516 3月、春近し
こんにちは、クウちゃんさまです。
私は今、自分の部屋で椅子に腰掛けて、窓越しの帝都の景色を眺めています。
今日は雨です。
帝都の景色も濡れています。
ただ、枯れていた木々は色づき始めています。
冬はおわりました。
そして今、春が近づいています。
冬にもいろいろなことはあったけど、おわってみればあっという間。
ナオは今、なにをしているんだろう。
あれから――。
竜の里で久しぶりに4人で過ごしてから、ナオは海辺の村に戻った。
今は、獣人解放軍にいる。
噂は少しだけ届いていた。
ついにド・ミ国の復興を目指す一団が旗を掲げた、と。
正当なる獣王家の血筋が立ち上がった、と。
かつてギサス王国があった死の大地に近い不毛の辺境に砦を築いて、獣人戦士に参集を求めている、と。
遠からず反撃の狼煙は上がるだろう、と。
ちなみに浜辺の村人は、そのまま浜辺で暮らしている。
私の設置したアイアンゴーレムに、多大なる安心感を抱いたらしい。
まさに守護神として崇められていた。
実際、強いしね。
レアアイテムを使って生成した貴重なゴーレムなので、実は帰る時に回収するつもりだったんだけど……。
崇められてはしょうがないので、そのまま残してきた。
私の日常は穏やかだ。
オダンさんの奥さん――エマさんは、無事に出産した。
私はお祝いした。
エミリーちゃんも大いに喜んでいた。
ロックさんたちは、久しぶりにザニデアのダンジョンに行って、また大いに稼いで帰ってきた。
ロックさんは相変わらずのヘタレだ。
ブリジットさんとは、付かず離れず、パーティーでも姫様ドッグのお店でも一緒に仕事をしている。
帝都では、皇女殿下の世直し旅の新舞台公演が始まった。
私は初日に見に行った。
セラと一緒に見に行きたかったけど、セラは恥ずかしがって、自分が主役の公演には来なかった。
舞台挨拶にはカイルくんがいた。
なんと、今回の舞台は、カイルくんの手によるものだと言う。
私が最初に出会った時は、ザニデアのダンジョン町で治療師の妹に寄生している駄目な兄だったけど――。
今では押しも押されぬ若手吟遊詩人のトップだ。
人間、本当に、人生なんて、どうなるかわからないものだ。
ちなみに首席争いの結果は――。
まだ公表されていない。
されてはいないけど、結果はすでに判明している。
ある日、遊びに行くと、セラがずどーんと落ち込んでいた。
今年度の新入生の首席はスオナだった。
おめでとう。
会ってはいないけど、私は心の中で祝福した。
セラについては、慰めるのが大変だったけど、今では気を取り直して元気にしてくれている。
ありがとうございましたーっ!
下から元気な声が聞こえた。
エミリーちゃんの声だ。
今日は、エミリーちゃんが1人で店番をしている。
エミリーちゃんは、エマさんに赤ちゃんが生まれて大忙し――。
に、なるかと思ったけど――。
今のオダンさんには、家政婦さんを雇う余裕がある。
やはりクウちゃんのところで修行させてやってほしいとオダンさんとエマさんに頼まれて私は了承した。
オダンさんとエマさんは、エミリーちゃんには、家の手伝いよりも自分の道を進んでほしいようだ。
エミリーちゃんは週3日、うちで働くことになった。
お店は、週3日オープンの予定でいる。
この世界は一週間が6日。
なので、半分はお休みということになるけど、まあ、十分だろう。
ただ、エミリーちゃん1人ではさすがに不安なので――。
エミリーちゃんはしっかりしているけど、まだ8歳だし――。
誰かいい人はいないかなー。
と、探していたところ。
なんと。
春から当面の間、フラウが手伝ってくれることになった。
ハースティオさんたちの話を聞いて、自分もヒトの世界で生活してみたくなってしまったらしい。
フラウは見かけこそ幼女だけど、その中身は古代竜の長。
うん。
どんな暴漢が来ても安心だ。
悪魔が襲ってきても撃退できてしまう。
陛下も了承してくれた。
ついでにフラウは、皇帝直下の相談役にも就任した。
え、いいの、それ。
とは思ったけど、悪魔を警戒するならフラウの存在は実に心強い。
まあ、出勤とかをする必要はなくて、相談がある時には乗ってくれると嬉しいという程度のものみたいだけど。
その話を聞いたユイは、ずるいと泣いた。
まあ、うん。
王国と帝国に竜がついて、聖国にだけいないしね。
竜の人は闇属性だから、光属性の聖国には行きたくないようだ。
あんまり泣くものだから、月に一度は休日に、ソード様になってあげる約束をしてしまった。
面倒だけど仕方がない。
エリカは絶好調だ。
最近は、良い噂しか聞かない。
ただ、獣人解放軍とトリスティン王国が戦争となった時、どう動くかで難しい判断を迫られているようだ。
トリスティンからは、強い同盟を求められているらしい。
エリカの賢明な判断に期待しよう。
ちなみに、国王陛下のお父さまや王太子のお兄さまは、とっくにエリカの言いなりなのだそうだ……。
あ。
お店の前に馬車が停まった。
前後には護衛の騎士がついている。
しばらくすると、
「店長ー! セラフィーヌ殿下がおいでになりましたー!」
と、階段からエミリーちゃんが声をかけてくる。
お店で働いている時、エミリーちゃんは私を店長としか呼ばない。
セラや他の友達のことも馴れ馴れしくは呼ばない。
従業員としての心構えや言動については、休みの日にウェルダンから厳しく教育されているようだ。
ウェルダンって……、大丈夫なの、それ?
と話を聞いた時には思ったけど、大丈夫のようだった。
「はーい! 今行くねー!」
今日はこれから、私とセラとエミリーちゃんで、帝都にやってくるアンジェのお迎えに行く。
アンジェは遂に住み慣れたアーレを離れて、この帝都で暮らす。
帝都中央学院で寮生活の始まりだ。
でも、その前に。
3日ほど、うちで寝泊まりして大いに遊ぶ予定だ。
明日は、ゼノとアリスちゃんも来る。
アリスちゃんは、セラにアンジェ、エミリーちゃんと会うのはこれが初めてだ。
仲良くなれるといいけど。
ゼノには、過保護になりすぎないよう、よく注意しておいた。
そんなこんなで。
私たちは――。
4月。
新しい季節を迎えようとしていた。
現実世界で夏がおわろうとしている中……。
異世界では冬がおわろうとしているのであります\(^o^)/
次回から学院編です!
 




