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526 実はねえ、あはは





 こんにちは、クウちゃんさまです。

 私は今、とても迷っています。


 今は、エカテリーナさんのお屋敷で、お茶会の最中――。


 クラスメイトの子から、ふわふわ工房のことと、舞踏会での出来事を聞かれてしまいました。

 ふわふわ工房の方は、まあ、いいとしても……。

 舞踏会でお兄さまにエスコートされたことを認めてしまっては、追加の説明がさらに大変だ。


 アレ、実は親戚の子なんだー。

 あはは。


 なんて感じで。

 最初、私は適当に誤魔化そうかなぁと思ったんだけど……。

 以前の記憶喪失事件のことが脳裏に浮かんだ。

 エミリーちゃんに見栄を張って、その見栄を守るために……。

 記憶喪失になったフリをしたら……。

 大宮殿を巻き込んだ大騒動になった悲劇だ。

 あの時は結局、みんなにごめんなさいをすることになった。

 恥ずかしかった。


 同じ失敗は、するべきではないだろう。


 嘘をついたり誤魔化したりしても、相手との付き合いが続くなら、どんどん苦しくなるだけだ。


「あの時は、お兄さまの方に適切な相手がいなくて、当たり障りのない私が選ばれただけなんだけどねえ」


 私は苦笑いしつつも、とりあえず認めることにした。


「……お兄さまって、もしかしてぇ、皇太子殿下のことぉ?」

「あ、うん。そうだけど……」


「皇太子殿下と親しいなどと……。マイヤさん。それが嘘であればハッキリと罪になりますよ?」


 エカテリーナさんが厳しい目線を向けてくる。


「だよねー」


 あはは。


 私は1人で笑った。

 いかん。

 ホールが静まり返ってしまった。


「まあ、ホント、他に人がいなかったから私になっただけで、べつに私自身はなんてこともないんだけどねえ」

「でもぉ……。異国の王女様だって聞いたけどぉ……?」

「あ、うん。それはね。そうなんだけどね……」


 私は、そんな設定になっているのだった。

 その設定は私だけの嘘じゃなくて、陛下がそうしておこうといって決まった帝国全体で通じる公式の嘘だ。


「……あのお、クウちゃん。マイヤ様?」


 アヤがおそるおそる私に声をかける。


「クウちゃんでいいよー」

「じゃあ、クウちゃん。クウちゃんって王女様なの?」

「まあ、そういうことになるけど……。でも、私、見ての通り、普通に暮らしているだけだからね。王女といっても、海を越えた本当に遠い国で、こうして今は帝国で静かにお世話になっているだけの身だし。だから、権力とか地位とか、そういうのはなんにもないんだよ」

「内乱とかあったの? 大変だったの?」

「うん。まあ、そんなところ。飲まれて消えちゃったんだ」


 お酒に飲まれておわったのが、私の前世だ。


「自然災害だったの……?」

「んー。人災なんだけどねえ。まあ、ごめん。それは言えないや」

「うん。わかった」


 アヤは引き下がってくれた。


 しーん。


 またホールが静まる。


 気まずい。


 すると、おずおずと1人の子が手を挙げる。

 エカテリーナさんに「どうぞ」と言われてからしゃべり始める。

 なかなかに律儀な子だ。


「ねえ、マイヤさんって、去年の学院祭には来ていた?」

「うん。来ていたけど……」

「もしかして、その時、皇太子様と一緒じゃなかった?」

「一緒だったけど……」


 ディレーナさん事件の時だね。

 懐かしい。


「やっぱり! 実は、そうじゃないかなーと思って! 私も密かにマイヤさんのことは気にしていたんだ」

「そ、そうなんだ……」

「私、2つ上の姉がいてね! 姉が噂していたの!」


「コホン」


 ここでエカテリーナさんが咳をして、一旦、その子の話を打ち切った。


「つまり皆さんは、意外とマイヤ様のことを知っていたわけですね。

 お話しする機会がなかっただけで。

 マイヤ様は、異国の王女殿下で、帝都の高級店に住んでいて。

 皇太子殿下にエスコートされた経験があり。

 皇太子殿下と学院祭で一緒に歩いたこともある、と」


 改めて聞くと、すごい設定だ。

 いや、設定なのは異国の王女ってところだけか。


「マイヤ様も、それならそうと言ってくれればよかったのに」

「わざわざ自分から人に喋ることじゃないよー」


 エカテリーナさんに言われて、私は苦笑した。

 エリカじゃあるまいに。

 まあ、うん。

 隠そうとしていたのは事実だけど。


「……それはそうですね。失礼しました」


 エカテリーナさんはすぐに納得してくれた。


「あと、マイヤ様はやめて。クウちゃん、ね。私、本当に帝都では普通に生活しているだけだよ」

「わかりました。クウちゃん、ですね」

「うん。よろしくっ!」


 他の子たちにもお願いして、あと、うちの店がべつに会員制ではないことを教えてあげた。

 ただし礼儀知らずは容赦なく追い出すよ。

 とは言っておいた。

 特に、私を庶民だと見下していた子たちの方を向いて。


 その後で、アヤが朗らかに言った。


「でもそれならさ、クウちゃんって、もしかして、セラフィーヌ殿下とも実は顔見知りだったりするの?」

「え。あ、うん。まあ……少しは、ね……」


 うなずくと、エカテリーナさんが食いついてきた。


「クウちゃん! 私のことは、何か聞いていませんか!? あと、なんとかお許しをいただきたいのだけど!」

「お許しって……。またそんな……。大丈夫だと思うよ」

「そんなのわかりません!」

「わざわざそんなことしないって。最初のお茶会だよ? どう考えても良い評判を作るに決まってるよね」

「それは……。言われてみれば、たしかに」

「でしょ」


 私は笑った。

 みんなも同意する。


 こうして初めての、クラスの女の子たちとのお茶会はおわった。

 最後の方は私の話ばかりだった気もするけど……。

 まあ、うん。

 おかげで随分と隠し事が減った。

 今までよりは気楽に学院生活を楽しむことができそうだ。


 というか私……。


 けっこう、あちこちで見られていたんだね……。


 何人もの子に、気にされていたとは……。


 私のことは、出来るだけでいいから、あまり他ではしゃべらないでほしいと一応お願いもしておいた。

 一応、みんな、うなずいてくれた。


 夕方――。

 帰宅してから――。


 私は、大宮殿の願い泉に飛んだ。

 するとセラがいた。

 目を閉じて、魔力を体内に循環させる訓練を行っていた。

 私が近づくと、すぐに気づいてくれた。


 私は、ちょっと気になったこと――。

 どうしてエカテリーナさんが、セラの記念すべき初お茶会のメンバーに選ばれたのかを聞いた。

 するとセラは言った。


「そんなのは決まっています。その女が、クウちゃんに取り入ってクウちゃんを利用しようとする者でないかを確かめるためです。お茶会の席では、徹底的に叩いてバケの皮を剥がしてやります」


「やめようね!? そもそも黒前提だね、それ!」


 あぶな!

 聞きに来てよかったよ!

 私はエカテリーナさんのことを、できるだけ丁寧に話した。

 セラは、いつもの優しい子に戻ってくれました。






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― 新着の感想 ―
[一言] 国が人災に飲み込まれて消えたと言ったら、またとんでもな誤解を産み出すよ。巨大な、世界を包む闇の伝説がまた一つ増えました。
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