527 学院祭の出し物
朝のホームルームの時間に、先生は言った。
「みなさんも学院での生活に慣れてきた頃とは思いますが、いよいよ、みなさんにとっては早くもでしょうか。帝都中央学院の、年に一度の祭典、学院祭の時期が近づいてきました」
おお。
と、教室が盛り上がる。
「まだみなさんは一年生でわからないことばかりだと思いますが、学院祭では一年生のクラスでも出店を行います。出店での評価は、みなさんの評価にも直結していきます。なので、しっかりとミーティングを重ねて、少しでも良いものを全員で作り上げていきましょう」
私は1人、朝からぼんやりとしていた。
あくびが出る。
昨日もまたヒオリさんとフラウと魔道具の研究で盛り上がって、すっかり寝るのが遅くなってしまったのだ。
……ああ、そういえば、学院祭って夏休みの前だったよねえ。
準備、もうこの時期から始まるのかぁ。
5月の中旬。
空気は、すっかりと温かい。
もうなんていうか、昼寝にはもってこいだった。
まだ朝だけど。
去年、私は学院祭でメイドさんをやった。
その時にアリーシャお姉さまからもらった水色のメイド服は、今でもなんやかんやで着ている。
けっこうお気に入りだ。
「あと、武闘会への参加者申込みが来月から始まります。このクラスに希望者はいないと思いますが、居るのであれば申し出て下さい」
あー、武闘会も懐かしいねえ。
ボンバーがふっとばされて、ロディマスさんが粉砕されて。
いろいろ大変だったよねえ。
そうそう。
ロディマスさんと言えば、無事に学院を卒業して、今は立派に帝国中央騎士団の新人として活動している。
お兄さまが将来の騎士団長として見込んでいるのだ。
ぜひとも頑張ってほしい。
「ちなみに今年は一年生からは、すでにセラフィーヌ殿下が魔導科クラスからの参戦を表明していますよ」
うん。
セラはやる気満々だった。
メイヴィスさんと再戦して今度は勝つのだと張り切っていた。
セラとメイヴィスさんは去年、夏の旅の最中、アーレで行われた晩餐会での余興で一度戦った。
その時は、メイヴィスさんの圧勝だった。
果たして、今はどうだろうか。
楽しみだ。
そんなことをぼんやり考えている内、ホームルームはおわった。
先生が出ていく。
すぐにアヤが私の席にやってきた。
「ねえ、クウちゃん。クウちゃんって去年、学院祭に来たんだよね? どんな出し物があったの?」
「んー。そだねー。海鮮焼きの屋台とか、メイド喫茶とか、あと、ステージでコントみたいなのもやってたかなぁ」
「へー。中央広場でやるお祭りみたいな感じなの?」
「うん。そうかもー」
「私たちが勝利するために、ぜひとも詳しく聞かせて下さいな」
エカテリーナさんも来た。
他の女の子たちも、聞かせて聞かせて、と集まってきた。
先日のお茶会以降――。
なんとなくクラスを隔てていた前列組と後列組の区別は、少なくとも女子の間ではすっかりと消えた。
みんな、うん。
まだ10歳と少しなのに、処世術に長けているね……。
すっかり私とアヤを仲間扱いしている。
これは完全に、私が異国の王女で、しかもお兄さまと友好的な関係を築いていると知ったからだろう。
なにしろ、次の日から露骨だったし。
まあ、いいけど。
私は寛容なので、そんなことをチクチク言ったりはしないのだ。
アヤとエカテリーナさんは変わらないけど。
それは嬉しかった。
そんなこんなで、今日も1日が始まる。
そして。
あっという間に昼休み。
「疲れたぁぁぁ。もう駄目だぁぁぁぁ」
「あはは。クウちゃんは、いつもお昼でへたばるね」
「そりゃ、へたばるよぉ」
「ほら、食堂に行くよー」
と、教室でアヤに手を取られてグタグタしていると――。
なにやら廊下が騒がしくなった。
すぐに理由はわかる。
お兄さまの親友で、ブレンダさんのお兄さんで、メイヴィスさんの婚約者で、私の弟子でもある――。
がっしりした体格でいかにも体育会系な雰囲気のある、現在最高学年のウェイスさんが、開いたドアから教室に顔を覗かせた。
……ねえ、あれって。
……モルド先輩よね、次期辺境伯の。
なんて囁かれる中、ウェイスさんがへたばる私を見つけた。
「おお! いたか! いたぞ、カイスト!」
ウェイスさんが廊下の向こう側に声を投げかける。
さらに騒ぎが大きくなる。
と思ったら、それは一瞬のことで。
すぐに静まり返った。
「大きな声を出すな、ウェイス」
学内で唯一、赤いマントを身に着けた皇太子。
お兄さまが現れた。




