532 シャルさんのピンチ!
いきなり怒鳴り込んできたのは中年の神官だった。
「はい、私ですが……」
バーガーを堪能した私達が見守る中、おそるおそる、店長のシャルさんが神官のところまで歩いた。
「貴女が店長か! なんということをしてくれているのですか!」
神官の鼻息はとてもとても荒い。
とてとてだ。
「えっと……。なにがでしょう?」
シャルさんが首を傾げる。
私も傾げた。
一体、この神官はいきなり何を怒っているのか。
「よりにもよって、かの聖女ユイリア様が側近、聖女親衛隊序列第一位であるソード様の必殺技名を店名にし、あまつさえハンバーガーにするなど! これは精霊様そして聖女様に対する冒涜以外の何者でもありませんぞ! ただちに店を閉めて貴女は懺悔をしなさい! 懺悔を!」
な、なるほど……。
ご熱心なことで……。
シャルさんは突然のことで混乱してしまっている。
「スーパースペシャルマックスバスターとは! まさに悪を斬り裂く正義の光! それは聖なる刃! 我らが明日への希望! 断じてハンバーガーなどにつけてよい名前ではないのです! スーパースペシャルマックスバスター! スーパースペシャルマックスバスターは!」
あのー……。
その名前、連呼されると恥ずかしいんですけど……。
私的には明確にハズカシ技名なので……。
まあ、私がつけたわけじゃなくて、聖女のユイちゃんが勝手につけちゃっただけなんですけどね……。
「いいだろー、技名くらい。聖女様の名前を使ってるわけじゃねーんだし」
お店の中からレオがぼやいた。
神官に睨まれて、すぐにそっぽを向いたけど。
「とにかく! 店を閉じろ! この店は今日でおわりだ!」
「そんなの困りますっ! 私にも生活がぁ!」
いや、うん。
シャルさんって、ボンバーとお母さんから多額のお小遣いをもらって悠々自適に暮らしているよね。
お店を閉めても、生活には困らないよね。
って!
今更ながらに私は思い出した!
シャルさんって、ボンバーのお姉さんだった。
ということは……。
私はおそるおそるラハ君のことを見た。
ラハ君って、ボンバーの弟!?
似てない!
ボンバーが大岩爆弾野郎とするなら、ラハ君は窓際の小鳥系少年!
完全に別人すぎて、想像することもできなかったよ!
と、私が大混乱に陥っていると――。
「おい。こりゃ、何の騒ぎだ。シャルロッテ、一体どうした? なにを神官なんぞと揉めてやがる」
エメラルドストリートにお店を構えるドワーフの時計職人――。
ドワーフのモスさんが現れた。
「モスさぁぁぁぁぁん! 助けてぇぇぇぇぇぇ!」
シャルさんが泣いてモスさんに駆け寄る。
モスさんは、そんなシャルさんを背中に回すと、神官を睨みつけた。
「おい……。どういうことだ?」
なんだなんだ。
と、通りにいた人たちが注目を始める。
「どういうことだもなにもありません! その女は冒涜を働いたのです! 反省する様子がなければ――。仕方がありません。さあ、神殿に行きましょう。貴女にはしっかりと、精霊様の教えを理解してもらう必要がありそうです。その上で罪を償う機会を差し上げましょう」
神官が怖い笑顔で差し伸べた手を、モスさんが振り払った。
「ハンッ! なにが教えだ! 少なくとも、テメェみたいなヤツに教えてもらうことなんざねぇわ!」
「……貴方は今、誰の手を弾いたかわかっているのですか?」
「知るかボケ。この女は泣いているだろうが。泣いている女に手を出そうとするヤツなんぞ――。ただのカスだ」
「モスさん……」
モスさんに背中に回されて、膝を曲げて隠れているシャルさんが、感動のあまり瞳を潤ませる。
「ねえ、どうしよう……。私、そろそろ帰らないと……」
一人の女の子が困りきった様子でつぶやく。
「そうですね……。とはいえ、放っておく訳には……。ねえ、クウちゃん、何かいい手はないかしら」
エカテリーナさんが私に話を振ってくる。
んー。
まあ、いいか。
手はある。
とても簡単で確実な方法はあるんだけど……。
それをやると後日面倒になる気もするから、まあ、名前を変えるだけで済むならそれでもいいのかなー。
とは、正直、思っていたんだけど……。
だって、うん。
スーパースペシャルマックスバスターって……。
カッコよくないよね、本気で……。
ただ、神官の様子を見ていると、それだけでは済みそうにない。
神殿になんていったら、それこそ幽閉されて、洗脳同然に精霊様の教えを聞かされることになりそうだ。
ちなみに精霊様といえばここに1人いるのですが……。
私から教えることはなにもない。
一体、なにを教える気なのか。
少しだけ興味はあるけど、今はそれどころではない。
とりあえず、もう時間も遅いし、クラスの子たちには帰ってもらった。
騒ぎの横からそそくさと通りに出る。
神官もみんなのことは気にせず、そのまま通してくれた。
残るのは私とラハ君だけだ。
「モスさん、ごめん。もう少し頑張ってて」
私は、男気を見せているモスさんにエールを送った。
「ったく。なんでここにいるのか……」
「あはは」
「あはは、じゃねえぞ!」
「持ってくるの忘れてたけど、ちゃんとあるから取ってくるよ」
「何をだ!?」
「いいものー。とにかくお願いねー」
私は走った。
走って、曲がり角で、転移。
目的地はひとつだ。
 




