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528 お兄さまが来た





 お兄さまが教室に入ってきた。


 机にへたばっていた私の前にまで来ると、冷たい目で見下ろしてきた。


「もー。なんですかぁ」

「なんですか、ではない。久しぶりだな、クウ」

「ですねー」


 最近、あまり大宮殿には行っていない。

 一緒に夕食を取ることも、すっかりなくなっていた。


「貴様、入学してから、一度も俺のところに挨拶すら来ていないが?」

「そりゃ行ってないですよー」


 そんなの、悪目立ちするだけだし。

 あー。

 今、私は悪目立ちしている。

 クラスのみんなは完全に動きを止めてしまった。

 私のそばにいたアヤは、まるで石膏のように固まっている。

 エカテリーナさんは片膝をついていた。


 まあ、でも、私はすでに、どうでもいいかなー、という境地だった。

 先日のお茶会で割り切りもついたし。

 もうアレですよ。

 なるようになれ。


「とにかく行くぞ。来い」

「えー。私、これからランチなんですけどー」

「話がある」

「はぁ。もう」


 アヤに謝って、私は席を立った。


 お兄さまとウェイスさんに挟まれて、廊下を歩いて行く。

 うん。

 超目立ってる。

 あの子、誰、とか言われている。


「で、なんですか?」

「学院祭のことだ。おまえに――君に助力をお願いしたい。去年のような事件が起きぬように手を打っておきたいのだ」

「あー。そういうことですかー」


 生徒会室に入る。


 生徒会室には誰も居なくて、私とお兄さまとウェイスさんだけだ。


「少し待っていろ。もうすぐ面子が揃う」

「はーい。あ、そうだ。じゃあ、少し食べててもいいですか? 私、本当にお腹が空いているんですよー」

「好きにしろ」


 というわけで、アイテム欄から姫様ドッグを取り出して、お兄さまとウェイスさんにも差し出す。


「はい。どうぞ。2人にもあげますよー」

「おお、これか! 久しぶりだな! 美味いよな、これ!」


 ウェイスさんは喜んで受け取ってくれた。

 お兄さまは嫌な顔をした。


「あれ? 嫌いでしたっけ?」

「いや、なに」


 お兄さまは姫様ドッグを受け取ると、


「もう随分と前だが――。目が覚めたらこれに囲まれていた悪夢を思い出してな」

「あはは。あー、ありましたねー。ウケましたよね、あれ」

「もう二度とするなよ?」

「はいはーい。しませんってばー。もー」


 食べていると、ドアが開いた。


「あら」


 私を見て驚いた顔をするのは、お久しぶりのアリーシャお姉さまだ。


「おっ! クウちゃん師匠!」

「学院では初めて会いますね」


 続けて、ブレンダさんとメイヴィスさんもやってきた。


「来たか。座ってくれ」


 お兄さまに促されて、3人が着席する。


「クウちゃん、こんなところに来てしまっていいんですか? いろいろと目立つと思いますけど……」


 お姉さまが言う。


「俺が連れてきたのだ。今更だから気にするな」

「お兄さまとウェイスさん、私の教室まで来るんですよ。今頃、クラスのみんなは大騒ぎですよ」


 私は息をついた。


「あらあら。せっかく今まで気を遣ってきたのが台無しですね」


 お姉さまが同情してくれる。


「だいたい、こそこそ逃げ隠れしてどうする? 隠す必要などない。堂々としていればいいのだ」

「まあ、いいんですけどね。私も、セラとかお姉さまとかを避けるみたいにして暮らすのは、もう面倒になっちゃいましたし。そもそも確かに、なにしてんだかって話ですよねえ」


「おお! じゃあ、私らも遊びに行っていいんだな!」

「やっと楽しくなりますね」


 すかさずブレンダさんとメイヴィスさんが食いついてくるけど……。


「それは駄目です。さすがに邪魔です」


 ちゃんと断らせてもらった。

 上級生の、しかも恐れられている人たちが頻繁に来ては、どう考えてもみんなの邪魔になるよね。


「まあ、たまにならいいですけど。2人がどれくらい強くなったのか、最近、見ていないですし」


 とはいえ、やっぱり他人行儀すぎるのは悲しい。

 私は少し妥協した。


「なら今から行きませんか? 私、アーレでは捌ききれなかったクウちゃんの一撃を今度は捌いてみせます」

「私も私も! 試させてくれよー!」

「それなら俺も、久しぶりに師匠に鍛えてほしいぜ!」


 メイヴィスさんとブレンダさんとウェイスさんは、やる気満々だ。


「まあ、なら、久しぶりに見てあげますか」


 私も少しやる気になったところで――。


 コホン。


 と、お姉さまとお兄さまが同時に咳をした。

 お兄さまが言う。


「今回は、学院祭の治安維持についての相談で、皆を呼んだわけだが? それを放り出して何をするつもりかね?」


「お、おう。そうだったな。すまんすまんっ」

「はぁ。残念」

「……仕方ありませんか」


「ウェイス副会長まで2人に合わせてどうするのですか。貴方は少なくとも止める側の立場でしょう?」

「いやー、面目ない、アリーシャ殿下。クウちゃん師匠の指導となれば、金貨千枚よりも価値があるからなぁ、つい」

「さすがは兄貴、わかってるな。その通りだぜ」


「いいから話を始めるぞ」


 軽く机を叩いて、お兄さまがみんなの注意を集めた。


 そこから先はしばらく真面目な話をした。


 お兄さまは去年のように、悪魔に唆されて危険な魔道具を使う者が現れることを特に心配していた。


「んー。そうですねえ……。悪魔の侵入を阻止するだけなら、結界を張れば済むことなんですけど……。魔道具は無理だしなぁ……」


 去年、ディレーナさんが掴まされたドーピングポーション等には、しかも隠蔽の魔術が施されていた。

 魔力感知しただけではわからないのだ。


「いっそ、すべての魔道具を持ち込み禁止にするとか?」


 私は提案した。


「それがいいんじゃないか?」


 ウェイスさんが同意するけど、お姉さまが首を横に振った。


「事前に学院に隠されてしまえば、防げませんわね。学院にはそれこそ山のように魔道具がありますし」


 この後、いろいろとアイデアを出し合ったけど。

 これだというものはなかった。


 私が敵感知すれば、よほど防げるとは思うけど……。

 魔道具の正体を隠されて、本人が何も知らないままに悪意なく使ってしまう可能性もある。

 特に現在は2人の悪魔が自由にしている。

 思いもよらない方法で嫌がらせをしてくる可能性はあるのだ。


 結局、一回の昼休みだけで、いいアイデアを出すことはできなかった。

 また次に、ということになる。


 真面目な会議だったけど――。


 久しぶりにみんなと会話できて、私は楽しかった。






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― 新着の感想 ―
[良い点] クウちゃんとお兄さますっかり仲良くなって私もにっこりです! [気になる点] そしてあわよくばくっつけえぇえ!(←まだ言ってます) でも、このまま仲良しのまま終わったとしても良きですね。
[一言] 精霊くんたちにお願いすれば?そうしたら学園がふわふわ空間になるよ。
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