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私、異世界で精霊になりました。なんだか最強っぽいけど、ふわふわ気楽に生きたいと思います【コミカライズ&書籍発売中】  作者: かっぱん


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511 閑話・村娘ラスカが見た3つの光





 わたしはラスカ。

 2歳になったクナ様のお世話をしつつ、海辺の村で平和に暮らしていた17歳の狸族の娘です。

 特技は干物作り。

 町に持っていけば、それなりの値段で買ってもらえます。


 ……もう、作ることもないのだろうけど。


 深夜。


 わたしたちは腐った死体や骸骨の群れに襲われて、まるでゴミのように無造作に砂浜に集められました。


 わたしは背中を斬られました。


 血がたくさん、流れているのがわかります。


 最初は痛くて、熱くて、恐怖にも震えたけど……。

 今はもう、ぼんやりとしています。

 体も冷たいです。

 でも、ぬくもりはあります。

 それは、わたしが抱きかかえている、クナ様の体温。

 わたしは頑張りました。

 クナ様だけは、守れたんじゃないかと思います。


 まわりにいる村の人たちは、わたしよりもずっと酷い状態です。

 腕や足を引き千切られた人もいます。

 もう死んだ人も、いると思います。

 わたしもたぶん、もうすぐ、死ぬんだと思います。


 まわりにはたくさんの死霊がいて。


 眼の前には、黒いドレスを着た灰色髪の悪魔の少女がいて――。

 魔物そのもののような、巨大な悪魔もいて。


 そして、ナオがいました。


 ナオは、殴られても蹴られても叩きつけられても、巨大な悪魔に許しを請うことをしようとしません。


 また、今――。もう体なんて動かないのに――。

 強い視線だけを悪魔に向けました。


 でも、それは――。


 相手をさらに、残虐にさせているだけです。

 どこまでも、いたぶられるだけです。


 だからもう、反抗なんてしなくてもいいのに――。

 どうせ勝てないし――。

 私たちは、なんにもできないんだし――。

 あきらめて、あとは――。

 相手の言う通りに、泣いてお願いして――。

 できるだけ優しく、痛くないように殺してもらえばいいのに――。


 ぼんやりした意識の中、わたしはそう思ってしまいます。


 ナオは蹴られ続けます。

 容赦なく――。

 何度も何度も、蹴り飛ばされています。


 でも、何かが――。


 起きているのかも知れません――。


 無情な暴力を受けるばかりのナオの体からは――。

 わたしの幻覚でしょうか――。


 白と黒の、不思議な光が、滲んでいるようにも見えます。


「ねえ、そいつヤバくない? この状況で、メティちゃんが感じるに、なんか魔力が膨張しているっぽいけど」

「まったく銀狼というのはしぶとくて困ります。ですが、だからこそ最良の生贄となってくれるのです。……とはいえ、そうですね。あまり油断をしすぎるのはよくありませんか」


 嬲る手を休めて、フォグという名前の悪魔が言います。


「なら殺そ。こいつは連れて行かない方がいい。ていうか、体の確認ついでに私にやらせてよ」

「では、お願いしていいですか? 私は本命の方を回収しておきますね」

「任せて♪」


 メティネイルという女の子の悪魔が笑顔でうなずいた時――。


 身を起こしたナオが咆哮を上げました。

 白と黒の眩い光が、ナオの体から溢れて渦巻きます。


 一体、何が起きているのでしょうか……。


 わたしはその光景を、ただ見つめました。


「なおー! なおー!」


 わたしの胸の中で、クナ様が泣きながら声を上げます。


「ちっ――!」


 メティネイルが長く伸ばした爪を振りかざして、ナオに襲いかかります。

 それは黒い閃光のような――。

 目にも止まらない一撃でした。


 攻撃が届き――。


 メティネイルが腕を伸ばしたまま、動きを止めました。


 白と黒の光がナオの中に吸い込まれるように消えます。

 そして、薄い衣装のように――。

 ナオに2色の輝きをまとわせます。


「ちいいっ! 離せ! このっ!」


 ナオが表情もなく、メティネイルの伸ばした腕――その手首をがっちりと片手で掴んでいました。

 爪は、顔の前で止まっています。


 ナオの手を振りほどいて、メティネイルがうしろに飛び退きます。


 ナオは、どうなったのでしょうか――。


 そこにいるのはナオなのに、まるで別人のように感じます。


 砂浜に落ちていた短剣をナオは拾い上げます。


 戦いが始まりました。


 ナオの短剣とメティネイルの爪が正面からぶつかります。

 ナオの短剣から、白と黒の光がきらめきます。

 何度かぶつかった後、今度はメティネイルが怒りの咆哮を上げました。


「たかが家畜風情がぁぁぁぁ! これじゃあまるで、このメティちゃんが、ただの雑魚になっちまうじゃねぇかよぉぉぉぉ!」


 ああ……。


 メティネイルもまた、遊んでいたようです。


「雑魚がよぉぉぉぉぉぉぉ!」


 筋肉を漲らせた次の一撃で、ナオは吹き飛ばされて――。


 いえ――。


 倒れることなく、折り曲げた膝をバネのように反発させて、そのままメティネイルに短剣を振りかざしました。


「ダブルスラッシュ!」


 左右からほとんど同時に振られた短剣が少女の悪魔に襲いかかり――。

 それをメティネイルは交差させて腕で防ぎますが――。

 反撃はせず――。

 いいえ、できないのでしょうか――。

 舌打ちして後方に下がりました。


 わたしは悪魔フォグにつまみ上げられました。


 抵抗はできません。


 されるがまま、わたしはぶらりとしました。


「さあ、その子はいただきますよ」


 ああ……。


 わたしにしがみついていたクナ様が、フォグの手で引き剥がされます。


 わたしは、砂浜に投げ捨てられました。


 クナ様はじたばたと暴れますが、悲しいけど……、無意味です。


「なおー!」


 だけど、クナ様の声は――。

 届きました。


「トリプル――スラッシュ――!」


 飛び込んできたナオが、3つの閃光のような剣撃を――。

 フォグの上腕に横から放ちます。


「なっ!」


 フォグがわずかにぐらつきました。

 その隙に、ナオは、クナ様を取り戻すことに成功します。


 フォグが、ゆっくりと、自分の腕に手を当てます。

 そして――。

 ほんのわずかながらでも皮膚が切られていることに、青い血が流れていることに気づきました。


「……家畜の分際で。何をしてくれるのでしょうね」


 ぞっとするほどに静かな声でフォグが言いました。


「メティ、しっかりしてください。家畜を暴れさせてどうするのです。こちらに来てしまいましたよ」


 フォグが呆れた声で、メティネイルに言います。


「殺してやる! 次で確実に! 一撃で! 全身を引き裂いてやる!」


 メティネイルがさらに力を漲らせます。


「何を言っているのですか。まずは手足を引きちぎりますよ。喰われる側の分際で反抗すればどうなるのか、しっかりと教えてあげましょう」


 その横にフォグが並びます。


 ナオは、そっとクナ様を砂浜に下ろしました。


 そして――。


 たった1人で、2人の悪魔に対峙します。


 周囲からは死霊の群れが近づいて来ています。


 もう、駄目なのでしょう。


 ナオはとっくに満身創痍です。

 全身に白と黒の不思議な光をまとっているものの――。

 その全身は血まみれで傷だらけで――。

 肩でも背中でも、体のすべてで必死に呼吸をつないでいる感じです。


 ナオ、まだ動けるなら……。


 クナ様を連れて逃げて……。


 わたしは最後に、それだけを願いました。


 わたしは仰向けでした。


 紫色の霧に閉ざされてしまった、汚れた暗い空を見上げます。


 最後に、星が見たかったな……。


 わたしはそう思いました。


 でも、星は見えませんでした。


 かわりにわたしが最後に見たのは――。


 なんだったのでしょうか――。


 それはただの、死ぬ前の幻覚だったのかも知れません。


「――緊急事態です。転移しますよ、メティ」

「はぁ!? なんで! まさか、このメティちゃんたちが、こんなチビ雑魚ゴミクズに負けるとでも!」

「いいから早く来なさい!」

「ちょ! ま!」


 最後に、フォグがナオに冷たい声で告げます。


「――貴女は、覚悟しておきなさい。飼い主様に逆らった畜生がどのような報いを受けるのか――。必ず教えてあげます」


 フォグとメティネイルの姿が、紫色の霧の中に消えます。



 わたしが最後に見たもの――。


 それは、汚れた闇空を斬り裂く、青い光でした。






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― 新着の感想 ―
[一言] やっとカメが勇者に進化すると思いきや、お笑い系精霊にお笑い色に染め直してしまったか。
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