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549 騎士科の見学





 ささっとランチを済ませて、いざ出発!

 騎士科の一年生が練習しているという野外の訓練場に行ってみた。

 まあ、いるかいないかわかんないんだけどね。

 と思ったら、普通にいた。


「昼食の後なのに、やってるもんだねえ」


 私は感心してしまった。


「だねー。私ならお腹が痛くなりそう」

「だねー」


 私たちは渡り廊下から見学する。


 大勢の生徒が、剣を振ったり、軽く打ち合ったりしている。


「ちぇっ。なんだよ、決闘とかしてねーじゃん」


 レオが不謹慎なことを言ってエカテリーナさんに注意されるけど、ごめん私も少しだけ期待していました。


「あ、いたっ! おーい! サクナー!」


 アヤが大きく手を振ると、1人で剣を振っていた緑色の髪をしたエルフの女の子がこちらに気づいた。

 その気の強そうな顔に私は見覚えがある。

 入試の時にとなりの席にいた子だ。

 まあ、うん。

 休み時間に話しかけたら、話しかけるなと言われて……。

 それっきりの関係なんだけど。

 なんかそれ故に、私の方の印象は強かったけど。

 むこうは覚えてないのかな。

 アヤに呼ばれて近づいてくるけど、私のことなんて気にもしていない。


「どうしたの、アヤ」

「うん。ちょっと見学に来たんだー」

「普通科は暇なのね」


 うん、クールな子だ。


「そっちは大変そうだね」

「順位戦まで、あと一ヶ月しかないから。遊んでいる暇はないわ」


 と、ここで、アヤのとなりにいた私とサクナの目が合った。


「やっほー。久しぶりー」


 私は陽気に笑ってみた。


「貴女、合格していたのね」

「うん。そっちも。騎士科だったんだねー」


 なんとびっくり。

 覚えていてくれた!


「クウちゃん、サクナと友達なの?」

「友達ではないけど、入試の時、となりの席だったんだよ」

「へー。そうだったんだねー」

「その時には、しゃべりかけても冷たくあしらわれたケドねー」


 あははー。


「当然でしょう。休み時間の素行も評価の対象になるかも知れないのに」

「私、クウ。じゃあ、今からよろしく」

「サクナ・リタ・ユドよ。顔と名前は覚えておくわ」


 よかった!


 なんか少し仲良くなれた!


 と、私が喜んでいると――。


 がはははははは!


 やたら大きな声で豪快に笑いながら、男の子たちが訓練場に入ってきた。

 先頭にいるのは、筋肉のかたまりのような獅子族の男子生徒だ。

 私はそいつのことを知っている。

 入学式の時に、先生を相手にイキリまくった結果、メイヴィスさんに目を付けられてボコボコにされた子だ。


 獅子男は、うしろに生徒を連れて完全にボス気取りだ。


 彼らが訓練場に来ると、それまで練習していたヒト族の子たちは、そっと逃げるように脇へと退いた。


 ふむう。


 帝国は、基本的にはヒト族の国家だ。

 貴族もヒト族だし。

 でも、実力こそが正義の世界では、例外もあるようだね。


 まともな思考さえあれば遠慮するものだろうけど、あの獅子男には思慮や遠慮なんて言葉はなさそうだし。


「……ねえ、もしかして、あいつ?」


 アヤが獅子男の方に目を向けて、サクナにたずねた。


「ええ。ギザ・ロ・ザナド。礼儀知らずの蛮族よ。本当に、あの態度でよく合格できたものだと思うわ」


 見ていると、向こうにも気づかれた。


 剣を肩に担いで、獅子男――ギザがやってくる。

 サクナは自然に身構えていた。

 私たちは、渡り廊下から見ているだけだ。


「何か用かしら?」

「おいおい、サクナ。それが未来のご主人様に向かって言う台詞か? ちゃんと敬語くらい使え」

「誰が」

「で、そっちにいるのはおまえのツレか? 軟弱そうなヤツしかいねーな。さすがはおまえのツレだぜ!」


 完全にバカにした態度でギザが笑う。


 さあ、レオ。

 漢を見せる時だよ!

 と私は思ったけど……。

 レオたち男子は私とエカテリーナさんの背中に隠れていた。

 ギザとは絶対に目を合わせない覚悟のようだ。

 まあ、仕方ないか。

 なにしろギザは、圧倒的に巨躯だ。

 ボンバーくらいでないと、力と力での殴り合いなんて不可能だろう。


 エカテリーナさんも怖気づいてしまっているようで、すぐには無礼な態度を咎められないでいた。

 サクナも動けないでいる。


 というわけで。


 私の出番のようだ。


「おい、そこのデカいだけの雑魚。なに笑ってんのさ」


 私はそう言って睨みつけた。


「ちょ、くくく、クウちゃん……!」


 アヤが止めようとしてくるけど、横に押しのけた。


 ギザが笑うのを止めた。

 そのまま殺しにでも来そうな、怒りに血走った目で私のことを見下ろす。


「おい。今の、テメェか? チビエルフ」

「そうだけど? なにか?」

「ぶっ殺されてぇようだなぁぁぁ! ごらぁぁぁぁ!」

「やれるもんならやってみなよ」


 まったく。

 めんどくさい。


 その時――。


 風が逆巻いた。

 魔法の風だ。

 サクナが発生させたものだった。


「ギザ、いい加減にしろ。私の友人にまで無礼を働くとは――」

「ほお。許さねえって、どうする気だ?」

「……ここで決着をつけてやろうか?」

「がはははははは! テメェが、この俺とか? 笑わせるぜ! まともに打ち合うこともできねぇ雑魚がよ! っと」


 鋭い風が頬に触れて、ギザはうしろに飛び退いた。


「それは剣のみでの話ね。私の真価は風と剣の融合。本気を出せば、貴方なんて簡単に切り刻めるわ」

「おもしれぇ! やってもらおうじゃねぇか!」


「ちょっとサクナ! やめなよ!」


 ここでもアヤが止めようとする。


「2人とも、戦うにしても、やるなら手順を踏むべきです。水魔術師がいないこの状況で剣をぶつけ合って怪我でもさせたら大変なことになりますよ。落ち着いて冷静に考えてみて下さい」


 エカテリーナさんも喧嘩を止めようとした。


 レオたち男子は、全員、見てみないフリをしている!

 情けない!



 しかし。


 どうしたものか。


 面倒だから、そろそろ緑魔法で『昏倒』させちゃうか。


 と思ったところで。


「あら、クウちゃん」


 渡り廊下をメイヴィスさんが歩いてきた。






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