560 クラス出店の準備
「では、私達5クラスで出すハンバーガーショップの店名は、クウちゃんの案を採用して『ハッピーラビット』とさせていただきます」
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、学校にいます。
午後の授業のクラス会議の真っ只中であります。
「クウちゃん、今更ですけど、名前に意味や由来はあるのですか?」
壇上で司会をしているクラス委員長のエカテリーナさんが、もっともな質問を私にぶつけてくる。
「特にはないよー。可愛いかなーと思って付けただけー」
適当に言ったら、何故か賛成多数で可決されてしまいました。
まあ、うん……。
実のところは、前世の北の地のハンバーガーチェーン、幸運なピエロさんを想像してはいたんだけど……。
結果としては、完全に別のものだしね。
幸せうさぎだし。
意味や由来はない、ということで問題はないだろう。
「では、問題ありませんね。次はハッピーラビットで、どのようなハンバーガーを提供するかですが……」
「野菜も生はダメなんだよね?」
私はたずねた。
「加工済みのものか、火を通すことが条件ですね。肉も、加工済みのものを再加熱する形で使うことになります」
まあ、学生の作るモノだしね。
やむなしか。
と、なると、悩みどころだね。
こちらの世界でも、バーガーに挟むと言えばレタスにトマトが定番。
どちらも基本的には生だ。
レオを始めとした男子たちは、肉だけでいいだろ、と言ってくるけど、やはり肉だけというのは寂しい。
なので私は、前世の知識を動員して提案した。
「きゅうりのピクルスくらいは輪切りにして入れようよー。あと、刻んで茹でたオニオンも。それでケチャップをかければ、レタスとかがなくてもハンバーガーの基本的な形にはなるよね」
「クウちゃんって、いろいろと知っているんだねー。なんか、うん、美味しそうなハンバーガーになりそうだねー、それ」
アヤが感心してくれる。
さすがはアヤ、いい目をしている。
なにしろ私が提案したのは、前世の世界の最大チェーンにあった基本のバーガーそのままだしねっ!
「他に意見のある方がいれば、どうぞ」
他には特に意見もなく、肉だけバーガーと私の提案とで多数決が取られ、またも私の案が採用された。
パティについては、シャルさんのお店を借りて、前日に作って焼いて持ってくることになった。
それを当日、焼き直して、バンズに挟むのだ。
制作数は1日あたり100枚。
学院祭は2日あるので、計200枚だ。
かなり強気な気もするけど……。
みんな、むしろ売り切れの方を心配している。
お店については、中庭で屋台として出すことが決まっている。
エカテリーナさんがくじを引いてきた結果、多くの人が通りかかる、なかなかに良い場所を確保できた。
屋台自体は、毎年使うものとして学院に置かれている。
なので一から作る必要はない。
問題は、どんな風に飾り付けるかだ。
予算には上限があるので、どこまでも豪華には、できない。
決められた範囲で、いかに結果を出すかが大切なのだ。
模擬店の評価は成績にも繋がる。
まあ、もっとも、予算は学生のお遊びとは思えないほどに多いのだけど。
さすがは天下の帝都中央学院といったところだ。
あと、衣装はどうするのか。
制服にエプロンを付けるだけでもいいんだけど……。
せっかくなら、人目を引くものにしたい。
まあ、衣装については、ハッピーラビットという店名から、比較的すんなりと決めることができた。
可愛らしく。
とりあえず、うさぎ耳はつけよう、ということで。
あと、尻尾とか。
屋台の方も可愛らしく……。
というのは、大道具担当のレオたち男子によって却下された。
なんかこう、冒険者が仕事の途中でパクつくような、ワイルドな要素も取り入れたいのだそうだ。
面白そうだし、お任せしよう。
ちなみに私の担当は、パティ。
ひき肉を買って、計200枚ものパティを焼いて準備するのが仕事だ。
我ながら大変な部署に配属された気はするけど……。
まあ、しかし、ハンバーガーなのだ!
ここは頑張ろう!
ひき肉についてはウェーバーさんに頼もうかなーと思ったけど、同じくパティ担当のラハ君が手配することになった。
ラハ君の家は商家だし、任せておけば問題ないだろう。
というわけで。
いよいよ学院祭があと5日に迫って。
一気にいろいろなことが決まった。
「クウちゃん、焼きまくろうね!」
「うん! 焼きまくろう、アヤ!」
ちなみにパティ担当は、私とアヤとラハ君、それに男子がもう1人だ。
「ラハ君、今日の放課後って、シャルさんのお店に行ける? 行けるならさ、事前に練習させてもらおうよ」
「いいと思うよ。姉さんには伝えてあるし。お客さんがたくさんいると、ちょっと無理かもだけど」
「その時には、シャルさんの仕事ぶりを見学しよ。アヤも来れるよね?」
「うん。行く行くー。私も練習したいし」
「あとは、えっと……。なんとか君は?」
「俺の名前はダリオだ。マイヤ、君とは何度もしゃべっているだろう。いい加減に覚えてくれ」
ダリオ君は、生真面目なメガネ男子だ。
くいっとメガネを持ち上げる仕草が、実に様になっている。
「あはは。ごめんごめん、ダリオ君も来れるよね?」
「当然だ。仕事はこなす。一年生の学院祭といえど履歴には乗るのだ。小さな積み重ねこそが未来を作るのだ」
「真面目だねー」
「俺には志があるからな。俺は父と同じく、立派な文官になるのだ」
ダリオ君は大宮殿に仕える文官の息子だ。
平民なのでクラス委員長等の重要ポストは回ってこないけど、成績優秀で将来の目標もキチンとしている。
融通がきかないのが、ちょっと難点ではあるけど……。
まあ、悪い子でないのは確かだろう。
放課後のシャルさんのお店には、お客さんがたくさんいた。
と言っても、いたのは、上の階に事務所を構えた冒険者同盟『ボンバーズ』のメンバーとその友人だった。
つまりは大半が私のお店のお客さんで、話をしたら、私達が焼いたものでも食べてもらえることになった。
なので遠慮なく、一時間ほど練習させてもらった。
考えてみれば、私にはアイテム欄があるので、毎日コツコツと事前に焼いておけばいいのだけど……。
まあ、うん。
それは無粋なのでやめておいた。
家に帰ると、ヒオリさんが待っていてくれた。
エミリーちゃんはもう帰っていて、フラウはゼノのところらしい。
2人で『陽気な白猫亭』に行くことにした。
夕食を取りつつ、今日の出来事を語った。
「店長も学院生活を謳歌されているようで何よりです」
「ヒオリさんも忙しいんじゃない?」
「はい、そうですね……。明日からはしばらく、一緒に夕食を取ることもできなくなりそうです……」
「それで今日は待っていてくれたんだ」
「某、こうして店長と一時を過ごすことこそが、何よりの至福なのです」
「あはは」
しみじみと言われると照れるね。
「しかし、店長……。ユイ殿が来るというのは本当なのですか……?」
「ただのユイナちゃんだけどねー」
「本当に大丈夫なのですか……?」
「平気平気ー。そもそもユイナちゃん、かなり強いよー」
「いえ、あの……。世間慣れしていない方ですし、声をかけられて、そのまま簡単についていったりはしないかと……」
「ふむ」
それは考えていなかった。
まあ、でも。
平気だよね。
そもそも、しっかり者のマリエが一緒なんだし。
 




