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506 ナオ・ダ・リムの物語2 (ナオ視点)




 2人の大男は村の外れにいた。

 雑木林から山間へと抜ける土くれの道の始まりのところだ。


 1人は熊の獣人、ダイ・ダ・モン。

 鋼のような肉体に革鎧をまとって、背中に戦斧を担いだ、全身毛むくじゃらの見上げるような大男だ。


 もう1人は、黒豹の獣人だった。

 ダイ・ダ・モンと比べれば小柄だけど、普通の人間の大人と比べれば、遥かに長身で体格も立派だ。

 こちらも革鎧を身に着けて、背中には弓を背負っている。

 腰は2本の曲剣があった。


 ダイ・ダ・モンのことは覚えている。

 まだ平和だった頃――。

 幼かった私によく笑いかけてくれた、お父さんの側近だった戦士だ。

 当時は、あまりに豪快であまりに大きなその笑い声が怖くて、お父さんの背中に隠れたものだった。


 黒豹の男のことは知らない。

 誰だろうか。

 歴戦の戦士であることは、ハッキリとわかるけど。


 私は歩いて近づいた。


 お互いの姿は、すでに見えている。


 握手を交わせるほどの距離になったところで私は口を開いた。


「――ダイ・ダ・モン。久しぶり」

「お、おお……。おおお……」


 私の姿を見て、ダイ・ダ・モンは何を思うのだろう。

 彼の声は震えていて、言葉にはなっていなかった。


「――遂に居たか」


 黒豹の男が冷たい声でそう言う。

 私のことを見下ろす目も冷たいものだった。

 品定めするかのように。


「用は?」


 私は黒豹の男にたずねた。


「私は黒豹族のジダ・ボヤージュ。かつてのド・ミの国で、ノレダ森林の警備隊長を務めていた者だ」

「私は銀狼族のナオ・ダ・リム」

「ダ・リム――だと――。いくら銀狼族とて、戯言で名乗って良い名ではないが――?」


 ジダと名乗った男が、威嚇するように睨みつけてくる。

 次の瞬間にはダイが大声を上げた。


「バカ野郎! 失礼な口を利くな! この俺様が証明してやる! こちらにおわすお方こそは、正真正銘、かの戦士長のご息女にして我らが探し求めた獣王家の血を引くお方――ナオ様であらせられる!」

「――失礼いたしました。姫、どうかお許しを」


 すぐさまジダが片膝をついて頭を下げてくる。


「気にしなくていい。ダイも大げさ」


 ダイの言葉は嘘ではないけど、私はそこまで言われる存在ではない。

 とっくに国も何もないのだし。


「姫! よくぞご無事で! このダイ・ダ・モン! 人族共の奴隷となり、魔道具に縛られ、鞭打たれながらも――。この日だけを信じ――。いつかこの日が来ることだけを信じて生き延びて参りました――。よくぞ――。よくぞ、あの戦火と獣人狩りの中を――。生き延びて下さいました」


 ジダの横で片膝をついたダイが、語りながら男泣きする。

 ダイは懐かしい顔だ。

 再会できた嬉しさはある。

 だけど今は、むしろ警戒心のほうが強かった。


「ここに来た用は?」


 私はたずねる。


「姫! そうだ! 我々は噂を聞いて、この村を探して来たのです! ニナ様もご一緒に居るのでしょうか!?」

「ニナお姉ちゃん様は――。病気で他界した」

「そう――。でしたか――。無念です」

「うん。残念だった」


 本当に――。

 私も会いたかった。


「――同士ダイ、我々には時間がない。姫にあの事を」

「ああ、そうだな……」


 ジダの言葉にうなずき、ダイが私に言う。


「姫、我らと共に来てはもらえませんか? 今、我らの多くはトリスティンの支配から脱し、続々と海洋都市に集まっています。トリスティンに蠢いていた悪魔共は聖女ユイリアの手で討たれ、トリスティンは大幅に弱体しました。今! 今こそが祖国奪還の好機なのです! どうか我らの御旗となり、我ら獣人部族一同を率いてはいただけませんでしょうか!」

「無理。私には経験がない」

「経験など不要です! 獣王陛下の血を引く――。ただそれだけで、我らは集うことができるのです!」

「無理」


 私は繰り返した。


「姫! どうか我々を信じて下さい! 我ら一同、身命を賭して祖国奪還のために戦う覚悟です! 死しても勝利を! そして、我らが故郷をこの手に取り戻し、亡き者達に獣王国復活の報告を!」


「――姫。幸いにも我らが先に辿り着くことができましたが、すでに王国の者共も姫の噂を聞き、探索をしております。

 首謀者は、かつて我らの故郷を蹂躙し、現在でも我らの土地を支配するエシャーク・フォン・ヘルハイン。

 残虐な男です。

 このままでは遠からず、この地に凶刃が向けられることとなります。

 先手を打たねば悲劇となるだけなのです。

 ヤツは姫の血を以て、再び悪魔の召喚を行おうとしているようです。

 どうか我らと共に獣人解放軍を立ち上げてはくれぬでしょうか。

 我ら獣人は部族ごとの我が強く、獣王家の下でなければ、どうしてもひとつの集団になれぬのです」


 ジダが冷静に語り、懇願する。


 私は、否定も肯定もすることができなかった。


 ダイの気持ちは痛いほどわかる。

 ジダの言葉には説得力があった。


 トリスティンとしては、獣王の血筋を根絶やしにしたいのだ。

 それならいっそ――。

 私が表に立ち、目立つことで――。

 まだ2歳の小さなクナは、その存在を知られることなく、静かに平穏に暮らすことができるのかも知れない。


 私は――。


 戦うしかないのかも知れない。


 祖国奪還――。


 それは私が、転生の時に私自身で定めた、私の生きる目的。

 宿命だ。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 当座、クウがナオ関係で絡むとしたら…… 1 更なる武技の習得+他の獣人達への指導 2 トリスティンにいる(かもしれない)残りの悪魔の討伐 3 金虎族との仲介 が主なところでしょうか…
[一言] あれ?読む小説間違えたかな? 凄いシリアスだΣ(・ω・ノ)ノ! 助けて!クウちゃん様\(^o^)/
[一言] ユイにはクウ(精霊姫)が エリカには竜が ナオには何が味方するのか…クウちゃんがまた偽名でナオ親衛隊始めるのかな
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