524 閑話・セラフィーヌはついに決意した
夕食の席で、お姉さまに言われてしまいました。
「……セラフィーヌ。貴女、そうやってクウちゃんの愚痴を言うより先に……。まずは自分の身を振り返りなさい。貴女がそうやってクウちゃんにべったりしようとばかりするから、逆にクウちゃんがまわりに気を使って距離を取ろうとするのです。おかげでわたくしたちまで遠慮しているのよ」
すると、お母さままでが言うのです。
「クウちゃんはアレで、まわりがよく見えていますからね」
これではまるで、わたくしが、まわりが見えていなくて、ワガママばかり言っているようではありませんかっ!
わたくし、セラフィーヌは憤慨するのですが……。
今度はお父さまが笑うのです。
「はははっ! セラフィーヌもそろそろ覚悟を決める時だな」
「なんのですかっ!」
「決まっている。皇女主催のお茶会だ。本当なら半年は前に開いて、学院入学前に同年代とは知己になっておくものだぞ」
そうですよ、と、お母さまがうなずきます。
うう……。
わたくしは小さくなります。
反論はできません。
だって、わたくしにもそれはわかっているのです。
でも、知らない貴族の子となんて、なにをしゃべっていいのかわかりません。
わたくし、剣と魔術にしか趣味がありませんし。
他に話題といっても……。
クウちゃんのことしかありません……。
クウちゃんのことならいくらでも話せるので、スオナちゃんやアンジェちゃんとはすぐに仲良くなれましたけど。
アンジェちゃんとは、前から仲良しでしたけど……。
お姉さまが言います。
「そもそもセラフィーヌは、未だにクウちゃんの世界でしか生きていないでしょう? 今親しくしている人たちは、みんな、クウちゃんに関わる子よね。自分の世界を持たないといけませんわ」
「ううう……」
お姉さまもお母さまもお父さまも酷いです。
わたくしは食事をおえて、部屋に閉じこもりました。
ベッドに倒れて、枕に埋まります。
…………。
……。
わたくしは顔を起こしました。
本当は自分でも、わかっているのです。
このままじゃダメだって。
お姉さまの言う通りです。
わたくしは、クウちゃんによりかかるだけではなくて……。
支えてあげられるようにならねばなりません。
そのためにも……。
ちゃんと、自分の世界……。
ああああああっ!
そんなの、どうしていいのかわかりませんっ!
わたくしはまた枕に顔を埋めて、悶えるのですが……。
やっぱり身を起こしました。
部屋を出ます。
お姉さまの部屋のドアをノックしました。
「お姉さま……。いいですか?」
『ええ。どうぞ』
許可をもらって、わたくしはドアを開けました。
お姉さまの部屋に入ります。
「……あの、お姉さま」
「はい。これ」
お姉さまが、一枚の紙をわたくしに手渡します。
そこには、ずらりと名前がありました。
「リストアップはしてあります。貴女がお茶会に誘っても問題ない帝都在住の同年代の子たちです。適当でいいから選んで、お誘いのお手紙を出しなさいな」
「お姉さま――」
「貴女の同級生――魔術科1年生の生徒は外してありますからね。そちらは別個でやりなさい」
わたくしはリストに目を通します。
当然ながら、知っている名前はありませんでした。
「わ、わかりましたっ! ありがとうございますっ! わたくし……。もはや一か八か決死の覚悟です! クウちゃんを支える立派な皇女になるため、今度こそはお茶会を開きますっ!」
「ええ。がんばってね」
「はい!」
リストを握りしめて、わたくしは部屋に戻りました。
誰を誘うのか。
決めねばなりません。
最初は何人くらいがいいのでしょうか。
クウちゃんの11月のお茶会では、8人が来ていましたが……。
フェレットだったリトさんも加えれば9人ですね……。
わたくしには多すぎる気がします……。
4人くらい、でしょうか……。
わたくしはペンを手に持って、目を閉じて、えいっ、と丸を打ちます。
2人、それで決めてしまいました。
あと1人です。
と、ここでわたくしは、ある1人の名前を思い出しました。
エカテリーナ。
クウちゃんを、お屋敷に誘った子です。
このわたくしを抜きにして!
許せませんっ!
その名前は、お姉さまのリストにはありません。
どんな子なのでしょうか。
クウちゃんのお友だちとして相応しい子なのでしょうか……。
あるいはまさか……。
クウちゃんを利用しようとしているだけの……。
悪党なのでは……。
だとすれば、絶対にバケの皮を剥がさねばなりません……。
わたくしが……。
確かめねばなりません……よね……。
こうしてわたくしは、皇女として自分で主催する、生まれて初めてのお茶会に挑むことになったのです。




