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546 休み時間





 週初めの日。


 今日も私はいつものように、ちゃんと学校に来ていた。

 帝都中央学院、普通科の1年5クラス。


 午前の最初の授業が終わるや否や、エカテリーナさんが私のところに来た。


「聞いて下さい、クウちゃん!」

「どうしたのー、エカテリーナさん。大きな声を出して。みっともないよ」


 貴族令嬢ともあろう者が。


 エカテリーナさんは、そうですね、と息をつくと、あらためて、


「実は昨日、ついにセラフィーヌ殿下とのお茶会があったのです」

「それは知ってるよー」


 散々聞かされてきたしね。


「素晴らしかったです」

「そかー」

「……もう少し興味を持って聞いてくれませんか?」

「いや、うん。だって、眠いし」


 私は机にへたばった。


 私はお疲れなのだ。

 昨夜はゼノと遅くまで騒いでしまったのだ。


「まだ最初の授業がおわったばかりですよ!?」

「そかー」

「話を聞いて下さいっ!」

「聞くけどさー。そういうのはまず、聞きたがってる子にしてあげたらー」


 ほら、仲良しのグループの子たちがこっち見てるよ。


「セラフィーヌ殿下に言われたのです」

「なにをー?」

「クウちゃんには、くれぐれもよろしく、と。なのでまずは、クウちゃんに話すのが当然なのです」

「そかー」


「クウちゃん、せっかくエカテリーナさんが話してくれるんだから、ほらちゃんと話を聞こう」


 アヤが私の背中に触れて、起きろ起きろと促す。


 他の女の子たちもやってきた。

 私はその子たちに左右から掴まれて起こされた。


「エカテリーナ様、ほら、クウちゃんも聞きたいそうですよ。早くお茶会のことを聞かせてくださいっ!」

「クウちゃんは、もっとしゃんとしなさい。だらしないよ」


 そういえばいつの間にか。

 みんな普通にクウちゃんと呼んでくれるようになった。

 マイヤさんでは堅苦しかったしね。

 よいことだ。


 私は当然ながら、セラのお茶会には参加していない。

 様子を見に行くこともしなかった。

 私が手伝わなくとも、セラは上手にやるだろうし。

 そもそもさすがにお節介すぎるだろうし。


 とはいえ、うん。


 どんなお茶会だったのか。

 興味がないわけではない。


 私は眠気を頑張って少しだけ振り払い、話を聞いてあげることにした。


「……で、楽しかったの?」

「それはもう! セラフィーヌ殿下は噂通りの、いえ、噂以上の御方でした。凛として落ち着いた佇まい、優しい眼差し、公正な態度。それでいてウィットもおありで面白くて……。最高でした」

「そかー」


 なんか、ほとんどセラが想像できないけど、第三者から見るとそんな感じなのかも知れないね、セラは。


「それに私、言われてしまったのです」


 ドヤ顔で胸を張って、エカテリーナさんが私を見下ろす。

 ものすごく聞いてほしそうだったので、期待に応えて聞いてあげた。

 すると、こう言った。


「お友達になりましょう、と」


 それを聞いた女の子たちが黄色い声を上げる。


「なんと近いうちに私の家にも来て下さるそうなのです。大勢を呼んでパーティーにしても良いとのことで。その時には、皆さんもご招待しますね」


 クラスは大盛りあがりだ。

 すごいね。


 私はその様子を、なんとなく遠い感じで見ていた。

 ナオの姿を思い出す。

 同い年のナオは、笑顔を見せることなく、ギャグを言うことなく、眠たげな眼差しすら見せることなく――。

 自分の楽に2倍はある獣人の重戦士を相手に剣を振るっていた。

 鉄と血と砂の砦で。


 一体、どちらが本当の世界なんだろうか。


 つい考えてしまう。


 うん。


 どちらも、本当の世界なんだけども。


「ところでクウちゃん……。セラフィーヌ殿下から聞いたのですが……。セラフィーヌ殿下とアリーシャ殿下の身に付けているアクセサリーは、すべて、ふわふわ工房の特製品なのだとか?」

「あー、うん。そうだねー。うちのだと思うよー」

「……よかったら教えてほしいのですけど。……それって、あの、おいくらくらいするものなのかしら?」

「あー、ごめんー。それは言えないやー」


 だって忘れたし。


「そ、そうですよね! 失礼しました!」

「ほしいの?」

「いえ、そんな……。両殿下と同じものなんておこがましい……」

「安いのもあるよ。ていうか、安いのしか売れないけど、興味があるなら今日の放課後にでも見せてあげようか?」

「いいんですか!?」

「うん。いいよー。あ、ちなみに、普段のお店には出していないから、今回だけの特別だからね」


 非売品のアクセサリーは私のアイテム欄の中なので、フラウやエミリーちゃんに言われても困るのだ。

 お店の棚にも少しはあるけど、本当に少しだけだし。


 クラスの女の子たちが、おそるおそる、私もいい、と聞いてくるので、いいよーとうなずいてあげた。


 するとまた、クラスは大盛りあがりだ。

 男子は、さすがにアクセサリーには興味なんてないようで、くだらねー、って顔をしていたけど。


 そんなこんなで、あっという間に休み時間はおわった。


 なんか、うん。


 これが今の、私の日常なんだねえ。


 と、頑張って授業を受けつつ、私はしみじみと思った。






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