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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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54 大商人のウェーバー氏



 いきなりのことに私は戸惑った。

 ウェーバー氏、どこからどう見ても小娘に頭を下げるタイプではない。

 なのに頭を下げたまま動かない。


「とりあえず頭を上げてください。困ります」

「はい」


 再び目が合うけど、私をバカにしている様子はない。

 申し訳無さそうな顔をしていた。


「――持ってきなさい」

「畏まりました」


 ウェーバー氏が命じると、お店の外で控えていた使用人さんが大きな紙包みを両手で抱えて持ってきた。


「こちらはご迷惑をおかけしたお詫びです。どうぞお受け取りください」

「い、いりませんよそういうのはっ!」

「いえ、そういうわけには……」


 押し問答になった。

 困った。


「……ちなみになにが入っているんですか?」

「はい。当商会で扱っている焼き菓子です」

「え、お菓子?」


 お金じゃなくって?


「はい。……金品ではお嬢様に失礼かと愚考し、ともかく気持ちだけでも伝えられる品にさせていただきました。どうかお収めください」

「まあ、お菓子くらいなら……」


 受け取ってしまった。

 いいのだろうか。


「この度のことはすべて当商会の不始末。二度とないようにいたしますので、どうかお許しください」


 またも深々と頭を下げられた。


「わ、わかりましたからっ! 許しますからもういいですっ!」

「ありがとうございます。安堵いたしました」

「あはは。いきなり来るとは思ってもなかったので、びっくりしましたよ」


 ギルドで見た時には高慢な人で攻撃的な人間に感じたけど、顔を上げたウェーバー氏の表情は柔らかい。


「本来ならアポイントを取るべきでしょうが、こういうことは一刻も早い方がよいと思い来てしまいました。

 ……しかし、可愛らしいお店でございますな」


「ありがとうございます」

「少しだけ見せていただいても……?」

「はい。いいですよ」


 ゆっくりした足取りでウェーバー氏が店内を回る。


「このぬいぐるみは、お嬢様ご本人ですね?」

「はい。私です。恥ずかしながら」

「とても可愛らしくて孫にあげたくなってしまいました。ひとつ買わせていただいてよろしいでしょうか?」

「はい。ひとつ銅貨2枚です」


 すぐに支払ってくれた。

 気に入ってもらえたのは素直に嬉しい。


「うちの孫は、こういうぬいぐるみが大好きでして。よろしければ今度、孫と一緒にまたこさせてください」

「はい。お客さんとしてなら歓迎しますよ」

「ありがとうございます。――それでは、長居してもご迷惑ですし、私はこれで」

「はい。お買い上げ、ありがとうございました」


 最後に一礼して、ウェーバー氏はお店を後にした。

 ふむ。

 人は見かけによらないものだ。

 温和ないい人だったね。




「そんなわけないでしょ」


 遊びに来てくれたリリアさんに、ため息まじりに言われた。


「え、でも……」

「あのねえ。ウェーバー商会と言えば帝都でも屈指の大商会よ? しかもゾル・ウェーバーと言えば一代でその大商会を作った傑物。強引な手段も柔和な手段も自由自在のとんでもない食わせ者なんだから。油断してヘラヘラしていると、気づかない内に呑み込まれて何もかも奪われちゃうんだからね」

「そ、そかー。でも、そんな人には見えなかったけどなぁ……」

「もう。ホントに」


「と、ところでどうかなっ! 私のお店っ!」

「いいと思うよ。かわいいね。武器と防具を扱う場所には見えないけど……」

「ほらここっ! 犬くんが剣を持っているでしょ」

「そうね。持ってはいるわね。可愛いけど」

「品質には自信あるんだよ」


 犬くんの手から剣を取って、リリアさんに見せてあげた。


「……本当ね。高く売れると思うし、需要はあると思う」

「私が作りました」


 えへん。


「クウちゃん、すごいのね。大商人に目を付けられるわけね」

「あはは……」

「でも、これなら大丈夫ね。いいお店がないか聞かれたら紹介してあげる」

「わーい。ありがとー」


 リリアさんは防具も手に取って確かめ、高品質だと認めてくれた。


「ねえ、クウちゃん、革の装備は作れる? 冒険者には、動きやすい革装備を好む人も多いから、作れるなら紹介の幅が広がるけど」

「うーん。革はあんまり持っていないんだよねえ」


 獲物を狩って皮を剥ぐなんて怖い。

 私には無理だ。


「でも作れるから、素材を持ってきてくれればお安く対応するよ」

「わかったわ」

「ちなみに革ってどこかで売ってる? なめす前の皮でもいいんだけど」

「商業ギルドで扱っているわよ」

「今度行ってくる。仕入れられたら普通に革装備も売れるから。あ、ローブやマントや靴も製作可能だよー」

「……本当に何でも作れるのね」

「任せてっ!」

「あ、でも、魔術師用の杖の製作には注意しなよ? 魔術ギルドの連中に睨まれてトラブルになる可能性があるから」

「作っちゃいけないんだ?」

「そんな法律はないけど、現状は魔術ギルドの独占ね」

「なるほど……」


 利権問題は面倒そうだ。

 作っても、お店には置かないでおこう。

 アンジェやエミリーちゃんやブリジットさんやノーラさんへのプレゼント用だね。


「ねえ、ところで、このぬいぐるみってクウちゃんよね?」


 リリアさんが私のぬいぐるみを手に取る。


「うん。そだよ」

「これ、ひとつ売ってもらっていいかな? 可愛くて気に入っちゃった」

「まいどっ!」


 私のぬいぐるみがまた売れてしまった。

 嬉しい。


 リリアさんが帰ってしばらくすると、今度はメアリーさんが来てくれた。

 メアリーさんとは椅子に座って、私が作ったクッキーを食べながら、あれやこれやと雑談した。

 来週末に予定されている皇帝陛下の演説会が、目下、帝都では一番の話題らしい。

 果たして皇帝陛下は何を語るのか。

 精霊の祝福は、どのようにもたらされたのか。

 話題は尽きないらしい。

 続いてセラの聖女伝説。

 『陽気な白猫亭』でも毎晩のように誰かが、セラが少年を助けた光の魔術の話題を持ち出しているとのことだった。

 精霊の祝福はセラがもたらしたのではないかと憶測する人もいるらしい。

 セラの人気は、日を増す毎に高まっているそうだ。


 セラごめんよ!

 頑張ってフォローはするからねっ!


 帰り際、メアリーさんも私のぬいぐるみを買ってくれた。

 嬉しい。


 メアリーさんを見送った後、私は市場に行った。

 再びわたと布を買い込む。

 ぬいぐるみだけじゃなくて他のものも作りたい。

 まだ大量に必要だ。

 時間があれば、わたや布の素材となる綿花を採集してきたいところだ。

 どこで取れるのか、今度、リリアさんに聞いてみよう。


 買い物がおわった頃にはすでに日が暮れかけていたけど、そのまま頑張って少し離れた魔道具屋に向かう。

 場所はメアリーさんに聞いた。

 幸いにもまだ開いていた。

 魔術の入門書があるか聞いてみると、あった。

 金貨2枚と言われた。

 アンジェから聞いたのと同じ値段だったので、迷わずに購入した。

 エミリーちゃんにプレゼントする前に私も勉強してみよう。


 家に帰って、夕食。

 今夜は市場の屋台で買ったトルティーヤ。

 肉と野菜がたっぷりと大きな生地に巻かれている。

 私は1つでお腹いっぱいになった。

 肉に絡んだソースが野菜の風味をも引き立てていて美味しかった。

 屋台、侮りがたし。


 寝るまでの時間は、ベッドに寝転んで魔術の入門書を読む。

 部屋が静かすぎて寂しい。

 オルゴールをつけた。

 懐かしいゲームのオープニング曲が流れる。

 そういえばオルゴールは、作る時に曲を選ぶことができるのだろうか。

 次に作る時に試してみよう。


 入門書には、体の中の魔力を意識する方法から書かれていた。

 さらには、魔力を収束させる方法。

 それを呪文によって明確な形として解き放つ方法。

 呪文は、練習用に繰り返すべきものが、火・土・風・水の属性ごとに1つずつ紹介されていた。

 しっかりした入門書だった。

 これを読んで勉強していけば、独学でもなんとかなるかもしれない。


 私も試しにやってみた。

 魔力の意識と収束は、古代魔法の詠唱で慣れているので問題なし。

 呪文を唱えると普通に発動した。


 ファイヤーアロー。


 飛び出す寸前に、あわてて手でつかんで消した。

 あぶない。

 危うく火事を起こすところだった。

 何にしても呪文さえわかれば、こちらの世界の魔術も私は使えそうだ。

 お金に余裕ができたら、いろいろな魔術書を買ってみよう。

 私の魔法リストにはない魔術も、きっとあるだろうし。



ご覧いただきありがとうございましたっ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 連載お疲れ様です! [気になる点] 安く高品質なものを販売すると皆がそれを買うことで市場の相場の混乱と軋轢が生まれそうで気になってしまいますね。 (巨大スーパー進出して地域の商店街がメタメ…
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