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504 実技試験!





 さあ、魔力測定がおわって、次は実技の時間だ。


 ここからは普通に姿を見せて、ギャラリーの人たちと一緒に練習場に面した通路から見学していこう。


 実技では、得意な魔術を披露していくようだ。

 奥には複数の的も設置されていた。


 最初の子は、杖を握って、力強い声で呪文を詠唱して、杖の先から生み出した石つぶてを的にぶつけた。

 ギャラリーから拍手が起こった。

 入学前から魔術が使えるのは、一般的には、それだけですごいことなのだ。


 実技試験は、現段階で魔術を使える受験生だけで行われる。

 参加するのは、ほぼ貴族の受験生だ。


 実技試験は、魔力値の測定と同じ順番で行われていった。


 お。


 魔力値の測定で自信満々だった貴族の少年、ナッシュくんの番が来た。

 太鼓持ちのヨイドくんが声援を送る。


「フ」


 と、ナッシュくんはキザっぽく髪をかきあげて、こう言った。


「魔力の数値の大小が、魔術の決定的な差ではないことを……。

 教えてあげましょう」


 どこの某アズナブルさん!?

 もしかしてアナタ、転生者ですか!?


 あぶない……。


 危うく叫ぶようにツッコミを入れるところだった。


 さあ――。


 私が動揺している内に、杖を掲げたナッシュくんが呪文の詠唱を始めた。


 そして、杖を前に突き出す。


 おおっ!


 杖から飛び出した3本の火の矢が、まるで肉食獣の爪のように唸りを上げて3つの的をそれぞれに貫いた。


 これはお見事。


 ただぶっ放すだけじゃなくて、ちゃんと3本の火の矢をコントロールできているのが特にすごいと思う。


 ギャラリーからは大きな拍手が起きた。

 私も拍手した。


 ナッシュくんも満足げだ。


 ただ、うん……。

 気を強く持ってね、ナッシュくん。

 君は立派だから。

 口だけでなく、ちゃんと鍛錬しているのは、よくわかったから。


 アンジェの番が来た。


 アンジェも、みんなと同じように杖を握る。


 フェアリーズリングを始めとした私制作のアクセサリー類は、当然ながら身につけていない。


 ナッシュくんは腕組みして、いかにも上から目線で、さあ、どれだけやれるか見てやるよ、という態度だ。


 私も楽しみだ。

 アンジェやセラがどんな魔術を披露するのかは聞いていないし。


 アンジェは呪文を詠唱しなかった。


「ファイアストーム!」


 叫んで、杖を振り上げた。


 それは、火の魔力と風の魔力を複合させた、2属性持ちのアンジェにしか使いこなせない魔法だった。

 炎をまとって吹き上がる、強烈な竜巻だ。


「な、なななな……」


 そのあまりの迫力にナッシュくんは尻持ちをついて、顎を震わせて、口をパクパクとさせてしまう。

 無詠唱でこの威力なのだ。

 ギャラリーや受験生だけでなく、教官の人たちまでもが呆然としていた。


 さすがはアンジェだね。


 続けてスオナの番。


 スオナはゆっくりと呪文を詠唱して、空中に大きな水の塊を生み出した。

 それだけでもすごいんだけど、その水の塊をうねらせて、空中で水龍のような姿に変えてみせた。

 さらに、その水龍を見事に踊らせた。


 平和の英雄決定戦で見た、ブリジットさんの芸に近かった。


 さすがにブリジットさんの精密な制御には劣るけど、それでも十分に私は感動して見ることができた。


 最後にスオナは、水龍を霧に変えて空の中に消した。


 素晴らしい。


 みんなで拍手して称えた。


 そして――。


 最後にセラの番となった。

 いつの間にか、ものすごくギャラリーが増えている。

 アンジェとスオナが派手に魔術を披露したせいもあるけど、なによりみんな光の力に興味があるようだ。


 セラが披露した魔術は、アンジェやスオナと比べれば地味なものだった。


「――光の加護を。ブレス」


 セラが掲げた杖の先――。

 空中から光のかけらが地面に降り注いだ。


 一礼して、セラは下がる。


 わからない人は、え、それだけ、という顔をしていた。


 だけど1人の老教師が叫んだ。


「儂は――。儂は見たことがあるからわかる! 今のはまさに、かの聖女ユイリア様と同じ光の祝福の力じゃ!」


 別の誰かがつぶやいた。


「帝国にも、聖女様が生まれたんだ……。皇女殿下の世直し旅は、やっぱり本当のことだったんだ……」


 感動は静かに会場全体へと広がっていった。

 やがて爆発するように「帝国万歳! 皇女殿下万歳!」の声が響いた。


 すごいねえ。


 やっぱり光の魔力は、特別のようだ。


 セラは謙虚に、無言で微笑みを浮かべていた。

 まあ、うん。

 たぶん、困っているのだろう。

 こんな時、「ありがとー!」って、大喜びで手を振るタイプではないしね。


 かくして実技はおわった。


 果たして、最高得点を出して――。

 入学式で首席として挨拶するのは、誰になるのか。


 ちなみに首席となるのは、毎年確実に魔術科か騎士科の受験生だ。

 普通科の受験生はなれない。

 何故なら、首席を決める際には、魔術実技と戦闘実技の得点も1科目として加算されるからだ。


 私の見立てでは、騎士科によほどすごい受験生がいなければ――。

 首席はスオナかなと思う。


 アンジェは、実に派手に魔法を披露したけど――。

 悪い言い方をすれば、魔力全開で、ぶっ放しただけとも言えてしまう。


 セラは、人を感動させたという点では間違いなくトップだ。

 ただ……。

 真摯な気持ちから祝福の魔法を使ったのだと思うけど――。

 全力の魔力も緻密な制御も、アピールはできていなかった。


 スオナは、高い魔力を見せつけるかのように空中に水の龍を浮かばせ、綺麗に踊らせることまでした。

 実技試験としては、完璧ではなかろうか。


 3人は、筆記試験は、ほぼ満点だろう。

 なにしろ優等生だ。

 しかも、バッチリ出来たと言っていた。

 となれば、この魔術実技試験の差で、順位は決まる。


 まあ、でも。


 私は試験官ではない。

 それに、3人とも応援している。


「おつかれさまー!」


 私は、試験会場から出てきた3人を、友達として笑顔で出迎えた。






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