やっと食堂に辿り着いた。
「クウちゃん! 大丈夫だった!?」
アヤが待っていてくれた。
他の子たちは、もう食事を済ませて教室に戻ったようだ。
「うん。たいしたことじゃなかったよー」
「ならいいけど……。先輩に目を付けられたら大変だしね……」
「あはは」
完全にロックオンされてしまいました。
「じゃあ、クウちゃん。お昼食べよっか」
「食べずに待っててくれたの?」
「うん。だって心配だったし」
「ありがとー」
持つべきものは友達だね。
さあ、気を取り直して、お腹いっぱい食べて。
屋台の準備を頑張りますかー。




