531 スーパースペシャルマックスバーガー!
放課後。
私は大勢のクラスメイトを連れて、シャルさんのお店に向かった。
シャルさんのバーガー店に行くのは思えば久々だ。
前に行った時は、すべてのお客さんを姫様ドッグに奪われた、今にも潰れそうなお店だったけど……。
客層に合ったバーガーを目指して大改革を行ったはずだ。
果たして、どうなっているのか。
「てかさ、シャルレーンの家って、けっこうデカい商会だろ? どうして姉貴が裏通りでバーガー屋なんだ?」
クラスのヤンチャ少年レオが、ラハ君にしゃべりかける。
すると代わりにエカテリーナさんが答えた。
「結構、ではありませんね。シャルレーン商会と言えば、帝国ではウェーバー商会に並ぶとも言われる大商会ですよ」
「え? そうなの?」
これには私が驚いた。
ウェーバー商会にはお世話になっているけど、シャルレーン商会なんて聞いたことがなかった。
「シャルレーン商会は、表向きはただの材木商ですが、実は多くの子会社を持っていて、そちらの規模が大きいのです」
「へー。そうなんだー。凄いんだね、ラハ君」
「はんっ! こいつ自体は地味だけどな! 本読んでるばっかじゃん」
私が感心すると、レオがラハ君を鼻で笑った。
まったくこいつは!
「気にしなくてもいいからね、ラハ君。レオなんて、喚いてばっかりだし。ラハ君の方が偉いよねー」
「なんだとー! 俺んちは男爵家だぞ!」
「しりませーん」
「やんのかよ、クウちゃんさま!」
「やりませんー。それよりさ、いい加減にクウちゃんさまっていうのやめてよ。バカにしてるでしょ、それ」
「ならなんて呼べばいいんだよ……?」
「クウでいいよ、普通に」
私のことを様付けで呼んでいた他の子にもお願いしておいた。
ついでにマイヤという家名呼びもやめてもらおう。
私は、ふわふわのクウちゃんだしねっ!
「いいならいいけどよ、クウ」
レオが照れながらも言い換えてくれた。
「うん。いいよー」
笑いかけると、そっぽを向かれたけど。
「おい行くぞ、シャルレーン! おまえんち、もうすぐそこなんだろ?」
「う、うん」
ラハ君を連れて、レオが走っていってしまった。
「……なに、あいつ」
「あはは。クウちゃん、モテモテだねー」
「どこが」
アヤにはからかわれたけど。
ホントに。
中央広場を抜けて、裏通りに入った。
角を曲がれば、すぐそこだ。
お。
あったあった。
お店の前には、以前、私が作ってあげたハンバーガーのイラストが描かれた看板が置かれていた。
営業中のようだ。
お店の名前は、「スーパースペシャルマックスバーガー」になっている。
シャルさん、本当にその店名にしたんだね……。
まあ、いいけど。
お店の中に入ると、ラハ君とシャルさんがおしゃべりをしていた。
レオは店内の様子を興味深そうに見ている。
残念ながらお客さんはいない。
「やっほー、シャルさん」
「あ、クウちゃん! ひっさしぶりだねー! 元気?」
「うん。元気だよー」
「ていうか、その制服……。帝都中央学院に入ったんだね! あれ、もしかしてうちのラハエルと」
「うん。同じクラスなんだー」
「そうなんだー! すごいご縁だねー! ラハエル、このクウちゃんはね、私の恩人さんなんだよ!」
「はい、姉上。話はマイヤさん――クウさんから聞いています」
この後、エカテリーナさんを中心にみんなの紹介をした。
それがおわってから私はたずねた。
「シャルさん、ニューバーガーは完成したんですか?」
「もちろん! 食べてみる?」
「うん。ひとつ下さい」
クラスのみんなも1つずつ注文することになった。
合計で10個だ。
そんなにたくさんの材料あるのかな、と私は心配したけど、あるようだ。
「ふふーん。今はね、お昼にけっこう買ってもらえるんだー。男の人向けに改良したら市場で力仕事している人たちにウケてねー! そうそう、モスさんも毎日欠かさずに来てくれるんだよ!」
「へー。モスさん、買ってくれてるんだー」
「これなら問題ないって言ってくれたよー」
「おお。すごいね!」
あのモスさんを納得させるとは!
モスさんは時計職人のドワーフ。
お兄さんはマクナル。
兄弟揃って、ハンバーガーにはうるさい人たちだ。
シャルさんがバーガー作りを始める。
私たちはお願いして、近くで見学させてもらった。
鉄板の上で、たっぷりのパティが焼けていく。
やがて完成。
さあ、お客さんに戻ってー!
とシャルさんに言われて、私たちは席についた。
「はい。どうぞー! スーパースペシャルマックスバーガーです!」
おお。
でん、と、テーブルに置かれたのは――。
紙に包まれた、なかなかに迫力のあるバーガーだった。
バンズに、4枚のパティが挟まっている。
野菜は最上段にピクルスとスライスオニオンが薄く乗っているのみ。
まさに肉のタワーだ。
手に持つと、ずっしり重い。
「すっげー! めっちゃ美味そうじゃん!」
レオたち男子は、大いに気に入ったようで興奮していた。
「……私、食べられるかしら」
「そうですね……。あと、これって、手に持って食べるんですよね?」
「ええ。そのようね……」
エカテリーナさんと淑女の子たちは困惑気味だ。
私とアヤは、どちらかと言えば男子寄り。
食べ切れるかなーとは言いつつも、両手で掴んで豪快に食べた。
エカテリーナさんたちにはシャルさんが気を利かせて、お皿とナイフとフォークを用意してくれた。
結局、エカテリーナさんたちは、ひとつを3人で分けて食べた。
残った2個はレオたちが喜んで貰った。
私とアヤは頑張って食べた。
「ふう。お腹いっぱいー」
「そうだねえ、クウちゃん。今夜はもう夕食いらないやぁ」
「シャルさん、思い切って作ったね。まさに肉だったよー」
パンもピクルスもオニオンもチーズもソースも、すべてが肉を引き立たせるために存在していた。
まさに、肉バーガー!
「あはは。女の子には重すぎるよねー。半分で出せばよかったねー」
「いやー、うん。これは、働く男の人にはウケるよねー」
「モスさんのおかげだよ。本当に親切にしてくれてね。毎日、本当に丁寧にアドバイスをくれたんだー」
「へー。モスさんって、けっこういいトコあるんだねー」
「うん。とっても素敵な人だよねえ……」
あれ。
気のせいか、頬に手を添えたシャルさんの様子が変だけど。
妙にモジモジしているけど。
まさか?
だけど残念ながら、詮索している暇はなかった。
「この店の主は、誰だぁぁぁぁぁぁ!」
入るなり怒鳴って、いかにも面倒くさそうな神官服を着た男が現れた。
 




