533 恋の季節!?
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、聖国に来ています。
シャルさんのお店で起きたトラブルをさくっと解決するためです。
「えっと……。ユイはどこかなぁっと……」
残念ながら聖女の館にはいない。
魔力感知の範囲を広げると……。
いたっ!
もう夕方なのに、まだユイは仕事をしているようだ。
いつもの精霊特性セットな『透化』と『浮遊』で行ってみると、なにやら会議の途中だった。
会議ならいいよね。
さあ、連行だ!
ユイに、さらさらっと、シャルさんのバーガー屋は正当です、っていう光の勅令を書いてもらおう!
と、思ったんだけど……。
会議は白熱していた。
獣人解放軍とトリスティン王国との戦いにおいて、聖国の行動を決めるための会議のようだった。
聖王を始めとした何名かが、同じ人間国家であるトリスティン王国を支援するべきだと訴えている。
対して、総大司教を始めとした何名かが、聖国が難民で溢れ返ることを防ぐためにも獣王国復興こそ支援すべきであると訴えている。
聖国は争いには関わらず、調停にのみ関与すべきとの声もあった。
ユイは黙して話を聞いていた。
ふむ。
これは……。
さすがの私にも理解できる。
超真面目な会議だ。
とてもじゃないけど、ユイを連れ出していい雰囲気ではない……。
私は仕方なく帝都に『帰還』することにした。
いつもの願いの泉のほとりに出る。
くまった。
頼りにしていたユイの力を借りられないとは……。
どうしたものか……。
いっそ私がソードになって、バーガー屋に乗り込んじゃう?
でも、うん。
きっと本物だと信じてもらえないよね。
「よし!」
私は決めた。
喚いていた神官は、『昏睡』させて、神殿の前に運ぼう。
寝ていましたよーって引き取ってもらおう。
目覚めれば朝。
すべては夢でした……?
ちゃんちゃん。
うん。
完璧ではなかろうか!
ユイの手助けは必要なかったね!
私はシャルさんのお店に戻った。
すると……。
すでにお店の前に人だかりはなかった。
神官の姿もない。
「ただいまー」
お店に入ると、モスさんがシャルさんのハンバーガーを食べていた。
「あ、おかえり、クウちゃん! どこに行ってたの? 忘れものって、一体、なんだったの?」
シャルさんが私に聞いてくる。
「うん、ちょっと、ね……。それよりさっきの神官は?」
「帰ったよ……」
「フン! 追い返してやったわ!」
元気のないシャルさんに代わって、モスさんが吠える。
「普通に帰ってくれたんだ?」
剣幕からして、そう簡単に引き下がるとは思えなかったのに。
「代わりに看板は付け替えることになったがな!」
「って、というと?」
「うん……。結局ね、モスさんが交渉してくれたけど、お店の名前とハンバーガーの名前は変えることになっちゃったよ……」
「安心しろ。腕利きの職人を揃えて、あっという間におわらせてやる」
「うう……。ありがとー」
「むう。それって負けた気がして、なんか嫌だねえ」
私は顔をしかめた。
「と言っても、どうしようもないよぉ。聖女様の許可証があればなんて言われたけど、そんなの、もらえるわけがないし」
「ロクでもない連中だ。しかし、騒がれては商売にならんだろう。虫にでも食われたと思って我慢しておけ」
「もらってきてあげようか?」
「うう……。なにを?」
「許可証」
「聖女様の?」
「うん。明日にでも書いてもらってくるから、待っててよ」
朝に行けば、家にいるだろうし。
「……クウちゃん、聖女様の書類なんて偽造したら、それこそ死刑だよ?」
「安心して。本物だよー。私の魔法、の道具で、ひとっ飛びして、ね。聖女様とは知り合いだから話はつくと思うよ」
「ホントなの?」
シャルさんは疑り深く確認してくる。
まあ、無理もないか。
信じろという方が難しいだろう。
「まあ、任せといてよ。ちゃんと光の魔力も込めてもらってくるから、見れば本物だってわかるよ」
私が胸を叩いて自身満々にそう言うと――。
ハンバーガーを食べ終えたモスさんが私を睨みつけてきた。
「不要だ」
「ホントにもらえるってばー」
「本当でも不要だ」
モスさんが言う。
「どうして?」
私が不満に思ってたずねると、モスさんはそっぽを向いてこう言った。
「そんなものがあったら、この店が信者だらけになっちまうだろうか。俺が落ち着いてバーガーを食べる場所がなくなる」
なるほど。
「それに――」
と、モスさんはちらりとシャルさんのことを見て、
「……こいつとしゃべる時間もなくなっちまうだろうが」
なんて、つぶやく。
「モスさん……」
シャルさんが感動して目を潤ませる。
私は戦慄した。
こ、これはまさか……。
恋の予感!?
「クウちゃん、気持ちだけありがとう。私もモスさんにハンバーガーを食べてもらえなくなるのは寂しいから、お店の名前は変えるよ」
「そかー。わかったー」
人間とドワーフってアリなんだろうか。
いや、ううん。
種族なんて関係ないか!
「ねえ、モスさんって、シャルさんのことが好きなの?」
私はたずねた。
するとモスさんが飲んでいた水を吹いた。
「バ、バカなこと言ってんじゃねえぞ、このガキ! いいか、俺がここに来るのはあくまでバーガーのためだ! シャルロッテのことなんぞ、どうとも――。とまでは言わねぇが……。なんだ、その……」
モスさんが柄にもなくしどろもどろになった!
これは……。
面白い……!
私は満面の笑みでからかうことにした。
「その、なぁに? 好きなの? もしかして嫌いなの?」
「このガキ! ぶち殺されてぇのか!」
モスさんが立ち上がる。
「きゃー! モスさんが怒ったー! 助けてー、シャルさーん!」
私はシャルさんの背中に逃げた。
「え、あの、え……と」
「ぐぬぬぬ」
モスさんは歯ぎしりして席に戻った。
「ねえ、それでシャルさんはどうなの?」
「どうなのって……?」
「モスさんのことは好きなの?」
「うん。それはもう! 頼りになるし、カッコいいしね! さっきも守ってくれて騎士様みたいだったよ!」
おお。
シャルさんは笑顔で言い切った。
さすが、天然の入っている人だけのことはある。
おおっと!
モスさんが照れたのか顔を逸らして、また水を飲み始めた。
ドワーフ特有の髭面で、表情の変化が分かりづらいのが残念だ。
「そういえば、モスさんっていくつなの?」
見た目的には年齢不詳だ。
「俺ぁ、61だ。人間で言うなら30そこそこだ」
「へえ。まだそんなだったんだ。意外と若い、よね?」
「ああ!? なんだ、文句あんのか!?」
「あ、ううん。ないけど」
「モスさんって、まだ人間換算30だったんですね……。私、てっきり50代くらいだと思っていました……」
「シャルさん的には50代でも仲良くなれるの?」
「それはもちろんです! 年齢とか種族なんて関係ありません! 大切なのは通じ合える心です!」
言い切ったぁぁぁぁぁ!
さすがだぁぁぁぁ!
ちなみにシャルさんは20代半ばに見えるお茶目なお姉さんだ。
エプロンと三角巾がよく似合っている。
と、盛り上がっているところで……。
「あの、そんなことより、早く新しい名前を決めて、明日の準備を始めた方がいいと思うんだけど。とりあえず上書きでもいいから変えておかないと、明日、またうるさく言われるよね……」
隅っこにいたラハ君がおずおずと声をかけてきた。
ふむ。
せっかくいいところなのに! と、私は文句を言いかけたけど、たしかにラハ君の言う通りではある。
この後は気を取り直して、お店の名前を考えた。
と言っても簡単に決まった。
「なら、ボムボムバーガーとか、どう? 爆発するおいしさ!」
「お。いいな、それ」
「うん。いいかも!」
「はい。さすがはマイヤ――クウちゃんさんです」
モスさんに続いて、シャルさん、ラハ君も賛成してくれた。
さすがは私!
いえ、うん。
はい。
前世の知識頼りなんですけれどもね。
「じゃあ、ラハ君。あとは大人達にお任せして、私達は帰ろっか」
「え。あ、僕はここに残って姉さんの手伝いを――」
「いいから早くっ!」
野暮は言いっこなしってもんよ!
ちなみにボムボムバーガーは、なんかボンバーっぽいので、やっぱりボツということにしました。




