551 そういえば
気づけば私、12歳になっていた。
誕生日を忘れていた。
私は5月生まれなのだ。
今は6月。
まあ、前世の誕生日をそのまま適用していいものかは謎だけど。
そういえば、みんなの誕生日はいつだろう。
放課後、お店に来ていたセラに聞いてみた。
「わたくしも5月ですよっ! クウちゃんと同じなんて嬉しいですっ!」
セラが手を合わせて喜ぶ。
「でもそれだと、もうおわっちゃったね」
お互いに。
「そうですね」
セラは、特に残念がる様子もなく、笑顔でうなずいた。
皇女様なのに誕生日パーティーとかしないんだねえ、と言いかけて、私はその言葉を喉の奥で抑えた。
そう言えばセラは、ずっと呪いで苦しんでいたのだった。
だから誕生日パーティーもしてこなかったんだね……。
と思ったのだけど。
こちらの世界では、未成年の誕生日は『七五三』みたいなもので、5歳と10歳と15歳に祝うもののようだった。
その他の年では、特に何かをすることはないらしい。
「じゃあ、私達がやるとすれば15歳の時だね」
「そうですね。成人の祝賀として行うことになると思います」
あと三年後かー。
すごい先のような、もうすぐのような。
「エミリーちゃんは今年で9歳だよね?」
私は真面目に店番をしているエミリーちゃんにたずねた。
「はい。店長」
仕事中、エミリーちゃんは口調を崩さない。
お客さんはいないけど。
「じゃあ、お祝いするのは来年だねー」
「はい。楽しみです」
私も何かしてあげたいところだ。
「フラウは……もう年齢とかは、意味がなさそうだよね」
「で、ある。それよりもクウちゃん、今はお客が誰もいないのである。妾は肩車を所望するのである」
「うん。いいよー」
フラウは外見的には5歳くらいの幼女だ。
ひょいと肩に乗せてあげた。
さすがに普通の12歳の女の子ではふらつくと思うけど、私ならば平気だ。
「うむ。やはりここがベストポジションなのである。クウちゃんのさらさらの髪が心地良いのである」
「へえ、そうなんですかぁ……」
気のせいか、セラがとても羨ましそうな顔をしている。
私は気づかないことにした。
「それにしても、セラが1人でうちに来るのは珍しいね。いつもアンジェとスオナと一緒だったのに」
1人と言ってもシルエラさんはいるけど。
あと外に護衛の人もいることだろう。
「2人は生徒会のお手伝いです。仕事が多くて大変みたいです」
「あー。引き継ぎもあるんだったねー」
学院祭がおわれば、生徒会長はお兄さまからお姉さまに変わる。
合わせて生徒会役員の入れ替わりもあるのだ。
ちなみに生徒会室には、私もちょくちょく顔を出している。
学院祭の警備に協力するためだ。
学院祭では、外来の人間が多く学院に訪れる。
騒ぎを起こして、学院に加えて帝国の威信も傷つけようとするなら、もってこいの機会なのだ。
「わたくしも手伝おうかと思ったのですが、わたくしが事務仕事を覚える必要はないからと追い返されました」
「あはは。そかー」
「と、いうわけで、クウちゃんっ!」
「どしたの?」
「明日は学院もお休みです! 久しぶりにうちにお泊りに来ませんかっ! 今夜も明日も一緒にいたいですっ!」
セラはフラウとエミリーちゃんも誘ったけど、2人は断った。
エミリーちゃんはお母さんのお手伝いをするとのことだった。
9歳と思えないくらいに働きものだ。
フラウは、同年代の水入らずに割って入るつもりはないとのことで、ゼノのところに遊びに行くと言った。
私は、どうしようかな……。
「実は私、聖国に行くことになってるんだよねえ」
「なにかあるんですか?」
「うん。ほら、ソード様っているでしょ?」
「はい。クウちゃんですよね?」
「明日、『ホーリー・シールド』の選抜試験があってね。私もソード様として参加する予定なんだよ。あ、そうだ、セラも来る?」
「……いいんですか?」
「うん。いいよー」
私がいいというならいいだろう。
たぶん。
ユイにはいつも泣きつかれて、付き合ってあげているんだし。
「なら行ってみたいです。ユイさんとも久しぶりにお会いしたいですし」
「じゃあ、決まりだね!」
「しかし、エミリーといいクウちゃんといいアンジェリカといい、未成年なのによく働いているのである」
「そうですね……。わたくしだけ置いていかれている感じです」
「セラもこの間、初めてのお茶会を開いたよねっ!」
えらい!
すごい!
「はい……。なんとか……。緊張してガタガタでしたけど……」
「そうなの? うちのクラスのエカテリーナさん、セラフィーヌ様がご立派すぎて感動しきりだったよ?」
「もー。やめて下さいー! わたくしなんてご立派じゃありませんー!」
顔を赤くしたセラに、胸をぽかぽか叩かれた。
なんか、かわいい。
と、ここでフラウが私の肩から降りた。
ふわりと着地する。
「どうしたの?」
「お客が来るのである」
おっと。
私とセラは、エミリーちゃんとフラウから離れて、普通のお客さんっぽくぬいぐるみコーナーに移動した。
軽快なベルの音と共にドアが開いた。
現れたのは……。
ボンバーとその御一行だった。
「おお。これはマイエ――。いえ、クウちゃんさんではありませんか。懐かしくも久しぶりの再会ですな」
ん?
なにやらボンバーの態度がおかしい。
やけに普通だ。




